メドゥーサ
私たちは城門から外に出て街道から外れた草原に出ました。
ここなら巻き込まれる人も居ないと判断したのです。
五人の元勇者から距離を取ると、私は拡声器で警告をしました。
「えー。勇者の糞虫どもー。最初から本気で来いなー。じゃないと死ぬからなー」
「ふはははは! 『神殺しの魔王』クラウディア、それに『竜殺し』のアレックスいや剣王ガラハッドよ! 無駄だ! 我らには魔王は通じぬ!!!」
はい。なめきってます。
話し合う余地がありません。
しかも、
『私 → ガラハッド』
『シルヴィア → クラウディア』
勘違いしているようです。
失礼な!
なんかむかつきました。
容赦しません。
「撃てええええええぇぇぇッ!」
私が手を上げた瞬間、数キロ先から爆音が響きました。
私は音がする前にシルヴィアを抱えて気功で宙に浮き、気でバリアーを張りました。
次の瞬間、空から降り注ぐのは大量のマナ榴弾。
そして爆発。
まだこの世にあるはずのない兵器。
この世界なら充分にマップ兵器と言える威力です。
魔法が効かない?
あはははははは!!!
現代兵器の出力をなめるな!!!
魔法無効や反射がついていたとしても爆風という物理現象でダメージ通りまくり。
人間など一瞬でミンチなのです。
爆発で舞い上がった粉塵が風で散りました。
そこにはクレーター。
またもや勝利してしまった!
ざっまああああああああ!
ひゃはははははは!
ところが奴らは魔王殺しの勇者です。
煙の中に大きなシルエットが見えました。
煙が晴れるとそこにいたのは異形の怪物。
八首の竜。
手足の生えた鯨のような生き物。
巨大な骸骨。
岩の巨人。
ですがただ一人、人間型がいました。
それは鎧を来た人間。
私はその鎧だけは侮ってはいけないと感じていました。
ですが……目立つのは常にバカです。
巨大怪獣どもが大声でわめき立てるのです。
「騎士の作法も知らぬ痴れ者が!」
巨大怪獣に怒られました。
騎士の作法なんて知らんもんねー。
もちろん私は反論します。
拡声器を持って。
「作法なんて知るかボケェ。ヒーラーなめんな!」
私はゼスさんにチクられたら確実に尻を叩かれるレベルの暴言を吐きます。
私がキレていると首につけていた魔道式骨伝導スピーカーから人の声がしました。
「アレックス様。メドゥーサ攻撃態勢整いました」
「ファイアー!!!」
「了解」
バリバリバリバリと言う風切り音が聞こえてきました。
ええ。
航空力学の産物です。
がんばりましたとも。
空からとてつもないスピードでやってきたのは攻撃ヘリ・メドゥーサ。
操縦者はうら若きダークエルフさんです。
私が作った航空兵器です。
これとダークエルフがこの世界に初めて生まれた人工航空兵器です。
その運動性能と火力はドラゴンライダー(小型ドラゴン)を一方的に倒すことが可能です。
というか対大型ドラゴンをも視野に入れて作っています。
私たちの方へ来たヘリがホバリングをしていました。
度肝を抜かれている勇者ども。
そりゃそうですよね。
古式ゆかしい名誉を賭けた戦いだと思ったら、移動砲に攻撃ヘリ。
遠くからの一方的なボコ。
完全に時代設定無視です。
でも容赦しません。
私はお下品にも親指で首をかっ切る動作をしました。
それと連動するかのようにヘリから放たれる炎。
ミサイルです。
ミサイルは手足の生えた鯨に一直線に突き進ました。
そして轟音。
鯨がちゅどーんと吹き飛び地面に叩きつけらるのが見えました。
地面が揺れ瓦礫が私たちにまで降りかかります。
あっれー……予想してたより威力強いじゃん……
「おい……ちょっと気絶させる程度じゃないのか?」
シルヴィアが呆れたようにそう言いました。
「いやーミサイルってあんなに威力強いんですね。超びっくりです」
いやー、現代以降は前線出てなかったのでよくわからないんですよね。
具体的な威力とか運用法とか。
驚く私にまた通信が入ります。
「アレックス! ダークエルフの出撃許可を出せ!」
ホルローからの通信です。
この目立ちたがり屋め!
