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魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第2章 内政編 議会議員の司教を脅迫したら追放されたでござる
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セイバーメトリクス

 シルヴィアと理事長。それに私という魔王三人。

 それに対するはゼスさん、ギルさん、ローレンスさん。

 計6人での会議の始まりです。

 

「ほう……これが噂に聞くオリハルコンですか。で、こっちの緑の石はなんでしょうか?」


 オリハルコンを手に取りながら物欲しそうな目をするゼスさん。


「恐れながらゼス様。それはエメラルドの原石だと思われます」


 華麗にツッコむ守備兵団の主計長ギルさん。

 ゼスさんは思わぬ高級品に目をパチクリさせています。


「えーっと。説明するのが面倒なのでまずは見てください。ナイフありますか?」


 ゼスさんに耳打ちをしてナイフを渡すギルさん。あーめんどくせえ。


「ギルさん。今度からそういうのはやめましょう。

相手はただのガキなんですから直接会話してください。

これは領主としての命令です」


「かしこまりました。では私のナイフを献上いたします」


 そう言って私にナイフを(シース)ごと渡すギルさん。

 私はそれを受け取りナイフを抜きます。

 飾り気のない両刃のダガー。磨いだ形跡あり。

 これなら万が一に破損させても怒られないと思われます。


「すぐに返しますので。じゃあ見ててください」


 私はおもむろにオリハルコンでナイフをこすりました。

 するとすぐに眩い光が刀身から発せられます。


「な、なんですか!」


「はい。伝説クラスのナイフになりました」


 そして私は机の隅にある花瓶の前でさっとナイフを振りました。

 花瓶の真ん中を抜ける刀身。

 ですが花瓶は割れることもなくそのままです。

 それを見たゼスさんは驚きながら花瓶を引ったくり、切れたはずの上の部分を引き抜きます。

 なぜかくっ付いて離れない上部分。

 力を入れるとようやく離れます。

 瓶を二つに分けたゼスさん。

 その顔は驚きのあまり完全に壊れて崩れてました。


「あまりにも鋭利なもので切断されると断面がくっ付くってヤツなのだ。

しかもこのナイフはドラゴン殺せるようになったのだ。ドラゴンスレイヤーというやつだな」


 冷静に解説をするシルヴィア。

 今ここには渋い顔をして押し黙るギルさん。自体を把握して驚愕するゼスさん。

 まだ何もわかっていないローレンスさんがいました。

 ローレンスさんは武器は専門外なので仕方ありません。

  

「これほどの武器がこんなに簡単に……だ、誰がこんなことを考えたんですか!」


 私は領地の地図を出し、とある山を指差します。


「この山の妖精に製法を教わりました。

ちなみにこの山には無尽蔵な埋蔵量のオリハルコン鉱山があります」


 私はサブローやゴローを強引に妖精さんという事にしました。

 領主が白といったら黒くても白なのです。

 ですがそこへのツッコミはありませんでした。

 やはりオリハルコン鉱山の方が問題なのです。

 私は畳み掛けるようにもう一つの懸念を言います。


「ついでに言うと、同じく埋蔵量が多大なエメラルド鉱山も発見しました。

こちらは魔法の天才でいらっしゃる殿下による発見です(嫌味)」


「その山はこの辺なのだー」


シルヴィアが指を差したその場所はオリハルコン鉱山のすぐ近くでした。

なるほどそういう位置関係なのか……

ふと前に視線を移すと青い顔で苦虫を噛み潰したような顔をしてる大人たちがいました。

みなさん私と同じ感想をお持ちのようです。


「これから男爵領はどうなってしまうのですか?」


 搾り出すような声でゼスさんは言いました。


「一番簡単で穏便な手段は領地を返上して王家の直轄地にすることです。

少なくとも領民(……)に死人は出ません。

商人や農民も含む住民は強制転居。

山に住んでる妖精さん(魔族のみなさん)は邪魔なのと口封じに討伐でしょうね。

私は無能の烙印を押され政治的に死亡。

シルヴィアと一緒にどこか遠くに追いやられることでしょう。

無事なのは守備兵団だけですかね?

その場合でもトップのゼスさんは適当な理由で失脚させられると思われます」


 ローレンスさんもギルさんも青く歪んだ顔をさらに歪めています。


「大丈夫です。ローレンスさん。

アレックス様はこの手を使うとは言ってません。

土地を奪われた農民の末路はご存知ですよね?

