転生神
「ようこそミーの研究室へ! イエーッ! ラブ&ピース!」
私が起きるとそこにはリーゼントにサングラス、でっぷりと腹の出たカブトムシ体型の体に目がチカチカしそうな原色のウエスタンスタイル……
いわゆるロカビリー……だよな?
かなり方向性を間違えたロカビリアンなおっさんがいました。
「おっさんは誰ですか?」
私は小首をかしげます。
「ひゃっふー! 昔、俺のズボン下ろしてレ○プしようとしたのに忘れるなんて酷いZE!」
誰がこんな汚えジジイを手込めにするかよ!!!
って、ん……?
この昔は美形だったと言わんばかりのスマイル。
時って残酷だよねって思わせるたるんだ皮膚……
それを脳内で若返らせると!!!
…………!!!
「あ、あんた! 転生神!」
「ヒューッ!!! ようやく思い出したかベイベ!」
知りたくなかった!!!
気がつかなければ良かった!!!
昔の超絶美少年が汚いジジイになった!!!
私のメンタルにえぐり込むようなボディブローが炸裂しました。
私は殺虫剤をかけられたゴキブリのようにピクピクと悶絶します。
このダメージは計り知れないのです。
それにしても……どうやら私は死んでしまったようです。
あー。
折角、尊敬できる相棒と優しい仲間たちと慕ってくれる舎弟どもに囲まれて楽しかったのになー……
こんなに楽しいのって初めてなんだよなー。
「あー。また転生ですか? もう嫌になりましたよ……」
「YOU! まだあきらめるのは早いZE!」
「はい?」
「まだ死んでないYO!」
「……じゃあなぜ呼んだし!」
「HAHAHAHA! それはYOUに情報を与えるためだ!」
「情報? なんすか?」
「YOUが滅ぼした絶対神の遺体から生まれた八百万の神々。ミーもその一柱ね。その中の絶対神の悪の部分を引き継いだ邪神たちがYOUの世界を狙ってる。YOUは自分が何者だったか思い出さなければならない」
「神殺しのクラウディアでしょ?」
「違う。YOUは108回の孤独な人生を終わらせ、神殺しの罪を禊いだ。今のYOUは特別な存在YO!」
「ふーん」
えー。白状します。興味ないです。
邪神とかもどうでも良いです。
有害鳥獣は駆除するだけです。
それに許すの許さないのと偉そうな態度が気に食いません。
私は長い長い転生で常に考えていました。
神が人間を選ぶのではなく、人間が神を選ぶのだと。
これは近代と言う時代まで至れば誰もがわかることです。
どの世界においても神からの自由を得るために魔族も人間も屍の山を築いたのです。
それは私も例外ではありません。
自分にとって必要なら信じる、有害なら排除する。
……神も同じ思いでしょうがね。
つまり私は神と対等なのです。
それを許すの許さないのと上から目線。
バカじゃねえの?
※BLを配布してくれる神いわゆるゴッドは信仰対象です。
「YOU興味ないのかい?」
「ええ。全く。これっぽちも。あなたには悪いですけど神なんてシステムであって崇める事を強制されるほどのものじゃありません」
転生神のおっさんが笑い出しました。
ゲラゲラ笑ってます。
「がはははははは! やっぱYOUは最高にホットYO! YOU気づいてる? 全ての世界で神を恐れないのはYOUとその仲間だけYO!」
私は同意も反論もせずニヤリと笑いました。
そしておっさんはいきなり口調を変えて言いました。
「じゃあ情報だ。君は騎士になるんだ」
「どう意味ですか? 騎士団に入るなんて嫌ですよ」
「違う。心の話だ! 弱きものを救え。正義を成せ」
私から一番遠い言葉が出ました。
妥協とか買収とか脅迫とかならわかるんですけどね。
私は少しいらついて頭をボリボリとかきました。
「さて戻るがいい。神殺しの聖女よ。壊せ! 戦え! 混沌を世界にばらまけ!」
それはまるでラスボスのような物言いでした。
おっさん……私の代わりに魔王やってくれませんかね?
かなり真面目に。
向いてると思いますよ。
そんなどうでもいいことを考えていた私の意識はまたもやどこかに流れていったのです。
◇
アレックスのバカは昏睡状態になってしまった。
まずい……敵は錬金術師だ。
錬金術師はどの職業よりも危険だ。
戦士や魔法使いのように自分自身が強いと思っている連中は対策が楽だ。
意表を突いて嵌め殺しをすれば良い。
ところが錬金術師は違う。
錬金術師の最大の持ち味は手数。
つまり、相手の弱点を突き相手の攻撃を凌ぐ戦術の豊富さなのだ。
アレックスの戦い方と方向性は同じである。
だからこそ最初にアレックスを潰したのだ。
あー! あのバカ!
