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魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第2章 内政編 議会議員の司教を脅迫したら追放されたでござる
24/65

過去世からのヤンデレX

「団長。なぜ自分たちは正座させられてるのでしょうか?」


 私、シルヴィア、レイ先輩の三名は守備兵団の駐屯所でゼスさんを前に正座させられてました。

 あちこち打撲だらけで全身が痛いのですが。


「領主のアレックス様」


「ひゃい!」


「領主が前に出たことについての弁明はありますかな」


「あ、ありませぬ。こ、効率いいかなあっとつい出来心で……」


 弁明しようがありません。


「レイ」


「はいいいい」


「領主を前に出て行かせたことへの弁明は?」


「ありません!」


「今後気をつけるように」


「はは」


「行ってよし!」


 さー。お説教終わり終わりっと。

 私とシルヴィアが立とうとするとゼスさんの怒鳴り声が響きました。


「このクソガキども!誰が立っていいと言った!」

 

 ダイビング正座。

 レイ先輩だけは一抜けたとばかりに光の速さで逃げ出します。

 あとに残された私たちにのしかかる重い沈黙。

 沈黙に耐えられないせいか眼が回ってきました。 


「え、えっとごめんなさい?」


「ごめんなのだー!」


 目を回しながら私たちはとりあえず謝罪します。

 もちろん心はこもってません。

 最近、だいぶ謝り癖がついてきました。

 意味がわかっていない様子の私の顔を見てゼスさんは容赦なく拳骨を振り下ろします。

 ごちん。星が見えました。


「シルヴィア殿下。殿下にも拳骨します」


「やだなげぶらッ!」


 ひいいいいいいッ!

 シルヴィアに拳骨が落とされました。

 容赦ねえなおい。


「ねえアナター。シルヴィア様いるのー?」


 私たちが圧倒的な絶望感を感じているとふいに女性の声が聞こえました。

 

「あ、アデルさん!い、今仕事中ですから!だ、ダメですからね!」

 

 焦るゼスさん。

 アデルさん?

 ゼス団長の嫁さんの名前だったと記憶しております。

 部屋に入ってきたのは20代前半の女性。

 ずいぶん若いです。

 ブルネットのセミロング。

 上品な服装でいながらオバサンに見えない格好。

 女子力がキラキラと溢れてます。

 さすが騎士の妻だけあります。

 圧倒的戦闘力の前に戦意喪失する気持ちがよくわかりました。

 そんなアデルさんはゼスさんに抗議します。


「えー。ゼスちゃんいいじゃない。せっかくシルヴィア様に会えるのに!」


 ひ、人の話を聞かないタイプです。

 良くないからダメと言っているのに……

 つうかゼスちゃんですと。最強すぎる。


「シルヴィア様。いたー。可愛い!超可愛い!」


 いきなり抱きつきます。

 もみくちゃにされ白目をむくシルヴィア。


「ぁぅぁぅぁぅぁぁぁぁぁぁぅ(にゃー!こないだと態度が違う!離せ!離すのだ!)」

 

「人見知りとかカワイイー!」


 頬ずりし始めました。

 完全にペット扱いです。


「ぁぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁ(た、助けてアレックス!女は苦手なのだー!)」


 ん?

 女は苦手?私全否定?

 うん。死ねばいいのに。

 私はシルヴィアの救助をしないことを心に決めました。

 シルヴィアの蚊の泣くような悲鳴。

 ざまああああ!


「あ、アデルさん!私は今仕事中でしてね……」


 止めに入るゼスさん。


「えー。いいじゃない。ゼスちゃんも私が忙しい時に『ボクドラゴン倒したんだよ!』って何度も」


 うああああああああッ!


「あ、アデルさん!そ、それはボクのキャラ的なものがですね……」


 もうやめたげて!

 お願いですから!


 こうして私たちのお説教から後始末は始まりました。

 それにしても本気で心配して怒ってくれる人がいるって少しだけいいですね。



 ドラゴン騒ぎの後始末。

 私がやらなければならないのは恥をかかせてくれた武器商人への突撃です。

 契約書自体は仕入れ担当者のサイン入りの有効なものでしたので一度は引き下がりました。

 ですが今はお前のせいで怪我人出たよなと難癖をつけられます。

 こんな楽しいイベントに参加しない手はありません。

 私は全身の打撲と叩かれた尻と頭のこぶの痛みを我慢しながら凶暴な笑みを浮かべ守備兵団と私兵を引き連れ王都武具商人組合セシル男爵領支部(長い)に乗り込みました。

 ノックしても誰も出てこないのを確認し私は指示を出しました。


「突撃ぃ!」


「承知!」

 

