第2章 内政編 プロローグ(無駄に長い)
「また……君はなんということをしたんだね!」
理事長に呼び出された私。
昨日泣きすぎて目が腫れまくってます。
明後日は王城へ登城しなければならないというのに……やっかいな……
「レンフォール司教の事ですね。いきなり殺すよりはずっと穏便だと思いますけど……」
「彼は司教を辞めて還俗したよ。教会枠の議員も辞職。これで気がすんだかい?」
「はい?」
喧嘩売っておいてメンタル弱すぎです。
「馬の死体事件で家族がどれだけ大事なのかを理解したらしいね。一人の父親に戻ったよ」
「はい?」
いや『いい話し風』に語られても……
「いやだってちょっと家族と御身を質に取っただけでそれって……そこからリベンジしにきたのをゲラゲラ笑いながら叩き潰すのが面白いんじゃないですか!」
私は本音をぶちまけます。もうこの理事長の前でいい子にしてる必要などないのです。
「はあ……一応言っておくよ!僕にも言えることだが……この世界の住民は僕らほど図太くないんだよ!アレックス、君はやりすぎなんだ!ここには僕らのように何千年も殺し合いと権力闘争に明け暮れてたヤツなんて存在しないんだ!」
酷すぎる!そんな殺し合いなんてしてません!わたしは抗弁します。
「ちゃんと私は災いの目を事前に詰んでいます!逆らうものはちゃんと皆殺しにしてます!」
「だからぁ!わかるかい!みんなそういう君が怖いんだ!異世界から持ってきた神のごとき知識。圧倒的な暴力。しかも本人の気が荒くコントロールできない!これを恐れない人間なんていない!」
スルー!華麗にスルーされた!しかたない!ネタに走ろう。うん!
「いや私はただのおバカな5歳児ですよ!ヘイ!うんこちんちんー!」
「(呆れ顔で)もうすでに誰もそんな目で見てないよ……幸いなことにまだ君が異世界の魔王であることは知られていないが……」
私の発言を華麗にスルー。どこまでも冷たい表情で私を見る理事長。
すいません。マジでその目やめてください。心が折れそうです。マジで……
仕方ありません。本音を言うとしましょう。
「じゃあ私をどうするっていうんですか?はっきり言って私を殺せるのは勇者とシルヴィアだけですよ!前に理事長は『人類を敵にまわす』っておっしゃいましたが、敵に回したところで痛くもかゆくもないんですよ!」
※ただの売り言葉に買い言葉です。実際は暗殺されます。
そんな私の言葉を聞いて理事長はニヤッと笑うととんでもないことを言い出しました。
「だからシルヴィア様と結婚させるのさ。君が全てを殺し尽くしても王位継承権を持つシルヴィア様と婚姻した君は残り、王家も残る……というわけだ」
私は呆れました。そう……なんでやねんと。
完全に目的と手段が逆になっています。
心の底から呆れる私。
そんな私を見て理事長は話を続けます。
「それにね。もう一つあるよ。君の領地。男爵領だね。そこに君と殿下の事実上の遠流が決定した。いわゆる追放だね。そこになんと、私もおまけでついて行くことになった。うれしいなー。楽しいなー。隙があったら犯人ぶっ殺したいなー」
目が笑ってません。理事長はマジでキレています。
正直すまんかった。
「まあいい。僕は君が何をするかそれを見させてもらうよ!」
ああなるほど。つまり善政を敷けと……それを見てやるよと。
最後に私は負け犬の遠吠えを一つ。
「私が思い通りになるとは限りませんよ」
「君は根は善良だ。常識が曲がっているだけだ。それだけは揺るがないよ」
最後まで言い負かされて私のささやかな反抗は終わりを迎えるのでした。
私は覚悟を決めました。
こいつら……議会のアホどもだけには負けないと。
◇
数日後、私とシルヴィアの婚約が発表されました。
表向きは薬事件での功績を認められて。
実際は私を恐れた議会の言われるままに追放処置と。
我々はまだ5歳なのでとりあえず婚約をし、結婚自体は私の成人……この世界だと15歳になるのを待って行うことに決まりました。
婚約自体は王家の威光を民に伝えるためのものであり異常なほど盛大に行われました。
しかし晩餐会はありません。
なぜ、貴族や豪商を呼んでの晩餐会を行わなかったのか?
