とうとう……いろいろばれました 後編
病気事件が収束して数日後の事です。
私たちは議会に連行されていました。
市場に続く道に売られる子牛のようにです。(動揺)
やばいです……超やばいです。
どうやばいのかって?
そう……
あくまで私はド素人です。
ここまでの成果は出せるはずがありません。
こんなインチキ薬(とは言い切れない何か)で死者が出ないとは……
確かにこれはこの世界になかった気休め程度の薬です。
あくまで気休めです。科学的には怪しいものです。
なぜなら、行商や商人から買った薬草や香辛料。
これらは薬草用として栽培されたものではありません。
自然の状態に近いこれらが、この薬を発明できた世界のものと同じ有効成分が入っているとは限らないのです。
そして私の調合技術も超いい加減です。
調合比率と原料の加工方法はなんとか覚えているという程度です。
じゃあ、なぜここまで効いたのか?
それは思い込みです。
なんか良くわからないけど効く薬がある。
それを飲んだから治った。いや治ったに違いない。治らないはずがない。こういうことです。
思い込みの力は時に奇跡を起こすということでしょう。
そういう意味では私の薬は当初の目標を大きく超える成果を出したのです。
Q.お前こないだ栄養状態いいから効いたって言ってたよな?
A.だって効いちゃったんだもん。後付でも理由説明しとかないとダメじゃん。
要するに……お薬さん超効きました。庶民の皆さんもみんな助かりました。
よく考えたら当たり前なのです。
誰もが薬のない世界で今まで生き残ってきた人たちなのです。
現代人とは根本的に基礎体力が違います。
薬なくても気合さえあれば結構大丈夫かも!でも薬飲んだから元気でたね!
ええ。ハッピーエンドでしたよ!
みんな元気になりました。
油デブは神様のようにみんなに感謝されましたね!
私たちの手柄横取りでよかったですね!
まあ、私たちの功績じゃ色々問題があったみたいなんですけどね!
く、悔しくなんてないんだからね!(チラッ!)
誰か慰めてくれる美少年ください。マジで。
さて……では、なぜやばいのでしょうか?
それは魔族も含めた人類の歴史において必ずあるもの。
ギルド、商工会、組合、協会、漁業権、入会権、同業者株、営業許認可。
形態は違えど、この世には特定の身分の人たちのための団体や制度があります。
つまり何が言いたいかというと……
薬屋の団体に後ろから刺されました。
いえ、実際に刃物で刺されたわけではありません。
『怪しい薬を使ったぞ』と、行政の薬を扱う部署に圧力がかけられたのです。
その可能性は考えていました。
というか、この世界の薬なのですが、珍獣の肉とか珍しい草とかのペーストや煮汁を適当に丸薬にしたものが主流です。
その理由は「珍しいからご利益あるかも?」という程度のものです。
つまり根拠なんてないわけです。
確かにサイの角や熊の肝のように一部には効果があることがわかっています。
ですが、あやしい珍獣の肉を摂取するくらいなら効果のわかっている薬草のほうが遥かに効くのです。
……要するにこの世界では、薬なんて効くか効かないかすらわからない胡散臭いものなのです。
そこにある程度の効果がある薬が現れてしまった。
自分たちでは作れない。
だって違う世界の技術体系だもん。
じゃあ潰しちゃえ。
できれば潰してから知識奪っちゃえ。
まあそういうことです。
ですが、ここで腑に落ちない点があります。
私とシルヴィアは将軍の息子と王家の姫です。
ぶっちゃけ権力です。
商人の組合が潰すには難易度が高いでしょう。
というか無理です。普通返り討ちです。
私も魔王時代には僧侶と酒と麹の利権で揉めて本山を焼き討ちしたりとかしたものです。
夢見がちの僧侶ならまだしも計算高い商人が勝てない喧嘩をするでしょうか?
……私たちに勝てる何かを持っている
そう考えるのが自然です。
よし詰んだ。マジで。
仕方ないなあ……潰すか……クソ人類。あとついでにリア充。
全て皆殺しだ!立て!魔物の諸君!薄汚い人類に復讐するのだ!
燃やせ!犯せ!殺せ!そうだ滅ぼすのだ!