あいつがいるのといないとじゃ戦力が段違いなのだ!
一番戦闘不能になっては困るやつなのに。
……まあ、アヘ顔Wピースで白目を剥いたまま気絶したことだけは芸人として評価してやる。
とは言ってもさっさと解毒しなければマズいのだ。
ムリヤリ起こせば自分にヒールをかけるだろう。
それには手遅れになる前にどこか安全な場所に運ばなければならない。
つまり目の前の奴を倒さなければならないのだ。
我は仕方なく剣を抜く。
ドワーフに鍛えてもらった新作小太刀。
ドワーフ曰く、
「れーばていん? なのです?」
だんだん胡散臭くなっていく。
もはやレーヴァテインを西洋剣にすることすら放棄しやがったのだ。
まあいい。今は目の前の錬金術師を倒さねばならない。
そうして我はアレックスならどうするかを必死に考えた。
魔法で焼き払う。違う。
斬り捨てる。違う。
錬金術師が最前線に出てくること事態が異常なのだ。
恐らく物理と魔法の対策はしてきているはずだ。
その証拠にマナ榴弾砲もミサイルも機関銃も効かなかったのだ。
そこまで考えて我は覚悟を決めた。
仕方ない。
奴を出すしかない。
個人に使う兵器ではないのだが……
それには少し足止めをせねば。
そう思い我は小太刀で斬りかかる。
腹への横なぎの斬撃を男に浴びせる。
それを男は避けもしない。
金属同士がぶつかった衝撃で火花が散る。
堅い手応えが返ってきた。
つまり男の身は無傷だ。
我の斬撃は鎧の表面をなぞっただけに違いない。
だがそこまでは読んでいたのだ。
そのまま我は手のひらを開き鎧の腹に掌底を入れた。
そして気功と強力な踏み込みにより体移動の数倍の運動エネルギーを発生させ打ち込む。
そしてその全てのエネルギーを鎧の内部へ徹す。
いわゆる内部破壊。
子供の体でも相手を足止めするくらいはできるはずなのだ。
ドーンという音とともに手に反発する力が伝わってきた。
鎧は吹き飛ぶはしない。膝をついただけだ。
それでいい。
内臓への直接衝撃が行ったはず。
しばらくは動けないだろう。
その瞬間、うなじがぞわぞわとした。
まずい!
空を飛びアレックスを回収しながら、間合いを空ける。
そしてバリアー。
そこまですると男がガラス瓶を我に投げつけた。
我を光と炎が襲う。
それは今までに体験したことが無いような炎だったのだ。
無駄が無く、障壁を壊すための炎。
幾十もの魔法障壁が壊されていく。
「くくく。バカめ! 古くさい手を使いおって!!!」
男が高笑いをした。
だが我は次の手があった。
「アース!!!」
土魔法で地面を隆起させる。
土なら燃えないはずだ。
手加減はしなかったので壁の厚さは無駄に厚い。
これで燃えることは無いだろう。
思ったのとは違う結果だが時間を稼ぐという目標は達した。
我は首につけたマイクのスイッチをオンにする。
「ホルロー。アレックスが毒でやられた。ダークエルフに全装備つけて来い」
「……了解。シルヴィアは婿殿を全力で避難させよ。何処の誰だかわからんが骨も残さず焼き尽くしてくれる!!!」
「了解なのだ」
怒っていたのだ。
ホルローが怒るとは珍しい。
こりゃ死人が出るな。
さて、我も仕事をせねば。
我は土壁から顔を出し警告する。
「おい。錬金術師。命が惜しければ見逃せ。こちらの大将は白目剥いて気絶した。我らの負けだ」
フルフェイスの兜で表情が見えないが男が発する圧力が強くなった。
怒っているのかもしれない。
「お前は俺をなめているのか?」
「いや純然たる事実だ。死にたくなければ見逃せ」
「あははははははは! 放火犯の汚名を着せて追い込んでから殺すつもりだったが、いますぐ殺してやる!」
おー犯人見つけたのだ。
そうか! あの炎!
錬金術でで作ったのか!
それにしても、せっかく忠告してやっているのに何を考えているのだ?
考える我の耳にホルローからの通信が入る。
「シルヴィア! あと10秒で到着する。穴掘って隠れろ!」
早すぎる!
そう思うと我は攻撃魔法で地面を掘る。
同時に土壁に天井をつける。
「忠告はしたからな!」
そう言って我はアレックスをおぶって穴に飛び込んだ。




