配神問答
聞こえてきた配神の声は自分のようだが、そこには年季というものがある。
配信の負の面に絶望して転生してから、100年間も心を磨り減らしながら異世界で配信インフラを積み上げてきた狂気の存在。
もしかしたら、配信システムが機能したあとどうなるか、ということを100年間も自問自答してきたのかもしれない。
先ほどの『我は配神。問おう、この世界に配信が必要かどうかを』とは、そういう100年の重みがある問いかけだ。
「べ、便利だから必要なんじゃねーの? ダンジョンも攻略しやすくなったし」
そうとも知らず、答えたのはバド・バズだった。
たしかに配信システムが出来上がった前と後では、ダンジョンの攻略度は格段に上がった。
『便利、か。他者の行動を見て学ぶ、それで効率的にこなせるようになるということだな』
「そ、そうだ。楽でいいだろ」
『だが、そこに冒険心はあるのか? 開拓の精神はあるのか?』
「そんなものは別に――」
『新しいダンジョンへ挑戦する冒険者は減り、彼らは安全なところに群がる愚物と化しているのではないか?』
「う、それは……」
『さらに配信があるが故に、他者と比べ卑屈になり、安易に過激な行動に走って人目を引こうとする者も出てくる始末だ』
バド・バズは黙ってしまった。
ここにいる誰よりも能力が低く、普段から炎上配信に走ってしまっている奴には耳が痛いことだろう。
『ディヴァリアよ、お前も他者と比べられた被害者だろう』
「……はい」
ディヴァリアは否定もせず、素直に肯定した。
いつの間にかボスモンスターたちも動きを止めていて、この状況を眺めている。
『配信さえなければ、綺麗に取り繕われた配信者たちが基準とならずに、お前があのような目で見られることもなかっただろう』
「……その通りかもしれません」
ディヴァリアは普段の表情と違い、まるで親に諭されるような雰囲気だった。
次に言葉を向けられたのは――。
『ニシカよ、お前は配信のせいで心ない言葉を投げかけられ、深く傷付いていたな』
「あ、あれは……余は全然気にしてないし……」
『否、あれが解決したのは運が良かっただけだ。配信が広まれば同じような……いや、もっと酷い誹謗中傷も出てきて、他の精神の弱い者であれば心を砕かれ、自ら命を絶つこともありえるだろう。それをお前は肯定できるのか?』
「そ、それは……できない。運良くヤマダがいたから、私は酷いことにならなかっただけだと思う……」
ニシカは自分が誹謗中傷を受けたからこそ、安易に否定することができないのだ。
一歩間違えば、自分がどうなっていたかはわからない。
『どうだ、ヤマダ。これでも配信というものを肯定するのか? これだけの不幸を生み出しながら、まだ配信は素晴らしいと言えるのか?』
ある意味、ここには配信による加害者と被害者たちが集まっているようなものだ。
そんな中で、ただの傍観者のようなサポーターである俺が何か言えるのか?
配神が言うことも正しい、それはもう一人の自分である俺が一番よく理解している。
だからこそ、俺が何か言うのでは突破口は開けないということだ。
俺ではない、最後の一人に問答を託すしかない。
「問答とか無駄です、まずは倒しましょう」
刹那、レプリ・ヴァルキュリア複数体が細かく切断されていた。
そこには俺の一番最初のパートナーが立っていた。
「まったく、遅いぞ。クロ」
「――ライブの始まりです!」