 レイさんがノリノリでドアを蹴ります。

 ゲシッ!という音がしてドアが外れました。

 レイさんがドアを蹴破った瞬間、そこにあったもの。

 それは骸、骸、骸。


 それらを見た瞬間レイさんが外に猛ダッシュ。

 吐きましたね。

 建物に転がる骸それは組合の従業員たちでした。

 すべて一刀のもとに切り捨てられています。

 ドアはレイさんが蹴り壊すまでは内側から鍵がかかっていたはず。

 ということは中にまだ犯人がいるかもしれません。

 

「全員剣を抜け!」


 私の横にいたゼスさんが大声で命令しました。

 建物の中は天井まで血しぶきが飛び散る惨状でした。

 

「アレックス様、中に入らず何も見ないでください!」


 ゼスさんが私に大きな声で言います。

 血が教育に悪いとか普通の子供みたいに思っているのでしょうか?

 領主なのですから血とは無縁ではいられないというのに。

 過保護な。

 

「あー。そういうのいいです。アレックスちゃん入りまーす」


 私は反抗的な態度でズカズカと踏み込んでいきます。

 充満する血のにおい。

 被害者は全て一刀の元に殺害。

 喉に首に心臓に。全て急所に一撃。

 この手際のよさは殺人というよりは家畜の食肉処理のようです。

 悲鳴すらあげられなかったと推測されます。

 純粋な剣士としては私より上でしょう。


「アレックスやめろ!」


 ゼスさんに首根っこを掴まれました。

 顔を見たら怒ってます。

 でもここは譲れません。

 この使い手は異常です。

 可愛い守備兵団(舎弟)に被害者を出すわけには行きません。


「やめません。今の私は領主のアレックスです」


 私は静かにゼスさんの目をちゃんと見て言いました。

 ため息をつくゼスさん。

 それにしてもおかしい。

 この手口を私は知っているのです。

 あれはいつの事だったのでしょうか?思い出せません。


 私は気を探ります。


 一階に生存者が存在しないことを確認。

 二階に巨大な気を持つ何かがいます。


 階段を上がり巨大な気がいる部屋へ急ぐ私たち。

 そこは談話室と書いてある部屋。

 そこにはちょこんと椅子に座る人がいました。

 部屋に入る私たちを見てニコッと笑うと手を振りました。

 銀色の髪の優男。とんでもない美形です。

 眼福眼福。


 ……と思った私がふと横を見ると首のない死体がありました。

 うあああああああッ!

 指には宝石。見事な成金スタイル。

 支部長だと思われます。

 これだけはオーバーキルされてます。

 過剰殺傷の犯人の特徴は激しい恨み、欲求不満、経験の未熟さです。

 経験が未熟とはとても思えないので恨みか欲求不満でしょう。

 そんな風に分析する私を見てため息をつくゼスさん。

 また余計なストレスをかけてしまったようです。

 正直スマン。


 問題の男性はまだ手を振り続けています。 


「どなたでしょうか?」


 仕方なく私が声を掛けるとうれしそうに自己紹介を始めます。


「やあクラウディア!聖剣騎士団の団長エドガー・フーヴァーだ。よろしく」


 聖剣騎士団?確か議会の左側に陣取る政党。

 影で海賊党と呼ばれてる連中の子飼いでしたね。

 海賊党は私の抹殺に関しては中立を貫いてたと記憶してます。


「クラウディア!もっと近くで顔を見せてくれ」


 さっきからクラウディアを連呼してますが誰?

 

「アレックス様お知り合いですかな?」


 ゼスさんに聞かれますがマジで知りません。

 本当に誰だかわからないのです。


「全くの初対面です」


 そうきっぱり言いました。知らないはずなんですよね。

 そもそも私にあんなにフランクにふるまう人間を知りません

 近寄りたくないなあと思っていると向こうからやってきました。

 あー。どうしよう……


「ああ今回は男の子なんだね。男の子のクラウディアも可愛いな」


 何を言ってやがりますか?

 初対面で男の子に可愛いですと?

 なにこの電波!


