表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第2章 内政編 議会議員の司教を脅迫したら追放されたでござる
28/65

不審なバー

 セシルの街のはずれ。

 市場通りの人通りが少ない一角。

 そこに噂のバーがあった。

 市場は深夜から朝早くまでが一番忙しい。

 中途半端な夜間営業は市場の従業員のライフサイクルに合わないはずだ。

 どんな層を対象に営業しているのか全くわからない。

 確かに噂になる程度には胡散臭い。

 ほとんどの団員が同じ感想を持った。

 そして団員の中でも落ち着きの無い男。

 つまりレイは疑問をそのまま団長であるゼスに向かって問いかけた。


「俺こんな店知らないっすよ。誰がこんな店行くんですか?」


 もちろんゼスも全く知らなかった。

 噂すら警察の調査で初めて知ったほどだ。

 ゼスは守備兵団団長という立場上、ありとあらゆる噂が入ってくるように努めていた。

 ところが全く聞いたことがない。

 庶民の噂でも領地内の貴族の噂にすら上がっていない。

 穴場と言うより誰も知らない店なのである。

 ゼスは正直に答えた。


「全くわからん。聞いたことすらない」


 ゼスは思った。

 警察が入手した見知らぬ男女の情報。

 これはどう考えてもおかしい。

 市場の一角に存在する誰も知らないバーで怪しい人影を見た?

 誰も知らない隠れ家のバーに入る人影?

 どうにも腑に落ちない。

 もしかするとこれはワナかもしれない。

 これは何者かがわざと警察に流した噂なのではないかと。

 だが逃げるわけにはいかない。

 守備兵団は逃げることだけは許されない。

 罠だろうがなんだろうが正面から食い破るのが守備兵団なのだと。

 ゼスは息を吐き覚悟した。


「全員攻撃態勢!」


 ゼスは部下に命令した。

 団員たちが剣を抜き慎重にドアを開ける。

 鍵はかかっていなかったようだ。

 なだれ込む部下たち。

 ゼスも一緒に部屋に飛び込む。

 だが攻撃はなかった。中には誰もいないように見えた。

 そこは確かにバーだった。

 いや、かつてバーであったと言ったほうがいいだろう。

 部屋全体に埃が積もり、カウンターには酒は置かれていない。

 かつては演奏をしていたのだろうか。

 リュートが無造作に床に置かれていた。

 ゼスは団員以外の足跡を確認した。

 やはり最近この建物に入ったと思われる足跡があった。

 それは厨房の方へ続いていた。

 ゼスは厨房へ進む。

 するとレイがゼスの腕を軽く叩いた。

 ゼスが振り返るとレイは厨房を指差していた。

 自分が先に行くという事なのだろう。

 ゼスは無言で頷いた。

 するとすぐにレイは厨房に飛び込んだ。

 ゼスも後に続く。

 厨房には2体の人影があった。

 一見すると人間のように見える。

 だが目は濁り黒や緑になった肌はパサパサに乾燥していた。

 

 アンデッド。それもゾンビだ。

 

