テルミン
族長アレックスが危機である。
私ことホルローはいらだっていた。
せっかく最強の翼を手に入れたというのに。
まだ彼に真実を話してないのだ。
……彼は我らと同族に違いない。
だが風の匂いはしない。
森の匂いもしない。
彼はもっと神聖な存在だ。
彼は伝説の上位種に違いない。
私は計器を見た。
高度計も水平器も問題はない。
視界に頼らず計器だけを見て操縦する技能も身につけた。
一族の男たちを殺したドラゴンを狩る牙を手に入れたのだ。
早く助けねば。
「ルエヴィト発射」
計器の照準を合わせミサイルを射出する。
シルヴィアが思いっきり力を込めた火炎呪文の弾頭にアレックスが生成した特別な油を搭載した巨大な矢が火を噴いた。
油に着火することによって物理攻撃になるそうだ。
うん。よくわからん。
アレックスは都市や森を焼き払うための武器だと言っていた。
着弾した矢が炎を上げ、水平器が警告を発する。
爆風で煽られただと!
どれだけの威力だ!
計器を見ると炎の大きさはテスト時の数倍に膨らんでいた。
何があったのだ!
だがこちらも散々厳しい訓練をくぐり抜けてきたのだ!
この程度のアクシデントなど気合いで乗り越えてくれるわ!!!
◇
上で音がした。
地上は炎に包まれているに違いない。
バカがとうとうマップ兵器を開発しやがった。
それを個人に使う時点で間違っているのだ。
アレックスのバカはまだ動かない。
アレックスによると、少し待ってから上に出ないと酸素不足で死ぬらしい。
全く面倒くさい武器を開発したものだ。
「これだから理系は……」
我がそう言い放つと、歌が聞こえた。
いつもの上品な歌ではない。
白目を剥きながら○ァックとか○ットを連呼。
神死ねとか涅槃がうんたらとか天使をボコ殴りとかと人格を疑うような歌詞なのだ。
あ、光った。
これでもヒールにはなるのか!
だんだん嫌な方向で器用になっていくのだ。
「……誰が理系ですって!」
バカが起きた。
我が呆れているとバカが続ける。
「あのねえ! 私は文系です!」
「はい?」
「いやだからね! 私の専門は地方自治です! 一応、かなり前の前世だと博士号持ってるんですよ! これでもインテリなんです! えっへん」
「はい?」
バカが発狂した。
どこの世界にミサイル開発する地方自治があるのだ?
そのそも魔王は国政レベルの存在だろ?
「なんで地方自治なのだ?」
「いやほら『地方自治は民主主義の学校』でしょ?」
魔王なのに民主制なのか!!!
ツッコミが全く追いつかない。
バカもこちらの空気を感じたのか無理矢理話を変えた。
「さーて、魔王様に逆らったバカの末路を見ましょう!!! 完全勝利!!!」
あー。ダメだこいつ。
ついさっき負けたの完全に忘れてるのだ。
◇
つーわけでやってきました。
はい。錬金術師どこだ!
殴る! 馬乗りになって殴る!
んで海賊党もぶっつぶす!
おどりゃああああああああああッ!
私は目を赤くして鎧の男を捜します。
まだ生きてるのは気の反応からわかってます。
とにかく殴るのです!
「おいアレックス! いたぞ!」
シルヴィアが指を差した方を見ると半分溶けた鎧が転がってました。
中は空洞……というか鎧に無理矢理砂を詰め込んだ状態です。
なんかこれ見たことあるぞ。
よく魔王城の防犯システムとして配置されるやつ……
「デュラハン!」
「違うぞ。たぶん動く鎧の方なのだ。そうか内部破壊が効かないのは中身がないからだ」
あー。なんかめんどくせえ工作してますね。
しかもせこい。
……なんか急に親近感がわいてきたぞ。
それは置いて、とりあえずこいつを捕まえれば終わりです。
あと拷問して口を割らせればいいだけの楽な仕事なのです。
勝ち名乗りを上げねば。
「えーっと……逮捕しちゃうぞ! ずぎゅーん♪」
ろり太郎が殺すぞという顔をしてます。
超怖いです。
なぜ今から家庭内DVに怯えなければならないのか?
この世は理不尽です。
横を見ると巨大怪獣どもも虫の息でした。
完全に丸焼けになっていないことを考えるとオリハルコンで集団でボコるよりもダメージ自体は小さいのかもしれません。
今度はオリハルコンコーティングの弾丸とかも試してみましょう。
うふふふ。
そうそう。
無益な殺生はよくありませんので回復してやりましょう。
歌は自作のブラックでメタル的な聖歌です。
よし元気よく歌いましょう!!!
