とうとう……いろいろばれました 中編
学園に着くと兵士のみなさんが大量にいました。
その中心にはシルヴィアがいます。
「シルヴィア殿下!」
私はわざとらしくそう言います。
「アレックス様。ご苦労さまです」
シルヴィアもわざとらしく返します。
それでいいのです。
※本人達は上手に演技できたと思っているが5歳児のやりとりです。
私の作った薬を教室に詰め込んでいる間、私とシルヴィア、そしてセバスチャンで作戦会議をします。
「で、どの薬なのだ?」
「リコリスとマオウ、シナモンとアプリコットの種で作った薬です。咳してないですし先ほどまで元気でしたしこれでいいかと。ダメだったら別のを試します」
実は私は自信がありませんでした。
医者ではないので診断はできないのです。
でも、この世界の医者も私とたいしてかわらないレベルです。
私に助言できる人は誰もいません。少なくとも私の周りには。
私の責任においてやらなければならないのです。
人類が月にまで行った前世で売っていた薬湯。その生薬換算量から逆算。 比率もほぼ同じです。効かないはずがありません。
そう効かないはずは……
私は必死になって自分に言い聞かせます。
ものすごくテンパっている私。
過呼吸になり、額から汗が止め処もなく流 れてきます。
それを見てセバスチャンが私に声を掛けます。
「アレックス様……あなたは自信がないようですな。大丈夫です。あなた様やシルヴィア殿下ならなんでもできるでしょう」
「私もできる限りは隠蔽してやるぞ。なあに権力の使い方はわかっておるからな!」
ありがたい言葉をかけられます。ゲスな笑い顔を浮かべているシルヴィアは鬼ですが。
私はいつしか思考が正常に戻っているのに気づいたのです。
……一週間後。
薬は効きました。
所詮飲み薬です。飲んだらすぐに効くということはありません。
ですが幸いなことに死人は出ませんでした。
いえ……素直に訂正します。
効きすぎてしまったのです。誰も死者が出ない。その異常さに私たちは気づいていなかったのです。
学校で男子が何人も病気になるということ。
それは病の流行を意味してました。
とりあえず直るまで隔離。これは仕方ありません。
これが幸いして他の生徒に病気はうつりませんでした。
これで気を良くしてた私たちがバカだったことがわかったのはその二日後。
学校で治療をしているという噂が流れたのです。
もうその時には収拾がつかない状態になってました。
学校に押し寄せる患者とその家族。
なぜそんな噂が流れたのか。それは実にシンプルな話でした。
私が薬を配った男の子の家族から情報が漏れたのです。
実際、学校の外ではバンバン死人が出てました。
ところが私の薬を飲んだ生徒には死人が出ていない、それは私の薬の効果でした。
……いえ……正直に告白しましょう。
死人が出なかった最大の理由。それは栄養状態の違いです。
この世界で学校に子女を通わせられる階級、それはアッパーミドルクラス以上なのです。
裕福な家庭の子女ですから、栄養状態が良いのは当然です。
栄養状態がよく体力があるからこそ、私の作った適当な薬が効いたわけです。
しかし、そのことすら医学的なリテラシーの存在しないこの世界では誰も理解していないわけです。
と言い訳しときます。実際ははわかりません。
わかるのは自分たちのおかれた状況、なんとなく変わったことをしたら病気治っちゃったよ。
その原因の全てが私の薬ということにされてしまったということだけです。
「なんかよくわからないけど学校行けば治して貰えるべさ」
瞬く間にこの噂は街を駆け巡りました。
ほんとうにあっという間でした。
そして数千もの民衆が学校に押し寄せました。
「薬をちょうだい!」
「薬をよこせえええええ!」
「貴様ら金持ちは俺たち死ねと言うのか!!!」
病人のはずなのにどこにそんな元気が残っているのでしょうか?
門を掴み揺さぶり、蹴り、泣き叫ぶ民衆。
そこにいたのは、まさに暴徒でした。
(やっべえ……やっちまった)
私は周回遅れの後悔をし始めました。
正解は「ヒャッハー言いながら見殺しプレイ」でした。
私は魔王時代だったら絶対にやらないミスをしてしまったのです。
焦ったのは私だけではありません。
「や、やってしまった……のだ……」
頭を抱えるシルヴィア。
「ほっほっほ……ほっほっほ……ほっほっほ……」
壊れたレコードのように変な笑いをするセバスチャン。
これを見る限り私も含めて全員がノープランだったようです。
私も乾いた笑いをしながら聞きました。
「あはははははは……セバスチャン……皆さんに薬配っても在庫足りますか?」
「アレックス様……まあ、大丈夫そうですな……」
「シルヴィア……もみ消すのは無理になりそうです……王さまに相談してもらえますか?うちのパパも王城でしょうし……」
もうヤケです。もう後の事など知らん!薬配っちゃえと思っていたのです。
その瞬間でした。ぞくりと背筋に冷たいものが走りました。後ろに気配を感じたのです。
疲れているとはいえ、完全に背後を取られていたのです。
私は気を放出してすぐに後ろを振り返りました。
完全な臨戦態勢。いつでも殺れます!
そして私がみたもの。それは……にやけた顔をした油デブ。校長でした。
「あれぇ?なんかタイミング悪かった?」
油デブがにやけながらわざとらしく言います。
私は一瞬、イラッとしたあと重大なことを思い出しました。
校長の許可取ってない!
完全に忘れてました。
一応、許可の有無を確認します。
「あ、あれえ?もしかして許可とか取ってませんでしたか?」
「ああ、最初の子供たちの隔離の件は仕方ないでしょうね。新しいポーションの出所を隠したかったんでしょう?なんでもアレックス様の家の秘伝とか」
微妙に間違ってますが、その方向でいいです。
私は余計なことを言わないように黙ります。
この油デブとはどこまでも相性が悪いのです。
そんな私の思惑を理解しているのか油デブは続けます。
「隔離の件は事後承諾でもいいのですが……外の人たちどうします?」
「……配るしかありません。死にたくないのなら」
わざと大げさにいいました。
正直言って、私とシルヴィアなら殺しに来たら最悪皆殺しにすればいいだけです。
ですが、5才児が言う言葉ではありません。
言っても無駄ならリアリティあるシナリオを信じ込ませればいいだけということです。
少なくとも油デブなら暴動で殺されるシナリオなら信じてくれることでしょう。
「まあそうでしょうねー。じゃあ受け入れましょう!王家と将軍家の責任で!」
そう油デブは笑いながら言いました。
最低です。最低の大人がいます。
5才児二人に責任を押し付けやがりました。
この期に及んで己の保身だけを考えてやがります。
でも仕方ありません。油デブと私のプランとは意味合いは全く違ってますがやることは一緒なのです。