瞬間、横にいた幼女が鋭すぎるストレートで私のあごを打ち抜きました。
「ッマ!!!」
白目を剥いて崩れ落ちる私。
気功での防御など間に合いません。
死にます。マジ死にます。
「あきらめるな!あきらめたらそこで……ん?なんだっけ?」
そう言うシルヴィアに私は命乞いをします。つうか知りません。
「もうやめて……魔王ちゃんのライフはゼロよ!!!つうかマジで顔はやめて!私は顔しか取り得ないんですからね!」
なんとか意識を無理やり取り戻した私。
その私の脳裏に必勝のアイデアが浮かび上がってきました。
……殴ると動くようになる家電みたいだな……私。
「で、どうするのだ?」
「誰だかわかりませんが……我々を敵に回したことを後悔させましょう……ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「その笑い方は下品だからやめたほうがいいと思うのだ」
さあ、ゲームの始まりです。
◇
議会に通された私たち。その手足には手錠が掛けられています。
私たちを値踏みする政治という修羅場を潜った亡者の目。
こうして議会によるリンチが始まりました。
相手がガキだと思って舐めていますね。
それが私の第一印象でした。
私たちは議会制民主主義を体験しています。
私はそこで州知事から大統領(テレビ中継中に暗殺)に、シルヴィアは町内会長から始めて内閣総理大臣(汚職事件が持ち上がりその最中に刺殺)になった経験があります。
政党の意味や派閥の意味を身をもって知っているのです。
要するにもう結末は決まってるんだろ!
あひゃひゃひゃひゃひゃ!
でも、我らに勝てるかなあ!勝てるのかなあ!
私は下種な笑いをかみ殺しながら、さも恐怖に震える子供のような演技をします。
ふと横を見たらシルヴィアも恐怖に震える子供のような演技をしています。暗黒のマナを垂れ流しながら。
「ライト・オナラブル・アレックス。プリンセス・シルヴィア。両名、神と議会の前で宣誓をしなさい」
恐ろしく高いところからの物言い。この偉そうなおっさんが議長のようです。
彼は議会の右にも左にも席がないようです。
つまり派閥的に中立派、もしくは中立に動くことになっている人物。
……だが、議会外での影響力を行使できる。と考えておきましょう。
「「我々は、神聖なる王国、この世に絶対なる神、国王、信仰の守護者、等々の恩寵によって、崇敬する君主である国王の忠実な臣民である立場をもって、ここに真実のみを語ることを宣誓いたします」」
マザーファッカあんどホーリィシットです。
目の前に正義の女神ジャスティスがいたらクソビッチの穴という穴に(自粛)してビデオにとってネット中継してやります。
経験ないですけどね。2000年処女で今も童貞ですけどね!この世界ネットないし。
ふぁっく!
横を見たらシルヴィアもこめかみに血管を浮かべながら歯軋りしています。
「宣誓が終わりました。では審問を開始する。まずは状況に至る説明を。レンフォール司教」
「はい。議長。この薄汚いブタどもは偽薬を用い民を騙し、我らの教えを踏みにじったのです!ヤツラは悪魔です。殺すべきです!仕分けるべきです!だいたい」
あー。黒幕わかっちゃった。
なんのひねりもなく坊主じゃん。
あとで皆殺しね。火つけて首跳ねるわ。
その後もこの司教は我々を断罪する言葉を吐き続けました。
「なにか弁明はあるかね?」
「この薄汚い売国奴めが……」
「……売国奴。なんという無礼な!」
「やはり悪魔の子か!」
「殺せ!殺せ!殺せ!」
私の発言を聞いた議会はざわめきます。
「な、い、今何と言ったのかね?!」
「くっくっくっくっく!『この薄汚い売国奴めが』と言ったのですよ議長!安くて効果の高い薬が現れて誰が困るのか?それはわが国の隣国ですよ!」
大嘘です。困るのは薬種問屋です。ですがこの言葉は一定の議員のハートに響いたようです。
「ライト・オナラブル・アレックス!口を慎みたまえ!これ以上は議会への侮辱罪で」
私は気功で手錠を引きちぎりました。
手錠が落ちるガシャーンという音が議会に響きます。
「ふう……これですっきりした……シルヴィア!」
「結局……暴力か……こりないな」
そう言いながらシルヴィアの手錠が砂のようになって崩れ落ちました。
同時に念話で会話します。
――殺すのかアレックス?