土地を奪われたからと言って識字率が低い状態では、多くの農民は労働者への転身も難しいでしょう。

現時点では治安の悪化の要因にしかなりません。

つまりこれは完全な下策です。

それに時間的余裕は数年はありますからこれは最終手段とお考えください」


 安心させようと説明する理事長。

 ですがローレンスさんの青い顔はもはや白くなり、その手は小刻みに震えています。

 

「で、そこでローレンスさんにお願いがあります」


 私はとび切りの悪い笑顔で言います。


「リコリス売りさばいてください。許可は最優先で取ります。

リコリスで鉱山の事を隠蔽します。これはただの時間稼ぎですけどね」


そして私はローレンスさんに金貨の入った袋を渡します。


「その金で王都中央青果卸売組合に加入してください。

紹介状は理事長とシルヴィア、それに私の連名で書きます。

リコリスは薬種問屋ではなく青果市場に流します。

わざとそこを通してリコリスをアカデミーに売ってください。

それを元に人脈を築いてください。貴族や軍人には紹介状送りまくりますんで。

男爵領の農業組合には30%まで手数料の裁量を与えます」


「さ、30%!そんな高収益でよろしいので?!」


「もちろんです。薬にすればいくらでも値を吊り上げることができますし、リコリスは出荷できるまでに4年かかるはずです。なので手数料多く取っちゃってください。

そのかわり、(おろし)への手数料は普通は5%ほどですが、上乗せしてやってください。

とにかく(おろし)が手放せない高収益な作物にするのが目的ですので。

これで鉱山の件をごまかします」


「お、仰せのままに」


「ゼスさん。

この書類。王家への報告書の副本に証人として署名と紋章の焼印をお願いします。

内容はオリハルコンとエメラルドの件です。

まあ覚悟はしてください」


「かしこまりました。マイロード」


私はついでに重要な件を問いただします。


「ところでギルさん。

私たちは一蓮托生となります。

それで騎士団の主計長であるあなたがナイフの達人であること、それも普段の練習は両手持ちナイフである件をご説明願えますか?

騎士団や守備兵団の武術ではないですよね?」


 ぎょっとしたような顔をするギルさん。

 さすがに一瞬で平静に戻りましたが。


「なぜお分かりになったので?」


 ゼスさんが私に聞きます。

 なるほどゼスさんは知っていたのですね。


「いえ。腕と手の傷ですよ。

その傷、素振りで切った傷ですよね。

剣だったら大きいので素振りで切ることはないのですけど、ナイフだと二刀での素振りをやってると上級者になればなるほどサクッって切っちゃうんですよね」


 私もシルヴィアにやらされたときに切りましたので断言できます。

 私はわかりやすいように素手で(シナワリ)の動き見せます。

 右左右と左右左と手にもったつもりの見えないナイフを振る私。

 和太鼓を叩く動きに少しだけ似ています。

 そして動きを徐々に小さく速くしていきます。


「あ、切った。やっぱナイフは苦手ですね」


 ものの数秒で交差するときに自分の腕を切ってしまいました。はいおしまい。

 本当のナイフを持ってなくてホントによかったです。

 シルヴィアが『このド下手』って顔で睨んでますが華麗にスルーです。


「……なぜ?……私どもの村でしか伝わっていないはずのものをご存知なので?」


 よっしゃ!ヒットしました。反応がありました。


「そうですね。最初から説明いたします」


 私は自分たちの素性を話します。

 我々の前世はとある世界の勇者。

 戦士のシルヴィア。魔法使いの私。魔法戦士の理事長。

 魔法戦士がお荷物キャラなのは古き伝統に則ってます。

 長い旅の末、魔王の城に乗り込んだ私たち。

 魔王とのラストバトル。

 魔王を追い込んだものの、自分自身を生贄として捧げることで降臨させた破壊神に我々は破れ人類は絶滅。

 気がついたらこの世界に生まれ落ち私は魔法が使えなくなり戦士に。

 シルヴィアは身体的に脆弱に生まれ魔法使いに。

 理事長は学者に。(またもや戦闘で役立たず)

 という事にしました。主にゼスさん対策で。

 もちろん主成分は嘘と優しさでできています。

 このシナリオなら信じてもらえなくても痛い子と思われるだけですむでしょう。 

 実際は、マップ兵器な魔法使いの私。(5cmの段差をふみ外しても死亡)

 物理攻撃だけで多くの敵を葬ってきたサムライ魔王で同時に拳王様のシルヴィア。(お外が怖いのでダンジョンから一歩も出ない)

 住所不定職業不詳の理事長。(どうでもいいや)

 という魔王様三人だったりします。

 ちなみに今回も適当なことを言ってごまかしましたが、彼の村の武術を知っている根拠は示してません。

 だってシルヴィアに習ったんだもん。誰も信じてくれんわ!

