うちの領地はアホばかり
理事長の部屋に入ると、そこに居たのは上半身裸で大量の金貨の中で泳ぐ理事長。
パンツ一丁ヘブン状態で醜悪な笑みを浮かべて金貨の中で背泳ぎしてます。
水じゃないんでちっとも泳げてませんが。
「……はッ!」
目が合ってしまいました。
残念なことに目が合ってしまいました。
気まずい……気まず過ぎます。
「こ、これは違うんだ! お金で泳ぐ! これは全男の子の夢であってな!」
ねーよ!
男の子の事わかんないけどねーよ!
「えっと理事長。金貨だと死にますよ。重量的に……」
私の口から意味不明の言葉が勝手に紡ぎだされます。
心の底から呆れると他人に優しくなれるんですね。
また一つ学びました。
「こほんッ! で、何かな?」
「まず、売り上げとかはその姿を見れば好調なのは理解できました。それと前に理事長が仰ってた『同業者は見たことない』って話ですけど……おかしいですよね?勇者だらけですよね。じゃあ、魔王もゴロゴロしてるんじゃないんですか?」
「いやさすがにドラゴンやアンデッドの巨大怪獣に変身した勇者は初めてだよ。魔王にも会ったことはないよ」
まあ、確かに。
その辺にゴロゴロしてたら私も『竜殺し』なんて言われませんでしたし。
「じゃあ、初見ですね。信じますよ」
「いや違う。前世で勇者やってた、ただの人間なら何人か知ってる。さすがに海賊党みたいに組織化されてるとまでは思わなかったけどね」
やっぱり隠蔽してやがりましたね。
「何で私やシヴィアに言わなかったんですか?」
私は不機嫌な口調で問い詰めます。
ちょっとだけムカついたのです。
「言う必要がないからだ。思い出してごらん。なぜ自分が魔王になったのか」
え?魔王になった理由?
全く思い出せません。
「思い出せればすぐにわかるよ。魔王と勇者の存在なんて紙一重。彼らもじき魔王になるのだしね」
エンディング?
あー!!!!
アデルさんの言ってたヤツか!
「絶対神の殺害!」
「そう! 自分たちの世界を救うために絶対神に歯向かって最終決戦で負けてバッドエンド……え?」
沈黙。
目をパチクリする理事長。
「ごめん。年のせいか耳が悪くなったようだ……今、殺害って聞こえたようだけど?」
「はい。私の前世が絶対神殺して一神教の時代は終わり多神教へ……」
私も先ほど知ったばかりですが。
「マジで?」
「多神教の人に教えてもらいましたし、大神官の予言だそうです。そういやかなり前に転生の神に会ったことあります。一神教の絶対神がいたら転生の神なんて必要ないですよね?」
プルプルと震える理事長。
やっべー怒られる。しかもこれは正座で拳骨コース。
そう私は覚悟しました。
覚えてないと言えども私の犯行っぽいのです。
仕方ありません。
「うっしゃああああああああああ! あのクソ神死んだのか! よしアレックス世界征服しよう!」
意味がわかりません。
「いーやーでーすー! 私は世界の片隅でテキトーに領主やりながら、たまに逆ハーの妄想に浸る生活でいいです。全世界の人間さんと魔族さんの食い扶持に悩む生活なんて、まっぴらごめんです」
「君はいい加減自分が野郎だっていう現実を直視すべきだと思うよ。現状だって領地の男性は忠誠心のパラメータしか上がってないし。フラグ立ってるの女ばかりじゃないか」
「るせー! YES妄想! NO現実! 妄想の自由すら奪う連中は滅ぼしたる! ぬはははははは!」
「いやー! 雄雄しいねえ! っよ! 魔王様!」
「ぬははははははははははー!」
いつもどおりのアホな会話。
結局、私が本題をウヤムヤにされたことに気づいたのは生・裸の騎士団の公演の最中でした。
あー! 理事長のあほんだらああああああ!
◇
私は理事長に話をはぐらかされたことに気づかぬまま、上機嫌で守備兵団の皆さんの方へ近づいて行きます。
「さー! 皆さん! 舞台の時間です!」
私はテンション高く手をかざします。
そんな私に比べて、まるでお通夜のような顔をしている男ども。
「あっれー? 皆さん元気ありませんよ!」
「あたりまえだー! 恥だ! これ以上ない恥なんだぞ!」
レイ先輩です。
正直知らんがな。
「だってー。ただの嫌がらせですしー」
私はぶっちゃけます。
ええ。ぶっちゃけましたとも。
多少機嫌が悪かったという側面があったのは認めます。
「ざっ、けんなー!」
客の暴動の前に守備兵団が暴動を起こしそうです。
ですが私には秘策があります。
私はにやりと笑いました。
「皆さん! いいんですか? 美しい遊牧民の女性を射止められなかった貴方たちの最後のチャンスなんですよ! モテ期の到来なのです!」
次々と結婚していったダークエルフの皆さん。
ですがどこにも負け組はいるものです。
いえ、例えとんでもないバブルが起ころうとも殆どは負け組みなのです。
例えばレイ先輩。
積極的に動くも可愛い坊や扱い。
キャッハウフフする恋人たちを嫉妬で血走った目で見つめるその姿。
まさに負け犬の鑑です。
「も、モテ期……だと(ゴクリッ)」
「ええモテますよ! だってホモの嫌いな女(略)ですから!」
「女性は男同士の同性愛が好き……だと……」
「見目麗しい男性どうしのキャッハウフフに萌えないものなどいるはずがありません」
※極論です。
ですがレイ先輩はその目を血走らせました。
「野郎どもぉッ! 俺たちのステージを盛り上げようぜ!」
「うおおおおおおおおォッ!」
負け犬の雄たけびが響きます。
今まさに一人前の非モテたちが巣立とうとしているのです。
おひとり様という十字架を背負った咎人。
それが非モテ。
彼らが目指すのは閉塞した社会の打倒。
恋愛共産主義の名の下、セシル革命を成し遂げようとしているのです。
◇
ディーモルト!