「ふぁああああ○ああああああっく!」
空気を読んだマナによってピーッ音が鳴り響きました。
私の作詞した曲が妨害され続けます。
もしかしてマナって生き物なんでしょうか?
そんなくだらないことを考えていた私にあの事件が起こったのです。
◇
ふよふよふよふよふよーん。
何かの音がしました。
それはテルミンの音でした。
テルミン。
いわゆる初期の電子楽器です。
空間で手を動かすと音が鳴る不思議な楽器で、仕組み自体は人間を可変コンデンサーにしたラジオ的な機械です。
ふよふよとした音が特徴で映画の効果音などにも使われます。
特にホラーとSFで。
物理キーがないため演奏の難易度が理不尽なほど高く人気はあまりありません。
バーチャルコントローラーでやるアクションゲームみたいなもんですね。
ふよふよふよふよーふよーん。
テルミンが鳴り響いています。
「はい? テルミン?」
「テルミンだな」
私たちが何事かとクエスチョンマークを頭の上に出していると轟音がしました。
空気が揺れるゴゴゴゴゴという音。
全力で嫌な予感がする私たちが上を見上げると巨大な物体が見えました。
それは空飛ぶ円盤。
「いやあのね。確かに私の戦闘機と戦わせてみたいにゃーとか思いましたよ! でもねマジで出るのは反則っつーか!!!」
私は必死に言い訳をします。
それは予想の斜め上でした。
確かに何かしらやってくるとは思ってました。
神いわゆるゴッドが。
ええ思いましたとも。
だからエリザベスに裏で動いてもらったのですよ!
でもね、でもね……これ反則でしょ!
それはアンアイデンティファイド・フライング・オブジェクト。
いわゆるUFOでした。
安っぽい電飾を光らせながらUFOから声がしました。
テルミンを音声合成して喋っているようです。
無駄に技術力が高い!
「ワレワレ ハ ゼッタイシン ダ」
死ねよ。
氏ねじゃなくて死ねよ。
マジで死ねよ!
私は考えつく限りの全ての罵倒をしました。
エレガントさのかけらもなく『死ね』を連呼しているのは焦っているからに違いありません。
◇
「はーい死にたくなかったら避難してねー」
クラウディアの命令で海賊党のバカどもを避難させてるボク。
なんでこうなった?
戦闘面でも少しは信用してくれてもいいのに。
前衛メンバーでもいいんだよって言ったら、
「エリザベスは容赦なく殺すから戦闘はNGです」
ひどいなあ。
少しくらい殺したっていいじゃん。
姉さんの邪魔をするヤツは死ねばいいのに。
というかクラウディア以外みんな死ねばいいのに。
心の中で毒づいていると空に何かが見えた。
UFO?
ゴブ田純二スペシャル?
あっれー?
台本にないぞー。
ガラハッドなんかやったのかなあ?
仕方ないから確認するか。
えっと無線は首の端末の通話ボタンを押してっと。
「ガッちゃん、ガッちゃん。UFO飛んでる」
通信回線を開くとシルヴィアことガラハッドが出た。
「ぬおおおおッ! 絶対神なのだ! 速く逃げるのだ!!!」
え?
UFOの下部のハッチが開いていく。
そこから光の柱が……
あ、これ知ってる。
ズゴゴゴゴゴドカーンだ。
ん? ズゴゴゴゴゴドカーン?
◇
ハッチが開いていくのが見えました。
あーこれ知ってる。
ビーム&爆発で皆殺しにするやつだ。
ズゴゴゴゴゴドカーンって。
んで下から当たると緑色の骸骨になって消滅するビームを持った火星人が出てくるやつですね。
……だめじゃん! マジでダメじゃん!
「シルヴィア! 結界張りますよ! 私も気功で街を防御します!」
「了解!」
私たちは街へ飛びました。
後ろを見ると巨大怪獣達も私たちについてこようとしています。
「あんたら!」
「我らも王都の民である! 貴族としての義務を果たさなければならぬ!」
巨大怪獣が騒いでいます。
なにこの無駄に紳士的な連中。
そこまで考えたところで私の脳にあるアイデアが浮かびました。
勝てます!
相手が絶対神のアホなら勝てるのです!
「鎧の人! 一緒に来てください!」
「お、おう」
私はさきほど半殺しにしたばかりの鎧の人を連れて空を飛びます。
これからシルヴィアにもがんばってもらわなければなりません。
「神をもう一度殺しますよ!」
私は、にまあっと笑いました。




