VS リョウメンスクナ 2 決着
「やったか!」
シルヴィアの晴れ晴れとした声。
でも私はこの後の展開を疑ってました。
目視でも目もリョウメンスクナも消滅した。
ですが……なんか不安なのです。
世界を滅ぼす魔法なのにバイロンより弱いなんて!
その答えはすぐにわかりました。
上空から降ってくる瘴気。
それは土砂降りの雨のようです。
まずい!この瘴気じゃギルさんたちの命が危ない!
「シルヴィア!ギルさんは?」
「大丈夫だ!カクさんに荷車で出口に運んでもらってる」
さすが相棒!
話が早いです。
瘴気だけなら魔法使って適当に浄化すればいいだけなのですから。
ですがその考えは甘かったのです。
瘴気の雨が黒い水溜りを作る。
そこから現れるのは人間のような手。
ゾンビのように実態があるわけではないようです。
怪談の類ですね。
辺りを見回すと実体を持ったゴーストがふわりふわりと飛んでいます。
つまり、怪談が実体を持つ土地になってしまったと……
そして上空を見る。
やはり穴が空く。
ああ、今度はゴースト系ですか!
半透明の幽霊とともに穴から現れたもの。
それは死神でした。
「キリが無いのだ!」
相棒の情けない泣き言。
ですが私も同感です。
消しても消しても湧き続けるアンデッド。
これは数の力で蹂躙するタイプの魔法です。
死人が出れば出るほど力を増す魔法。
死人が出なくても、最小限の規模は衰えない。
正直、私とシルヴィアのコンビでなければ相当な被害が出ていたでしょう。
ただ単に相性が悪かったのです。
私たちと。
しかし私たちも手詰まりです。
魔法陣を壊して呪詛返しを行うにしてもチャールズ・コルソンは魔法に飲み込まれた後と。
魔法を封印するにも強力な触媒は……
あ、あったわ。
私はエクスカリバーを呼び出します。
宙を飛び、おまけとばかりに死神を貫いて私の元に返ってくるエクスカリバー。
私は手に帰ってきたエクスカリバーを地面に刺します。
そしてエクスカリバーの魔力で詠唱。
僧侶が使える封印魔法。
「今から魔法自体を封印します!……でも私、封印魔法苦手なんですよ……というか神聖魔法全般が……」
「なんでだ?」
「いえ、ねえ……私、神様に会ったことあるんで信仰心ないんですよ……全く」
「なるほど。よし、やってみろ」
問答無用とはこのことです。
ひどいヤツです。
ですが仕方ありません。
私は地面に刺したエクスカリバーに手をかざし、呪文を詠唱します。
神が偉大だからすごいよね。
よくわからないけど。
だから自分じゃどうしようもできない邪悪なヤツを封印したいんすけど力貸してくだーさい。
オス。お願いします。
あざーっす!
呪文は意訳するとこんな感じの意味です。
やはり心がこもりません。
あれだけやる気を見せていたエクスカリバーも光が失われていきます。
ぬううう!
闇魔法の方の封印にしておけばよかった!
地獄にダイレクト発送するヤツ。
料金高いけど。
私はシルヴィアに助けを求めようと横を見ました。
うん? なんかシルヴィアが黒く光っています。
「シルヴィアさん……なんで黒く光っておられるので?」
「なんか村正が瘴気を吸ってマナに変換するのだ!その変換の光なのだ!」
ソレダ!
「貸してください!」
私の必死な声を聞いてシルヴィアは村正を投げ渡す。
このサイズ、脇差か!
私は村正を抜き一気に地面に突き刺す。
村正は瘴気を超高純度なマナに変換する。
そして私は詠唱を開始した。
いいな。いいな。
地獄っていいな。
のこぎり、やっとこ、かなづち、ひばち。
針の山が待ってるだろな。
オデも帰るべさ。地獄に帰るべさ。
でんぐり返しがうんぬんかんぬん。
闇魔法の封印は意訳するとこんな感じです。
先ほどの神聖魔法とは違い力技で発動できます。
ただし今度の魔法は相手には効きません。
闇属性ですから。
ですが私には考えがありました。
エクスカリバーを使った神聖魔法の封印。
村正での闇魔法での封印。
その二つの同時詠唱です。
闇魔法の方の詠唱があるので余計なことを考えなくてすむでしょう。
私が二つの封印の同時詠唱を始めると、地面からさっき消したはずの目が現れました。
人間のものではない金切り声。
世界を呪う言葉が頭の中に直接響きます。
「なぜだ!私はただ彼女の愛が欲しかっただけなんだ!なのにエリザベスも誰もが俺を裏切る。俺はなんて不幸なんだ!それもこれも魔王の陰謀だ!呪いをかけられたに違いない!俺は被害者なんだ」
あ?私やシルヴィアのせいですと!
