チビとバカの決着
大変です。
あの姫様シルヴィアの母親に気に入られてしまいました。
今や私とシルヴィアは本人達の意思とは関係なく大親友とみなされています。
なんか外堀が埋められてる感が半端ないです。
王家パワー怖えええええ!
今のうち殺しとかないと危険です。
なぜなら、
女とふぁっくなんてできるかあああああああああッ!
さて、今日はシルヴィアと一緒に遊びをします。
遊びと書いて喧嘩と読みます。
お互いに今日の目的は相手を泣かすことです。
城の庭の練兵場に連れて来られた私はシルヴィア《バカ》を見つけて手を振ります。
「シルヴィアちゃん!」
「あーアレックスちゃん!」
「シルヴィアちゃんこんにちわー」
「アレックスちゃんごきげんよう」
可愛く挨拶できました。
なぜこんな茶番をしたのでしょうか?
それはもちろんわかっていたからです。
仲良く振舞って安心した親が目を離したら開戦なのだと。
なぜわかったのかって?
それは念話です。
『クソチビ何見てんだよ! ゴラァッ! チビがうつるだろ!』
『うつんねーよ! ばーか! ばーか!』
『くっそぉーッ! それ以上バカって言うな! それよりわかってんだろうな!』
『親がいなくなったら会戦ですね』
私たちは念話に従い、しばらくは追いかけっこしたり、土をいじって遊んだりしてました。
我々は紳士淑女です。
約束だけは守るのです。
そしてその時が来ました。
親が城に呼び出されてどこかに行ったのです。
手を振って見送る私とシルヴィア。
親が見えなくなった瞬間。
私はそのチャンスを逃しませんでした。
「オドレボケがああああッ!」
私が殴りかかります。
手加減などしません。
本気でぶっ殺すつもりで殴りかかりました。
ですが私の拳は、シルヴィアの顔に到達する前に止まっています。
「ふはははははは! この障壁を破れるのか! 破れるのか! うーんんんん? このクソチビがぁッ!」
魔法障壁でした。
シルヴィアは女子にあるまじき悪い笑みを浮かべていました。
その目が狂気を帯びていました。
「消えろよぉ! このクソチビ!」
私の皮膚が魔術の初動に起こるかすかな振動を感知。
魔法が来る!無詠唱!
それがわかりました。
私は咄嗟に魔法障壁を張ります。
私の周りをおそろしいほどの炎が包みます。
「チビぃ! 念話だけじゃなく防御魔法も使えるのか!」
気功よりむしろ魔法が本業です。
そして私は疑問に思いました。
シルヴィアはどこから魔力を得ているのだろうかと。
私の知っている魔法は、空気中のマナを取り込んで使うものでした。
だからこそ、マナの薄いこの世界で私は大規模な攻撃魔法を使えないのです。
ところがシルヴィアは空気中のマナを取り込んだ様子がないのです。
むしろ、シルヴィアが魔法を使うたびに空気中のマナが濃くなっているのです。
もちろん私は、それをこすっからく使わせてもらいましたとも!
私は漏れたマナで無詠唱魔法を発動。
パーンッ!
と音が響き渡りました。
慌てて音の方を見るシルヴィア。
また別の方からパーンと音がします。
シルヴィアはビクッとして音の方を見る。
完全に術の詠唱は止まってました。
そして私はシルヴィアの目の前や視界外から次々と音や光を出しました。
音や光に混ぜてごく低威力の爆発を混ぜます。
たまに威力のある爆発を混ぜれば、音を無視することはできないでしょう。
この魔法でKOはできません。でもそれでいいのです。
私の目的はシルヴィアの集中力を削ぐことだったのです。
これで隙ができました。
そして、今の私は気功も操れるのです。
私は真空なんとか拳よりも力強くオーラを両手に溜めました。
「喰らえ! 魔王砲!」
いわゆるオーラをビーム上に放出する技です。
名前は今考えました。
オーラに飲み込まれるシルヴィア。
あたりには爆発で起きた粉塵が立ち込めていました。
「ま、まさか……」
私は驚きのあまりつぶやきました。
気が消えていないのです。
消え去った粉塵の中。
その中にシルヴィアがいました。
全くの無傷です。
全力の魔王砲を防ぐとは恐ろしいまでの才能。
これはやはりリア充に違いありません。
肩で息をしながらそんなシルヴィアは言いました。
「矮小な人間がぁ! 我をここまで追い詰めるとはぁッ!」
はーい。それ私の台詞です。
「子供がこの魔王を追い詰めるとは!