「ところでガラハッドは元気かい?」


 吹き出しました。

 そのままむせる。

 ななななななな。


「大丈夫だよクラウディア。君が不利になるようなことはしないよ」


 固まりながら『ななななななな』を繰り返す私。

 そんな私にゼスさんが助け舟を出します。


「ウォッホンッ!サー・エドガー。守備兵団団長のゼス・セシルです。このような暴挙に出た理由をご説明願えますかな?」


「んー。複数の領地にまたがる犯罪は国の管轄でしょ。

それで今回の武器商人による大規模詐欺事件の捜査は聖剣騎士団が担当することになったんだ」


 この死体だらけの中で人懐っこい笑顔を浮かべてます。

 コイツどう考えても常軌を逸してます。


「なぜこのような非道を?」


 唸るような低い声。

 それは本気で怒っているときのゼスさんの声でした。

 やべえ。キレてる。


「そりゃ事態を一商人の犯罪として収束させるためだね。

組合本体にまで波及したらどれだけの死者が出ると思ってるのかな?

経済も止まってしまうしね」


 黙るゼスさん。

 超おっかない顔してます。

 絶対に納得してません。

 なぜなら本物の騎士には細かい理屈などゴミです。

 価値の基準は正義かそれ以外かしかないのです。

 目の前の偽者とは違います。


「それに従業員には死刑判決は確実。

ベラベラ喋られると困るからね。

心配しなくていいよ!

支部長以外は苦しまないようにしてあげたから」


 ゼスさんの顔が真っ赤に変わって行きました。

 まずい!


「ゼス・セシル!止まれ!」


 私が大声で叫ぶとゼスさんが止まりました。


「ゼスさん。領主命令です」」


「……」


 ゼスさんは押し黙ります。本気で怒ると黙るタイプだったんですね。


「帰りましょう。撤退命令を出して下さい」


「ですが!」


 ゼスさんがたまらず噛み付きます。

 仕方ないので私はエドガーに言います。


「どうせ正式な命令書があるんでしょ?議会あたりの。

でもあんたは領主の財産である現地採用の領民を勝手に殺した。

その賠償金は頂きますよ!」


 不本意ですが金で解決するしかありません。


「勿論。我が海賊党がちゃんと支払うよ。ところで気にならないの?」


「他の領地の武器商人ことですか?

どうせ詐欺に関わった連中は同じ目に会ってるんでしょ?」


「さすが僕のクラウディア!」


 この野郎。

 なぜか目の前のイケメンにとてつもない嫌悪感が沸きます。

 確かに私が捕らえても出てくる結果は高確率で同じでしょう。

 金やその他の条件で解決できない限りは死刑は免れません。

 刑務所のシステム自体がないのですから。

 労働で払ってもらうのも限界があるでしょう。

 そして詐欺犯にはその金があるとは到底思えませんから。

 でも私なら少なくとも言い訳を聞くために裁判くらいは開いてやったはずです。

 あー胸糞悪い。


「帰りますよ」


「僕は任務終わったから王都へ帰るよ。またねー」


 私がエドガーを無視して撤退しようとしたとき脳内に変な映像が流れて来ました。

 これは念話しかも映像付き。

 無駄に高度な魔法です。


 それこそ今では何も覚えてないほどの大昔。

 たぶんどこかの世界で魔王やってたころだと思います。

 そこで見かけた魔族の文字。



 君を離さない。たとえ殺してでも。



 そう書いてありました。

 後ろを振り返るとエドガーが満面の笑みを浮かべ手を振ってました。

 過去に一度もモテた事のない私。

 そんな私は異性に告白されたのにそれ自体がクラスメイトの仕掛けたイタズラかと疑う中学生のように猜疑心で胸がいっぱいでした。

 

 

 ギャグ分が少なかったのでおまけ


 魔王様の犠牲者ファイル


 ①勇者バイロン


 シルヴィアこと剣王ガラハッドを装備の力で倒した勇者。

 女を見ればとりあえず口説くリア充野郎。

 だがそんな勝ち組生活も長くは続かない。

 ガラハッドを倒して世界を救ったとたんに本命の姫は賢者の元に。

 NTRれた挙句にポイ捨て。その存在自体を闇に葬られる。

 転生してドラゴンに生まれ変わったので全人類に復讐するため暴れる。

 遊牧民を蟻んこを潰すように楽しく殺してたところを魔王様と接触。

 余計なことを言って魔王の逆鱗に触れる。

 嫌がらせのようなせこい攻撃を受けたあとシルヴィアの魔法で瀕死に。

 最後の力で魔王様に一矢報いたと、そう思った時代がバイロンにもありました。

 結局、台無し感満載で有害鳥獣として人間さんに駆除される。

 お約束の台詞すら最後まで言わせてもらえなかった。

 たぶん一番頭悪くてかわいそうな人。

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