それは簡単です。誰もが我々を恐れていたからです。
キレた私が暴れるのが恐ろしかったのです。
その代わりに私は国王に呼ばれました。
しかも謁見の間ではなく私室に。
「失礼いたします」
私は一礼して部屋に入りました。
部屋には恰幅の良い男性がいました。
私は部屋にいる男性を足の先から頭まで観察しました。
普通のおじさんです。
どこをどう見ても普通のおじさんでした。
うちの父親よりも覇気がないのです。
「アレックス君。その顔はあまりにも普通の人でびっくりしたというところかな?」
「いえ……そのようなことは……」
「いいんだ。私はね。将来の娘婿に会ってみたかっただけなんだ。君が普通だったので安心したよ」
「普通ですか?」
「そうだね。普通だよ。普通の5才児だ。生意気で無意味で極端で頭でっかちだけど何も知らない。ただの愛を欲しがってる子供だ」
何気ない台詞なのに無性にイラつくのはたぶん図星を指されたからでしょう。
私は目の前の男の評価を改めました。
なるほど。力を持たないものが王になるということはこういうことなのでしょう。
魔王を目にしてこの態度。ぶっ飛び方が半端ない。自分なんかよりよほど化け物です。
私は今になってなぜ人類に延々と破れ続けたのかを覚りました。
「君には本当にすまないことをしたと思っているよ。本当だったら褒めてあげるべきだ。まあ最後のいたずらに関しては、オシリ叩いて拳骨落として正座させて説教して、司教とその家族に土下座してごめんなさいさせるべきだと思うけどね」
すんません。お尻ペンペンは精神的にくるのでマジ勘弁してください。
土下座の方がまだマシです。
って……?
「もしかしてシルヴィアが猫かぶりまくっていい子にしてるのって陛下が怖いから!」
「んー?怖くないよ。ただ私はお父さんだからね。怒るときはちゃんと怒るし拳骨もするしお尻も叩くよ」
……あの殺戮マスィーンにお尻ペンペン……うちのオヤジですら私には恐れて何もしないのに……この人……最強すぎる……
私は内心、超ガクブルしてました。今まで周囲にいなかったタイプです。行動が読めません。
でもなぜか安心して言う自分に気がつきました。もし自分が(魂的に)女じゃなければ家族になってもいいかなと思ったのです。
その日は夜まで王様と語り合いました。シルヴィアの事や薬の事や学校の事。いろいろとしゃべりました。
◇
一ヵ月後。
王都を出て私たちはついに男爵領の前につきました。
何にもないド田舎。
土地は痩せ。作物はまともに育たず、栄養状態が極端に悪いため病気が発生しまくり。
治安はステキなモヒカンが村を襲ってヒャッハー。
バカな徴税官が村娘をさらってヒャッハー。
キレた農民が一揆を起こしてヒャッハー。
もうだめぽ……パパ……なんでこんなんなるまで放っておいたの……その謎はすぐにわかりました。
ええ。すぐにわかりましたとも。遊牧民の軍勢による略奪。
ステキなモヒカンとは別枠です。ヒャッハー。
つまり市民の生活<国防だったのですね。
男爵領に入る私たち。王族であるシルヴィアは一段豪華な別の馬車です。
ガラガラと音を立てる馬車。超揺れます……お尻が痛いです。……今度サスペンション作ろ。油圧式のヤツでいいから……
領内に入ると道にうずくまる男性が目に入りました。
それは懐かしい目をした男でした。それは負け犬の目。ただ侵略者に搾取されるだけの生活を漫然と受け入れる負け犬の目。それは私が全ての前世で 魔王を始めた頃……そのときの魔族の皆さんと同じ目です。
……なぜか気に入りません。私にはその目つきがたいへん不愉快だったのです。まるで……自分自身を見てるような……
どこまでも魔王という職務が追いかけてくる。それが私の宿命というやつなのでしょう。
私は頭をワシワシとかきむしると理事長に問いかけました。
「理事長。予算どのくらい使えます?」
理事長は私の態度を予想していたのか意地悪く笑い、そして私の予想を超える答えを返しました。
「国からは予算の三年分。それと君の薬のパテントが大量にあるよ。それこそ新たにいくつも荘園を買えるほどにね!驚くほどだよ。さあ、何からはじめる?」
「まずは……都市の衛生状態と食料ですね。ただ配るのではなく生み出すことを考えましょう。野盗に関しては私が滅殺すればいいですかね?」
そう言って私は不適に笑うのです。