この勇者め!
なぜだ! なぜいつもいつも我の邪魔ばかりするのだ!」
あれぇ? それも私の台詞です。
「えーと質問いいっスか?」
「なんだ……勇者よ」
「えーとそこのアナタ。 前世魔王だったりします?
あと勇者と書いてチビって読むのやめろ」
「そうだ! 何をとぼけている! この薄汚い勇者め!
だが断る! この勇者!」
同業者!!! 2000年間魔王やってて初めて見ました!!!
「えっと……私も元魔王なんですけど……
あと次、身長のこと言ったらぶっ殺しますよ」
「ほう……2000年魔王やってきたが同業者と会うのは初めてだな……
ちーび! ちーび!」
「てめえマジでぶっ殺すぞ! このバカ!」
「バカって言うな! バカと言ったやつの方がバカなんだぞ!」
双方ともに超涙目でした。
私は身長の事を気にしてますし、相手は頭が残念なことを本気で気にしているようです。
「……やめましょう。お互いに。
ところで……なんでこんなマナが薄いところで魔法使えるんですか?」
「承知した。 理由はわからんが、なんだか身体から沸いてくるのだ。
お前の方こそなんだ! その気の力は!
それがあれば我は勇者に勝てたかもしれないのに!」
「いや、マナが薄すぎて上級魔法使えないんで、仕方なく気功を使ってたらいつの間にかこんな感じに……
私だって、そんな便利な魔力があれば、コスト気にせず魔法使って楽に勇者を滅ぼせたのに!」
「ん?!」
顔を見合わせる二人。
なんだかお互いに感じあうものがあったのでしょう。
そこから同業者同士の愚痴が始まりました。
「だからさー。我は彼女いないのに我の死体のそばでベロチューしやがんのよ! あいつらー!」
「あるあるー!彼氏いない歴=全転生の私への嫌がらせかー!って思いますよねー!」
「そうそう!真面目に統治してりゃ暗殺するし!なにこの無理ゲーって思うよな!」
「ですよねー!あはははは!」
すっかり意気投合。
「んでさー。我は男だったんだけど、今度は人間で女なんだよなー。どうしろっていうんだよ!」
「私も女だったんですけどー。今度は男ですねぇ。ホントどうしろって言うんですかね!」
TS転生という境遇も同じだったわけです。
もう他人とは思えません。
そこで私は思いつきました。
「なんだか私たちって共通点が多いみたいですし。いろいろと……協力しません?」
この世で初めて出会った元魔王の二人。
性別や種族すらも変わってしまい勝手がわからない二人。
力が強すぎるのと性格の悪さが原因でずっとお一人様だった二人。
そんな不器用な二人なのですから、助け合った方がいいことが多いでしょう。たぶん。
私はシルヴィアに手を差し出しました。
すごく……すごく緊張しました。
緊張して声が裏返っていたのは内緒です。
「お、おう。よろしく……アレックス」
シルヴィアは手を握り返しました。
シルヴィアの手は心なしか震えているようです。
「な、なんだか! あの伝説の……と、友達ってやつみたいだな!」
シルヴィアの声も裏返ってます。
真っ赤になったシルヴィアの顔。
その顔がなんだか可愛く見えたので、私はクスリと笑うとこう言いました。
「そうですね。 お友達になりましょう!」
本編に入れられなかったでござる。
シルヴィア
「それにもう……我は女言葉など使いたくないのだ! お前はいいよな! その口調ならどっちでも違和感ないじゃないか!」
アレックス
「同じですって! 私だってもうちょっと年取ったら『俺』に直さないといけないんですよ!」