 そう認識した瞬間ゼスは近くにいたアンデッドに殴りかかった。

 ガントレットをはめた手で顔面を殴打、そのままの流れでアンデッドの膝に蹴りを放つ。

 いや蹴りではない。アンデッドの膝を踏み抜いたのだ。

 殴打によって体勢の崩れたゾンビの膝から低い音がした。

 そのままゾンビは崩れ落ちた。

 ゼスはレイの方を確認する。

 レイがゾンビに前蹴りを放っているのが見えた。

 守備兵団では木製の盾を蹴りで破壊する訓練を行っていて、それができなければ見習いから昇進できない決まりとなっていた。

 レイもとっさに血反吐を吐くほど練習した技が出たのだろう。

 そこまでは褒めてやってもいいほどに素晴らしい動きだった。

 だが次が不味かった。

 レイがそのまま間合いをつめ屋内戦用に持ってきたショートソードで斬りかかった。

 まずい。そう思いゼスは怒鳴った。


「剣はやめろ!!!」


 レだがもう遅かった。

 レイの剣がゾンビの首筋を捉える。

 相手が人間だったら一撃で戦闘不能にできるだろう。

 だがゾンビにはその攻撃は無駄だった。

 レイの剣は首に突き刺さっていた。

 剣ではゾンビの首を最後まで切り裂けなかったのだ。

 ゼスが最初に殴ったときゾンビの肉は木の様に固くなっていた。

 だから刃物が有効でないとゼスはわかっていたのだ。

 レイの剣はゾンビの首からそのまま抜けなくなっていた。

 無理やり剣を引き抜こうとするレイ。

 だが剣はびくともしない。

 ゾンビの手がレイに迫る。


「レイ!膝を壊せ!動けなくするんだ!」


 ゼスが叫んだ。

 それを聞いたレイは剣を放しゾンビを両手で突き飛ばす。

 突き飛ばされれよろけたゾンビ。

 そのゾンビの足にレイが関節蹴りを入れる。

 木材が折れような音がしてゾンビが崩れ落ちる。

 だがゼスとレイのどちらと戦ったゾンビも足が折れた程度では動きをやめない。

 ゾンビはそのまま手で這いずって来ようともがいていた。

 それを見てゼスは大声で他の団員に指示を飛ばす。


「縄だ!縄で縛れ!」


 他の団員たちはすぐさまゼスの指示通りに緩慢な動きで抵抗をするゾンビを縄で縛っていく。

 それを見てゼスは誰も怪我人が出なくてよかったと安心のあまり深く息を吐いた。

 

「無事か?」


 ゼスがレイに近寄り手を差し出す。

 レイは手を取り起き上がった。


「なんで街中にゾンビがいるんですか!

俺ゾンビなんて初めて見ましたよ」


「私も座学で学んだだけで生のゾンビ見たのは初めてだ。

何が起こってるか想像すらできん。

とりあえずゾンビをニコラス殿のところに持っていくぞ」


 このセシルの街の異変。

 このときゼスは心に不安を感じていた。



 ぽこっぽこっぽこっ

 ドワーフのお子様たちがその辺の砂を固めてハンマーで叩いています。

 砂を叩いているのでやる気の無い情けない音がします。

 あらゆる世界で秘密とされたドワーフの工房。

 私はその秘密を今この目で見ているのです。

 ですが私は感動に打ち震えるといったことはありませんでした。

 なぜなら……

 ドワーフさんの子供が固めた砂をテキトーに作ったかまどに入れます。

 三分待ってハイ、アイアンメイスの出来上がり!

 って何でじゃー!おかしいだろ物理的に!

 鉄の融点は?つかその砂に鉄分入ってるの?しかもちゃんと鋼鉄になってるしー!

 私は軽くパニックを起こしてます。

 魔法ですらある程度は物理法則に支配されているというのに。

 ドワーフさんの技術は完全にでたらめです。

 

 なぜドワーフたちがどの世界でも工房を一切公開しなかったのか?

 私はその理由がわかったような気がしました。


「なるほど……誰も作れないわけです……完全に種族的な固有技能じゃないですか!

ふざけんなおどりゃああああああああ!」


 私は完全にぶちキレながら叫びます。

 ええ。これは仕方ないのです。

 私がドワーフさんの作った武器で何度滅ぼされてると思ってるのですか!

 せめて武器製作にすら熱いドラマがあって欲しいと思って何が悪い!

 こっちは(タマ)とられてるんですよ!

 それが何このテキトーな作り方。


「たぶん気にしたら負けなんじゃないかな?」


 理事長があきれ果てた声でそう言いました。

 負けですか。そうですか。

 完全にへそを曲げた私は不機嫌な顔でお子様たちを見ます。

 ショタとロリです。

 ショタやロリが無垢な瞳でこちらを見てるのです。

 その表情は『誉めて誉めて誉めて誉めて誉めて誉めて誉めて誉めて』。

 小型犬か!

 もはや誰に怒りをぶつければいいのかすらわかりません。

 私はショタと理不尽の狭間で悩み頭を抱えるのです。

 頭を抱えていると声がしました。 


「アレックス!大変だ!ちょっと来い!」


 レイ先輩です。

 声は外から聞こえてたようです。

 相変わらず守備兵団は声がでかいです。

 それにしてもなんでしょう?

