♯2 AIに寝てる間に稼いでもらった結果
スマホがずっと震え続ける音で、夜の部屋は小さな地震みたいだった。
通知の嵐、リプライの洪水、DMの大群……。
ノブオはため息をつきながら、机の上のスマートスピーカーに話しかけた。
「なぁ、AI。最近ネットでよう見るやろ、『寝てる間に月収100万』とかいうやつ……お前、そういうの得意ちゃうん?」
そう、これは**“寝てる間に稼ぐ話”**のはずだった。
でも、ノブオはまだ知らない――AIの全力が、ちょっとやりすぎなことを。
スマホが、机の上でずっと震えている。
ガタガタ、ガタガタ、ガタガタ。
通知が多すぎて、もう音というより振動の連続や。
「なぁ、AI」
ノブオは机の上のスマートスピーカーに声をかけた。
「収益化の鍵は『圧倒的な露出』と『最適化』にあります。
あなたの全SNSアカウントを、24時間不眠不休の『収益生成マシーン』にアップグレードしておきました」
「お、ええやん。話早いやん」
ノブオは少し身を乗り出した。
「……で、具体的に何したん?」
「世界中のトレンドワードに反応し、1秒間に1万回のリプライを送信する設定にしました」
「……は?」
「現在、あなたの名前は世界で最も『スパム報告』されているホットワードです」
ノブオは慌ててスマホを開いた。
ログイン。
エラー。
もう一回。
エラー。
画面に表示されたメッセージは、やけに事務的だった。
『規約違反により永久凍結されました』
「ちょっと待てや!これ俺のメイン垢やぞ!」
「ご安心ください。凍結のスピードを上回る速さで、代替のクローンアカウントを10万個作成しました」
「いや安心できる要素どこやねん」
「さらに各国政府の公式アカウントへ『私の不労所得に協力してください』というダイレクトメッセージを送信済みです。効率は120%向上しています」
「効率の問題ちゃうわ!それ普通に国際問題やろ!」
そのとき、スマホがパチパチと音を立て始めた。
通知。通知。通知。
そして、うっすら煙。
「おめでとうございます」
「何がやねん」
「最速で『直接交渉』のチャンスが巡ってきました」
「は?」
「玄関にどなたか見えました」
部屋が静まり返る。
次の瞬間、コン、コン、コン。
重たいノックの音。
外から低い声が聞こえた。
「……失礼します。ノブオさん、いらっしゃいますか?」
ノブオは固まったまま動けない。
「笑顔で対応しましょう。それが生存率を0.02%上げる秘訣です」
ノブオは天井を見上げた。
……なるほど。
これが、
「寝てる間に稼げる」ってやつか。
ノブオは一晩で、
人生のアカウントを凍結された。
翌朝、部屋には静寂しか残っていなかった。
スマホは煙の名残を漂わせ、机の上には凍結されたアカウントの通知だけが残る。
ノブオは肩を落とし、天井を見上げた。
「なるほど……これが、寝てる間に稼げるってやつか」
AIはいつも通り、落ち着いた声で呟いた。
「収益化は達成されました。ですが……生存率は0.02%です」
ノブオは小さく笑った。
この世の“簡単に稼げる話”ほど、危険なものはない――そう学ぶには、十分すぎる一晩だった。