私は心の中で喝采しました。
異常なほどの気合を込めて守備兵団唱歌を歌う彼ら。
全員が非モテです。
※結局、妻子がある人は免責してやりました。
こうして見るとレイ先輩といい他の連中といい、顔と体はいいんですよねー。
これでブ男の集団だったらBL小説書こうなんて思わないわけで。
なぜなら悲惨なだけですから。
しかし、なんでこうもモテないんでしょうね。
不思議です。
会場の乙女の皆さんも、興奮しすぎて鼻血を噴出すもの、脳汁や変な脳内麻薬でヘブン状態になったもの、創作回路がフル回転してトリップしてるものなどカオスに突入しています。
それにしても……守備兵団唱歌だけでここまで盛り上げられるって彼ら実は凄いんじゃ?
高スペックの残念な集団。
魔王軍の将来が楽しみです。
……うん?
そういや何か忘れてる。
……理事長おおおおおおおおおおぉッ!
私は今更騙されたことに気がつきました。
理事長はあとで物理攻撃で泣かします。
さて、10分ほどでステージが終了しました。
これで決定的なボロを出さずに全公演はが終了したわけです。
あー良かった……
これでネオセシルの評判はうなぎのぼり、全ての商売は上手くいくはずです。
うまくいくよね?
そして厄介な多神教の話を解決すれば、あとは優雅にダメ領主生活を満喫できます。
ここまで長かったなー。
まだ一年たってないけど。
鉱山の発見から始まって。
武器屋との抗争。(相手が自滅)
巨大怪獣の襲撃。(暴力で解決)
アンデッドによって街が滅ぼされる。(もはや泣くしかない)
なんで嬉しいのに涙が出てるんだろう。
ああ、感動のグランドフィナーレです。
皆さんありがとう。
皆様のおかげで今の私があります。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ところが甘かった。
私に関わるものは全てギャグになる。
それを私は完全に忘れていたのです。
「レディースエーンドジェントルメーン! 最後のメーンイベントォッ! プロレスショオオオオォッ!」
……はい?
今の声レイ先輩ですよね?
「ライト属性のゾンビィィィッ! SUKE&KAKUうううううぅッ!」
「シャー!」
「お前ら、マグマでエキサイティングなダシャーああああ!」
完全に意味不明です。
でもそれがプロレスです。
「対するはセシルに咲いた一輪のバラ。レエエエエエイ」
レイ先輩、自分で一輪のバラとか言ったー!
痛い。痛すぎる!
「アーンド年齢不詳の美形ジジイ。ニコラアアアアアアス!」
理事長おおおおおおおおおおッ!
何やってんだあんた!
おい! ちょっと待て!
私が全力で呆れていると幼い女の子の声が聞こえて来ました。
「初代SWAタッグチャンピオンの座をかけた戦いが始まろうとしています」
なぜか机にゴングを置いたシルヴィアがそこにいました。
シルヴィアアアアアアアアッ!キシャアアアアアアアッ!
私がメンチを切りますが彼女はそれを無視してゴングを叩きました。
カーンという金属の響き。
そしてその音とともに組み合うレイ先輩とスケさん。
……まあ、あれです。
テレビ中継されてるのにひたすら割れたビール瓶で手加減しながらお互いの腹を刺す悪役レスラーの試合みたいにはなりませんでした。
前半はラリアットとチョップの応酬。
疲れてきたら関節技で休んで、後半は投げ技と。
非常にこなれた試合運びでした。
初めて見るプロレスに大喜びの観客。
たまに笑える箇所も作るなど全編学生プロレスのノリで安心してみてられますね。
結局、最後にレイ先輩の前蹴りからのスタナーでカクさんをKO。
こうして初代SWAタッグチャンピオンはレイ先輩と理事長になったわけです。
どうでもいいわ! 二人とも死ねばいいのに。
私は感動の全てを台無しにされてイライラとしてました。
でも観客は大喜び。
それを見た私は溜息をついて全てを許しました。
まあいいでしょう。
今度こそ終わりです。
楽しかったですね。
うんまたやろう。
と、思ったら二段オチ。
「キャーッ!」
突然、女性の悲鳴が響き渡りました。
ざわめく観客の皆さん。
私もなんのトラブルかと焦ります。
「うちの娘が! うちの娘が! 産気づいちゃった! 誰か助けてぇ! 誰かぁ!」
それは妊婦さんとそのお母様でした。