 私はトコトコとレイ先輩がいる中庭に向かいました。

 理事長も一緒についてきます。

 中庭にいたのは守備兵団の面々。

 そして荷車に縄でぐるぐる巻きにされて載せられているのは……


「こりゃゾンビだね……珍しい」


「ん?珍しい?」


 私の中ではゾンビなんてその辺にうようよいるイメージです。

 ゾンビは基本的に魔法で作ります。

 原理は死体に魔法をかけてテキトーに動かします。

 人間さんは死体を過剰に怖がるので嫌がらせにもってこいです。

 ですので街を攻め落とすときの作戦に使うのが定石です。

 ほとんどの領主は死体に街を囲まれただけで簡単に降伏してくれます。

 もし戦闘になっても攻撃力が低すぎて死人も出ませんのでとても安全で人道的な兵器です。(ドヤ顔)

 問題としては作戦後に3割くらいがどこかに行ってしまうことでしょう。

 そして野良となったゾンビがその弱さから勇者の経験値稼ぎのいいカモになって後で後悔すると。

 そんな雑魚キャラが珍しい?

 たいへん不思議なのです。

 そう言えばこの世界、オークやゴブリンは妖精さんでごまかせるほどレアですし、ダークエルフは人間扱いでした。

 どうも私の感覚とは違うようです。

 魔族を分類した本も存在しないようです。

 悩む私。

 そんな私の疑問の一部に理事長が答えました。


「珍しいよ。そもそもこの世界で魔法を使えるのはどんな存在かな?」


「そりゃシルヴィアみたいにマナを自己生産できる特異体質……ああなるほど。誰も作り出せないんですね」


 なるほど。よくわかりました。

 そうだとすると誰が作ったのでしょう?


「誰の仕業でしょうね?シルヴィアは作れませんし」


 シルヴィアは魔力の出力が大きすぎてゾンビを作ろうとするとなぜか死霊騎士やリッチになります。

 私は首を傾げます。

 最近おかしいことだらけです。

 誰も得しなかった詐欺事件。

 ダークエルフの抹殺を図る巨大怪獣。

 記憶から消したいレベルのヤンデレ襲来。

 ドワーフさんの誘拐事件。

 それにゾンビです。

 まったくなんでしょうね?

 まるで私に何かをして欲しくないかのような。

 逆にしなければならないことから考えてみましょう。


・山賊を泣かす

・武器商人をシメる

・流通の確保

・エメラルド採掘

・捕獲したショタの餌付け(育ちすぎるとヒゲ生えます)

・実家から持ってきた各種フルーツのハチミツ漬けをシルヴィアに見つからないように調理


 ハチミツ漬けではなさそうですね。

 わからないので家のものにシルヴィアを呼んでもらいます。

 ゾンビを見せて意見を聞きましょう。



 しばらくするとシルヴィアがやって来ました。

 カップに入ったフルーツの香りがする液体を飲みながら。

 ハチミツ漬けのシロップを水で薄めてジュースにしやがりましたね!

 つまりもうすでに私のハチミツ漬けは発見されていたのです。

 近日中になくなることでしょう。ひどい話です!

 もちろんすぐに抗議します。


「あーっ!それ私のですよ!なに勝手に飲んでるんですか!」


「うむ。ジュース美味であった。お前はこういう細かいのを作るのは得意じゃの」


 褒められてもうれしくありません。

 せっかく独り占めしようと思ったのに!


「中の実は食べないでくださいよ!あとでジャム作るんですからね!」


 中のエキスはハチミツの方へ出てますが、代わりに実の方はハチミツを吸ってるので甘いジャムの材料になります。

 私のささやかな抵抗にシルヴィアは頷きます。


「わかった。ジャム楽しみにしてるぞ!」


 キシャーッ!

 貴様の血は何色だ!

 私が抗議の威嚇をしてるとさすがにマズイと思ったのかシルヴィアが話題を変えました。


「ところでなんで荷車から瘴気が出てるのだ?」


「はい?瘴気?」


 私は聞き返しました。

 瘴気ってあの毒の沼とか呪いの荒野をポコポコ発生させる厄介なヤツですよね?

 瘴気とゾンビ。それに勇者。

 まだこのときの私にはそれぞれの事象が頭の中で結ばれていませんでした。

 そう。これがあの酷い事件の始まりだったとは、この時点ではまだ誰も思っていなかったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