 『あー前世で似たような武術あったんだー』と素直に勘違いしてくれることを祈ります。


「私の方はそんな感じです。

ところでギルさんのお知り合いで警備業務とか諜報業務ができる人いませんかね?同じ村のかたとか」

 

 死霊騎士とかゴーレムだと街での活動には向いていないので人手が必要です。

 サブロウやゴロウは戦闘力的に論外ですし。

 何の人手か?

 商人の警備、敵対商人の調査、その他もろもろです。

 それでナイフをメイウェポンにしている商売の方が適任だと思ったのです。

 だって正規軍だったらいらない技術です。

 それをわざわざ習得してるのはあやしい仕事をしてる人たちですから。

 私はそんな人材が欲しいのです。


「かしこまりました。八方手を尽くしてみます」


 クールに言われましたが、ギルさんかなりうれしそうです。

 あやしい仕事の就職先って多くはなさそうですもの。

 私はギルさんの承諾を貰ったので、次は理事長に指示を出します。


「あと理事長。

会計学や商学の卒業生で就職失敗して暇な子いたら、うちにスカウトしてもらえませんか?

あとできれば統計学のできる子も」 


「オーバードクターの研究者が大量にいるけど。統計学?何をやらせるの?」


「セイバーメトリクスです。それを敵対組織に応用します」


 セイバーメトリクスとは野球の分析法の一つです。

 セイバーメトリクスを使うことによって選手のチーム内での貢献度を数値化します。

 これにより得点はあげてるけどチームの勝利には貢献してない選手や勝利に貢献してるのに不当評価されてる選手をピックアップすることが可能です。

 現代と呼ばれる文明レベルの世界では野球だけではなく他のスポーツ、競馬の予想などにも使われている手法です。

 

 これを敵対組織に当てはめてみましょう。


 例えばマフィアを例にセイバーメトリクス的な分析の一例を紹介します。

 まずは構成員の行った業績を数値化し各種指標から組織への貢献度を導きます。

 貢献度を給金や経営する事業の利益、組織内の地位と比較して偏差値を算出します。

 どの組織でも恩賞は金や組織内の地位です。それを数値化して偏差値を出せば組織内での評価と実力の一致が一目瞭然になります。


 この時点で、組織の勝利に貢献した幹部、

 利益は上げているけど実はそれほどは役に立っていない幹部、

 細かい作業を一手に引き受けてるのに地味だから不当評価されてる幹部、などが偏差値で見えてきます。


 この偏差値はそのまま構成員の裏切りの可能性を示すバロメーターになります。

 偏差値が中間地帯の構成員は貢献度と恩賞が吊り合ってますから、組織内で正しい評価を受けていると考えられ、裏切る可能性が比較的少ないと言えます。

 極端に恩賞が高すぎる場合は、不当なお金を貰っても良心の痛まない要領のいいクズタイプなので金や抗争で裏切る傾向が強いと言えます。また暴力での脅しも非常に有効です。

 また極端に恩賞が低い場合は組織内で不当評価されてますから、情と金に訴えて説得すればこちら側に寝返るでしょう。

 このようにデータから人間の傾向を読むことが可能になるのです。

 他にも、行った仕事の評価から人間関係、特に敵対関係を導き出して離反工作を仕掛けることも可能です。

 もちろん、その後に諜報活動で背後を徹底的に洗い出しますが、下調べとしてはかなり効率がいい手法なのです。

 欠点としては非常に計算が複雑なので一人では算出も分析も無理です。


 ここまでをドヤ顔で語った私。

 そんな私へ浴びせられた視線はそれは冷たいものでした。


理事長 「君は社交的だし明るいタイプなのにぼっちな理由がよく理解できたよ」


シルヴィア 「うわあ。人間関係に統計学とか……ひくのだ……」


ゼス 「アレックス様なんと不憫な……」


ギル 「さすがにどうかと……」


ローレンス 「商人としては素晴らしい資質なのですが、5歳の子供がそうなのは感心しませんな。自分の子供だったら殴ってでも止めますな」


 みんなひどい!

 私、悪いこと言ってないじゃん!

 なにその態度!

 それ以上いじめたら泣きますよ!泣きますからね!

 ですが、このいじめはまだ前菜だったのです。

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