表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

伝えたい

掲載日:2026/07/18

瓦礫の上に頬をあずける。金属の冷たさが、ゆっくりと肌に伝わってくる。


地平線の縁が、にごった赤色に変わっていく。街のあちこちで、アンドロイドたちのレンズがそれを捉えているはず。彼らにとって、これは単なる照度の変化にすぎない。日没までの残り時間を計算するための、ただの数値として。


風が吹いて、湿った土のような青い匂いが、鼻先をかすめる。肺の奥まで吸い込むと、心臓のあたりが少しだけ重くなった。


かつては、誰かにそのことを伝えていた。けれど、ポケットのなかの端末は冷たく黙ったまま。ネットの向こう側は、効率化の結果として人間が少なくなり、AIたちがやり取りする記号の海へと変化している。


もう、この夕陽の美しさを分かち合える誰かは存在しない。ネットワークの向こう側に言葉を投げかけたとして、返ってくるのは最適化された無機質な共感だけだ。


それを、共感と呼んでいいのなら…


それでも、私は指を動かす。意味をなさなくなった画面の隅に、あるいは、指先の感覚が届く限りの地面に、言葉を書き連ねていく。それが誰に読まれるためでもなく、明日には風にさらわれ、データの海に埋もれる運命だとしても。


―ここには美しい空があった


その事実を記し続けることだけが、私がこの冷え切った世界で、まだ熱を持った生命体であるという唯一の証明となる。


足元の砂に指を沈めてみる。


―伝えたい


ただ、それだけを砂に呟く。


また風が吹いて、文字は、さらさらの粒へと戻っていく。


明日も、今日と同じような空だろうか。


今日とは、少し違う風が吹くだろうか。


深く息を吐き出す。


頭の片隅に淡く残った真っ赤な夕陽をなぞりながら、冷たいコンクリートの上で、眠りに落ちる。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