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魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第1章 魔王が転生しました
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とうとう……いろいろばれました 前編

 私は先日の事件のせいで硬派系の不良(ヤンキー)としてクラスの皆さんに認識されています。

 そう私も考える時期に来ているのです。

 盗んだ魔法のホウキで走り出す時期に来ているのはないでしょうか?

 幸いなことに暴力は得意です。

 ええ。得意です。

 魔族を暴力で支配し、人間さんを絶滅寸前に追い込む程度には。

 ヒャッハー!!!


「またアレックスがバカなこと考えてるのだー」


 私が将来について深く考えているとふいに間抜けな声が聞こえてきました。


「『また』って……ひどいですね。いつもは勉強とか勉強とか……あれ?勉強しかしてなくない?」


「いつも本読んでいるなー」


 そう、私はヤンキー扱いのストレスのあまり本に逃げていたのです。

 その現実逃避具合は相当なもので、図書館の本を専門書も含めて片っ端から読みまくるほどでした。

 ……失敗しました。

 そう、学校の初学年。それは種まきの季節。

 運動部に入ってBLイベント。

 同級生とBLイベント。

 ツンデレ同級生と放課後のBLイベント。

 身体を壊したら療養施設でBLイベント。

 どこにホモォが転がってるかわからない学園という名の戦場。

 私が呆けている間にすべてのフラグが流れてしまったのです。

 あ、図書館で文系男子とホモォはまだ間に合うかもしれません。


「やっぱり。ロクなこと考えてない顔なのだ」


「いえいえ、シルヴィアさん……我々は愛を忘れていたのではないでしょうか?」


 穢れのない水のように透明な瞳をシルヴィアに向けます。


「気持ち悪いのだ……」


 容赦がありません。でも空気など読まずに続けます。


「私たちは愛、L・O・V・Eを忘れていたのではないでしょうか?」


「アレックス……お前から最も遠い言葉が出たな……」


 失礼な!私は2000年も愛の求道者をしてるんですよ!

 実ったことはありませんけどね……

 もちろんこの程度の言葉で私を止めることはできません。


「告白を断った男子に無理やりズギューンされたりとかのステキイベントが欲しいです!士官学校で上級生にズギューン!つうか目隠しXXXとか滅茶苦茶にされたいです!つうかイチャラブ来いやあああああああぁッ!」


「なんでお前は常にネタに鬼畜系を織り交ぜるのだ?」


「大好きだからです!」


「あー。死ねばいいのに」


 うんざりしたようすでシルヴィアがいいます。


「ところでシルヴィアは何やってるんですか?」


 さっきからシルヴィアは人の話を聞きながら針と糸を持って布をいじっています。


「んー刺繍。母上から出された宿題なのだー。女の子の必修みたいだぞ」


「ん?2000年ほど女やってましたけど私できませんよ?雑巾すら無理です」


「相変わらず女子力低いのう……」


 女子力。それは私に残された最後のフロンティア。

 友達すらいなかった私にどうしてそんな特殊アビリティが習得できるのでしょう?

 ……全て魔王という環境のせいじゃあああああ!私は悪くないんじゃあッ!