――いいえ。いずれ教会は滅ぼしますが今は交渉します。暴力でね。
「私は神の前で誓いました!神聖なる王国の民であることを!売国奴をこの場で抹殺してもいいのですよ!」
この言葉に反応したのがタカ派の皆さんです。いえ、心が動いただけです。今はそれでいいのです。
「か、神に逆らうとでも言うのか!」
「いいえ。売国奴に逆らうだけです。お嫌ならこの場で奇跡を起こしてみてください。首と胴が離れても生きてられる奇跡をね!」
「しょ、所詮は子供のたわ言だ!衛兵!衛兵!こいつらを捕らえろ」
さーてぶっ殺しますか。
あーあ優しくしてくれたお兄さんたちなのにな……(嫌味)
私は気功を練ります。ええ、今回は一切の手加減なしで、です。
私が手を振り上げました。
目標は壁。それを破壊します。
とりあえずは威嚇だけでいいのです。
それでもダメならぶっ殺します。
その時でした。
「双方待て!」
人影が私の前へ躍り出ました。
ふんがッ!
声が響き渡りました。はい。響き渡ったのですが……
私の気功の方が早かったのです。
どごーんッ!
人影はゴミのように宙を舞いました。
あ、殺っちゃった?
私は冷や汗をかきました。
いや殺すつもりはなかったんですよ!
殺人は計画的にやらないとダメなんですよ!
「理事長おおおおおおお!」
人影を心配する声が響きます。
あれ?油デブ。じゃあいいや。
ですが……あの油デブがあんなに素早く私の前に躍り出られるでしょうか?
物理的に。
粉塵が飛びちり、油デブがどうなったかわからなかったのですが、だんだんと見えてきました。
そして私が見たもの。それは油デブではなく白髪で長身の男性でした。
「い、いや大丈夫だ!はははははは!」
男性は元気に立ち上がりました。
「さて……彼ら二人は私の教え子です。我がアカデミーが責任を持って彼らを管理すると誓いましょう!」
教え子?管理?アカデミー?何言ってんのこの人?
――シルヴィア?意味がわかりません。
――あれ理事長だぞ!
はい?
――っちょ!意味がわかりません。
――うん。いつも魔法でデブの姿になってるからおかしいと思ったのだ。
言えよ!バカ!
「皆さん!彼らはこの場で全員を皆殺しにできるほどの武術家と魔法使いです!しかも、今はたったの5歳!しかもアレックス君はその年で薬まで作る天才児!彼らが、王国にどれほどの利益をもたらすのか!考えてみてください!」
「だが、悪魔の子だ!」
「悪魔?根拠はあるのですか!我らアカデミーを納得させるほどの根拠が!」
「……っぐ……」
ちょっと待て。根拠なかったんかい!てっきり魔王なのがばれてると思ってたのに!
「それに……これほどの異能を絶対かつ全知全能の神が悪魔ごときにお与えになるとでも?むしろ彼らは天使なのでは?」
それだけはない。誓って言える。
「大丈夫です。例え悪魔の子であろうとも神の教えを叩き込み王国の民に永遠の繁栄をもたらす天使にしてみせましょう!それをアカデミーは保障いたします!」
…………
……
まあ、要するに。また最後においしいところを持ってかれました。油に。
借りも作ってしまいました。
なんか横取りされた手柄だけでおつりがきそうな気がします。
わたしがふてくされていると理事長が見えました。
今は魔法をといて長身で白髪の男性の姿になっています。
「よッ!小さな英雄さん」
手を振ります。
まあ、仕方ないので相手してやることにします。
「理事長先生!騙すなんて酷いですよ!」
私はわざとすねたような物言いをします。子供らしく見せたかったのです。
「あー……君らの中身が子供じゃないってことくらい知ってるから。わざとらしい演技はやめてくれ」
え?
「っちょ理事長先生……あの……その」
「ようこそ異世界の魔王様。ってちょっと遅かったか!あはははははは!」
「全てを受け入れろアレックス。じたばたしても始まらないのだ」
「っちょッっちょー!」
私の叫び声が響き渡りました。
誤字だらけだったのを直しました。
6/16前回と矛盾する箇所を強引に修正。




