VSレプリ・オーディン
ようやく塔の頂上までやってきた。
コメント欄は沈静化したが、またいつ荒れるかはわからない。
全世界規模で見られて同接が凄まじいことになっているので、コントロールは難しいだろう。
「クロと合流できず、か」
頂上までの道のりでクロを見かけることはできなかった。
クロの配信を観ているリスナーに聞こうとしても、ミミルが絡んでいるのでこちらの目に入る前にBANされるだろう。
「クロ様……大丈夫かなぁ……」
クロのことになると素が出やすいニシカが心配の声をあげるも、そこは平気なはずだ。
「クロの実力なら問題ないだろう」
さて、これからどうするか、だ。
ここから見える塔頂上の奥にはボス部屋がある。
この部屋タイプは特殊で、扉のない入り口から一歩でも踏み入れると特殊な結界が作動して、外からは入れるが、中からは出られない透明な壁が出現する。
下手に一人でも入ってしまえば、大変なことになる。
「ここはボス部屋へ行かずに、クロを待つのが得策か。待機中に撮れ高は期待できないのが残念だが――」
「あっ、ごっめ~ん。入っちゃった~」
暢気なオッツ・ボネールの声が聞こえた方を向くと、もうボス部屋に入っていた。
俺以外の全員が驚くも、そのまま呆然と棒立ちさせているわけにはいかない。
「くそっ、強制的な撮れ高がきたようだ。全員、突入するぞ!」
「クロ様がいないのに!?」
「我慢しろ、ニシカ! クロがいない状態でやるしかない!」
後衛であるオッツ・ボネールは即死させられる可能性もあるために、全員が速攻でボス部屋の結界の向こう側へとすべり込む。
バド・バズが部屋の中をキョロキョロと見回して、何か安心したように呟いた。
「な、なんだ驚かせやがって……ボスがいねぇじゃねーかよ」
「いや、よく見てみろ」
俺は小さな手で、中央の巨大な存在を指差した。
5メートルほどの動かないオブジェ……ではなく。
「あの銅像がどうかしたのかよ?」
バド・バズが注視すると、銅像の目がギロリとこちらを向いた。
「うおっ!? まさかアレがボスか!?」
「ああ、名前はレプリ・オーディン」
詳細は配信に載せられない。
なぜなら、前世の俺がミミルに教えた情報から作られたものだからだ。
ミミルの名前は地球の北欧神話からで、彼の有名な主神オーディンとも関わりが深い。
名前の由来を聞かれたついでに教えた情報で、それっぽい物を作っていた記憶があるのだが完成していたらしい。
「お、おい……ヤマダと同じような鉄の身体の種族っぽいぞ……。平和的に話し合いでどうにかならないか……?」
レプリ・オーディンは身長5メートルの人型機械で、片目に眼帯を付け、黒い鎧を身に纏い、巨大な槍を手にしている。
その威圧感は半端なく、バド・バズがビビってしまうのも仕方がない。
「バド・バズ。お前は人間型のダンジョンボスがいたら、同種族として説得できる自信はあるか?」
「……ねぇな」
「そういうわけだ、諦めろ」
さすがに本物の主神オーディンクラスの強さではないはずだ。
あくまでもレプリカ――偽物、コピーだ。
「お、動い……うおッ!?」
レプリ・オーディンは緩慢に槍を構えたのだが、それは錯覚だった。
5メートルの巨体がゆっくり動いているように見えても、実際の速さはかなりのものだ。
バド・バズは悪運とも言える野生の勘で、とっさに身体を投げ出すように横へ飛んだ。
瞬間、柱のような巨大槍が風を切りながら、バド・バズが先ほどまでいた場所をえぐる。
「や、やべぇー……オレじゃ一発でももらったらアウトだ……。エロガ・パー……任せたぜ!!」
「僕もむりむりむりむりぃ!!」
どうやら盾をするのは無理そうだ。
間違いなくミンチよりひでぇ姿になりそうだし、掠っただけで吹き飛ばされ、後衛まで届いて盾としての役目を果たせないだろう。
「それなら私と――」
「――余が!!」
レプリ・オーディンが巨大槍で攻撃した隙を逃さずに、ディヴァリアが魔術を放ち、その直後にニシカがガンハンマーをぶち込んでいく。
「やったか!?」
「バド・バズ、お前はもう何も言うな……」
フラグ乙だ。
レプリ・オーディンは二人の攻撃で損傷したように見えたのだが、それは小さな人間基準の話だ。
5メートルもあれば、一部の破損などでは問題ないらしい。
ようするにHPが高い。
一歩後ろに下がっただけで、再び巨大槍を構えた。
「だけど、効いてはいるな。ディヴァリア、ニシカ。攻撃し続ければ勝てるはずだ。回避に専念しつつ、隙を見つけて攻撃だ」
「余に命令するとは良い度胸だな、ヤマダ! 仕方ないから聞いてやろう!」
「あらあら、言葉の割には嬉しそう」
初めて俺とのボス戦で嬉しそうなニシカと、現パートナーの余裕を見せるディヴァリア。
二人は見えない火花を散らしているようだが、それはボスに対してやってほしいところだ。
だが、俺はオーディンの逸話を忘れていた。
原点の北欧神話では、多数の戦乙女を従えているはずだ。
「……前言撤回、攻撃し続ければ勝てる相手じゃなさそうだな」
天井から何かが次々と着地してきた。
それは女性のシルエットをしているが、硬質な機械の身体だ。
「レプリ・ヴァルキュリアと言ったところか……」
幸いなのは5メートルサイズではなく、普通の人間サイズなところだろうか。
槍を構え、レプリ・ヴァルキュリアが複数体襲ってくる。
「来るぞ! レプリ・ヴァルキュリアに対処しつつ、レプリ・オーディンにも留意しろ!!」
「ヤマダ、それ難しくない!?」
「やるしかない!」
レプリ・ヴァルキュリアの動きは素早く、数もいる。
大体、十体くらいだろうか。
魔術やガンハンマーで倒すことはできているが、それでも厄介だ。
かなり綱渡りの状況だし、レプリ・オーディンの巨大な一撃によって戦況が一変してしまう可能性も大きい。
撮れ高も重要だが、さすがに俺もAランクのヒトカメラに進化した。
カメラがブレブレになるし、戦闘をすると多くを狙って撮れないから本当に最終手段だ。
そんなとき、大きな声が響き渡った。
『我は配神。問おう、この世界に配信が必要かどうかを』
最悪のタイミングでの約束された問い掛けだな。