具体的な恋愛のことなんて何もわからないのにどうやって呪いをかけるというのでしょう?
相手が裏切る出会いの過去すら存在しない私やシルヴィアに喧嘩売ってるんですか?
私はかつてないほど本気になって神聖魔法を詠唱しました。
どこかの世界の片隅で非モテを見守る心優しい神様!
こんのクソバカに神罰を。
なにが愛が欲しいだ。
なにが裏切っただ。
相手を物としか見てないお前が悪いんじゃないか!
そしてそれはリア充まで登り詰めた勝ち組だけの悩みだ。
云千年もそんな出会いのチャンスすら与えられていない生き物がここにいるんだぞ。
春先に交尾もできずに散っていく虫の辛さをわかっているのか。
NTRイベントすら未来永劫起こせない圧倒的負け組の僻みを思い知れ!
神よ!この傲慢な男を救いたまえ!
※意訳です
そして同時に闇の封印魔法を詠唱します。
全てのリア充に死を。
全ての非モテの憎しみを糧にリア充を滅ぼせ!
いや滅ぼすのは待て。
永遠に苦しめるのだ。
地獄につなぎ、永遠に罰を受け続けよ。
何が裏切っただ。
何が陰謀だ。
何が愛だ。
裂けろ!爆発しろ!四散しろ!
全ては地獄へ!
※意訳です
同時詠唱により地面の目と死神は鎖でつながれ、身は浄化されながら崩れ落ち、魂は地獄へと引っ張られました。
どこまでも不快な断末魔の悲鳴を上げながら目は地面に吸い込まれていきます。
そして噴出す大量の瘴気。
私はエクスカリバーを地面から抜き、そのまま目の中心へと走りながら振りかぶる。
「永遠にこの下で眠れ!」
目の中心にエクスカリバーを突き刺す。
噴出す大量の瘴気。
その瘴気を吸い込みながらマナを生産し続ける村正。
私はその光景をただただ見てました。
それしかできなかったのです。
悲鳴が止み、目も死神も消える。
ですが瘴気だけは依然濃いままでした。
ああ、もう遅かったのです。
この土地は……もう。
◇
ローレンスが馬車を走らせる。
護衛するのは領主の私兵。
みな一様に晴れ晴れとした顔をしていた。
王都での商談。
それはある演劇のおかげで大成功を収めた。
それこそ竜殺しのアレックスの物語。
あの日、あんな出来事があったなんて!
舞台は青果卸売り組合のギルドマスターにも大好評だった。
彼のツテで武器商人とは関係の無い宝石商にコネができた。
それも王都でも指折りの豪商とのである。
つまり、エメラルドの売却先が見つかったのだ!
早く知らせなければ!
ローレンスは馬車を走らせる。
これでセシルの街は救われる!
いや領地全体にこれまでに無いほどの利益を生み出すはずだ。
領主のアレックス君は口は悪いけど、みんなを幸せにできる男だ。
あんなに暗かったゼスさんも、自分の子供ができたように楽しそうにしていた。
あのゼスさんの事だ。
アレックス君の父上との関係の事は墓場まで持って行く気だろう。
教えてやらねば。
そうだ、エメラルドさえあえば全てが解決するんだから。
そしてローレンスが見たもの。
それは異常なほどの黒い瘴気で覆われるセシルの街。
瘴気の治療を受けるギル(ただし何もできない)。
うずくまり、涙をひたすらに我慢するゼス。
「な、何があったんですか!」
ローレンスが団員に詰め寄る。
「アレックス様がこの中に……」
ローレンスの顔が蒼白になり、膝の力が抜ける。
「こ、こんな終わりかたって……」
「あれま、ローレンスさん。お久しぶりです」
「……もう終わりだ」
「何がです?」
「だから!」
そこにいたのはアレックス。
そしてシルヴィア。
口を空けたまま固まるローレンス。
ゼスは立ち上がるとアレックスに拳骨を落とす。
一瞬、アレックスは反抗的な顔をするが、かすかなゼスの涙の跡を見て下を向く。
そうして小さい声で、
「ごめんなさい」
アレックスとシルヴィアをを抱きしめるゼス。
こうしてセシルの街は滅び、男爵領の激闘の日々が始まったのである。