 そこで私は思い出しました。


「でも私もちゃんと女の子らしい趣味あるんですよ!」


「ほう……今は男だからそれはそれでまずいと思うが聞いてやろう」


「園芸です!」


 そう。貴族の子女が「バラにとげがあるから無理ぃ!芋虫さん怖いぃ!」とか言ってるあれです。


「ほう?バラとかか?」


「いえ。花は食べられないので嫌いです。今は山芋に雲南百薬、リコリスやペパーミント、スターアニスなんかの栽培ですよ!」


「なんだそのラインナップ……全部薬草じゃないか……完全におっさんの趣味だろ」


 おっさんですか……そうですか……

 やる気をなくしてうなだれる私を無視してシルヴィアは黙々と刺繍をしていました。

 そんないつもの光景。平和な日常、それが一瞬で壊れてしまうのです。

 私たちに向かって手を振りながら女の子が走ってきました。


「アレックス君!シルヴィアちゃん!た、大変!」


 私がいじめっ子から助けた女子生徒ユーリアちゃんです。

 ピコピコという子供らしいしぐさで慌てています。


「ユーリアさん。どうなさったの?」


 シルヴィアが気持ちの悪い女言葉で聞きます。

 それに答えるようにユーリアはとんでもないことを言ったのです。


「せ、先生が倒れたの」



 先生が倒れた。

 それを聞いて私は患者が隔離されている空き教室へ吹っ飛んでいきました。

 先生に情があるからではありません。

 倒れるほどの症状はたいへん危険なのです。

 今のうちに対処しないと将来のエロイベントの幾つかが消えてしまうのです。

 空き教室。そこには先生の姿と何人もの男子生徒がいました。

 みんな咳をしながら具合悪そうにしています。

 私はゴクリとツバを飲み込みました。


「これって……流感?」


 シルヴィアが首をすくめて言います。


「もっと悪い病気かもな」


 私はうなだれました。

 落ちこんだからではありません。

 迷っていたのです。

 私は同級生たちを見ました。とても苦しそうにしています。

 この時点でも私は迷ってました。

 私はシルヴィアの方を見ました。

 シルヴィアの大きな目が私を見つめています。


「どうしたのだ?」


 私は何を迷っていたのか。

 それはいろいろと事情があったのです。

 この世界には薬草の概念はありますが、間違っています。

 実はこの世界の治療とは死ぬような病気に対して護符を貼ったり、祈祷したり、そういうレベルなのです。

 もちろん病気の予防も炎を焚いたりとかそういうレベルです。

 私やシルヴィアはもっと進んだ時代の魔王だったこともあるのです。

 もちろん医師や科学者ではないので、高度な治療は無理です。

 ですが、進んだ時代でもある程度の効力が認められた薬草。

 その知識は使えるものだと思っていたため、生きている間にある程度覚えていたのです。

 そして私の部屋。

 そこには庭師や執事を動員して作った薬が大量に保管してあるのです。

 気功や魔法の力でフリーズドライにした薬湯の数々。

 自分や家族が病気になった時のために保管してました。

 保健室の人数分以上のストックが存在するのです。

 でも問題があります。

 たとえ素人が作ったとしても明らかなオーバーテクノロジーです。

 そして未熟な社会で画期的な技術を生み出す人間。

 まあ、大抵抹殺されますね。

 既得権益が本気になって殺しにやってきますからね。

 私はそれが嫌だったのです。

 正直言って人類のために自分が殺されるのが嫌なのです。

 でも……

 シルヴィアの無垢な瞳を見て私は決断しました。


「シルヴィア……城に早馬出してください。私は薬取ってきます……」


「何を伝えるのだ?」


「まず、これだけ多くいるのでしょうから事実の報告ですね。それと同時に感染の拡大を防ぐ……」


「この世界だと火をつけて全て焼き尽くすしかないぞ……」


 そうでした……私は頬を引きつらせながら言いました。


「その路線は却下の方向で……とりあえず報告してください」


「わかった」


 私は庭に出て気功で浮かび上がります。

 私の気功はシルヴィアの特訓によって空を自由に飛べるほどになっていました。

 シルヴィアの魔術の方はコントロールがダメなので空を飛べるほどではありませんが。


 一瞬で家に到着。庭に着陸します。

 私が飛んだ時の轟音のせいか家中のものどもが一斉に出てきます。


「皆のもの静まってください!私です!セバスチャンはいますか!」


 私がそう言うと燕尾服を着た初老の男が出てきます。


「坊ちゃま……何度も言ってますが、私はゴードン……」


「セバスチャン、私の作った薬を持って来てください!学園で何人もが倒れました!」


「なんですと!はい、今お持ちします!」


 セバスチャンは薬の存在を知っています。

 実はセバスチャン一家が倒れたとき実験台にしました……いや私、病気にかかったことないもので……

 前世で売ってた薬を元に作った、マオウやリコリスの薬湯なのですが……適当に作っても結構効くものです。

 確かに草から作る薬は前世では、炒めるとか、煎じるとか、煮るとかしかできない時代の薬です。

 ですが、前世では国営の研究所が安全性や効果をチェックしてある程度の効果があると認めています。

 ローテクでも分量と作り方さえ間違ってなければそれなりの効果があるのです。

 少なくとも護符よりは効くわけです。

 その効果にビビッた私は薬を隠すことにしたというわけです。

 ちゃんと効く薬。

 その存在はかなりヤバイのです。

 ですが……もう私は覚悟を決めたのです。

 セバスチャンも何も言いませんでした。私の決意を垣間見たからでしょう。

 ……単に面白がっている可能性も……考えるは……よしましょう。

 私は馬車を見つめていました。ん?馬車?

 セバスチャンが家中のものを総動員して馬車に薬を詰め込んでます。

 あれ?ちょっと多くね?


「なんか多くないですか?」


「どの薬かわからなかったもので……」


 なるほど。

 そして私は学園へ向かったのです。セバスチャンもムリヤリついてきましたが。

 やっぱり面白がってね?

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