いやぷー。
「待機」
ダークエルフは攻撃の威力が強すぎるせいで使いどころが難しいのです。
さてここまでであることが気になっている方がいるかもしれません。
なんでゴブリンさんやオークさんではなくダークエルフが操縦しているのか?
それには属性が関係しています。
最近になってようやく判明したのですが、ゴブリンさんやオークさんは地属性。
無属性だと思い込んでいたトラックなどの車両は地属性だったのです。
つまり、運転技術は属性に影響されるのです。
そしてダークエルフは風属性。
つまりヘリやら飛行機のエキスパートだったのです。
……どうやら魔族さんたちは終盤になると急に強くなるキャラのようです。
ちなみにリザードマンさんたちは水属性なので船舶を操縦させてみようと思います。
「うおおおおッ!」
咆吼が響きました。
気合いを入れないとヤバいくらいのダメージのようです。
よく見ると鯨の隣にいた骸骨がふらふらとしています。
アンデッドにも脳震盪とかあるんですね。
知りませんでした。
おっと実験実験っと。
「メドゥーサ。ロケット砲発射しながらチェーンガン掃射」
「了解」
火を噴きながら数十もの小型ミサイルが勇者を襲いました。
一方的なボコです。
八首の竜はロケット砲の爆発で気絶した頭が隣の頭に当たって白目になってます。
もはや私たちを止められるものなどいなかったのです。
さて、今回の私の目標は『領民による巨大怪獣の討伐』です。
私がいた中でも最も進んだ世界。
そこでは航空機の登場によりドラゴンの戦略的優位性は消滅しました。
そもそもドラゴンの優位性とはなんでしょう?
それは航空ユニットであることです。
ドラゴンは爆撃とドッグファイトの両方をこなせる万能性と攻撃力。
飛翔する脊椎動物として唯一音速を超える機動性。
音速の衝撃に耐えられるように進化した圧倒的防御力。
まあ理不尽を煮染めて固めた生き物です。
(そう考えるとセシルを襲ったドラゴンはゴミですね)
魔王でも無策で殴り合うと負ける可能性があります。
(私だったら攻撃が届かない範囲から戦略級魔法で焼き払います)
そんな理不尽生物ドラゴンも攻撃力が高くて素早い武器があれば人間にも討伐可能なんです。
マッハで飛べるやつ。
それが航空兵器です。
その世界で兵器としての価値を失ったドラゴンさんたち。
最終的には間化魔法使って高い知性を利用して航空会社に就職。
パイロットとして活躍するような状況になりました。
金がないとドラゴンですら何もできないからです。
うふふ。気位の高いドラゴンも日々の暮らしのために魂を売り払う。
資本主義って素敵。
チェーンガンが発射される音が聞こえてきました。
あー、やっぱり岩の巨人をガリガリ削ってますね。
そしてロケット砲。
何十という小型のロケットが飛んでいきます。
お、手足がもげた。
げへへ。子供が遊んだあとの人形みてえ。
私がゲラゲラと悪い顔で笑いました。
辺りにはすでに動くものなどいなかったのです。
やはりダークエルフの出番はなかったようです。
気を計ると全員ギリギリ死んでいません。
……いえ間違いました。
数が合いません。
鎧の男です。
私たちは降りて鎧の男を捜します。
マズいです。
我々に悟られることなく潜伏できた。
相手は相当な使い手です。
そして少なくとも小細工に詳しいのです。
「アレックス危ない!」
シルヴィアの声がしました。
私は脊髄反射で気のバリアを張ります。
「アレックス違う! 逃げろ! ヤツは戦士じゃない!!!」
その意味を理解する前に私へ投げつけられたのはガラス瓶。
瓶が割れ、その中身が空気に触れた瞬間。
「毒ガスだ! ウィンド!!!」
風が吹きました。
ですが私の意識はすでに朦朧としてました。
ああ、毒ガスを吸ってしまったんだな……
「おいアレックス! ヒールだボケッ!」
私を罵倒するシルヴィアの言葉が聞こえましたが……
誠に遺憾ながら私の意識は深い水面に沈んでいきました。




