魔術が効かない相手への対処法
そこからは順調に塔を登り続けることが出来た。
ディヴァリアは魔術を人前で使うのに慣れてきたのか、調節して低威力でそこまで負担なくモンスターを倒せるようになってきた。
また、モンスター自体も最初のバジリスクたちが異常に強かっただけで、他はそれほどでもない。
ダンジョンの門番役割的な敵だったのだろうか。
そういえば以前、ゲーム開発者が書いた本で『敵の強さは緩急を付ける』とあったので、このダンジョンを設計した奴も同じようにしたのかもしれない。
「さてと、結構階段を上がってきたな」
「今、どれくらいなんだぜ?」
俺の独り言に対して、バド・バズがそう聞いてきた。
確信はないが、会話があった方が配信的には好ましいので答えておくか。
「そうだな。塔の外観からして、大体三分の一くらいは登ったところだな」
「へぇ~、よく見てんだな」
「内部が圧縮されているような特殊構造ならわからないけどな」
いや、俺とバド・バズの会話なんて誰が聞きたいんだ。
ディヴァリアに話を振ろう。
「ディヴァリア、調子はどうだ?」
すげぇテンプレな振り方だけど、それだけ使われるということだ、うん。
決して俺が会話の才能ないとかじゃ……。
サポーターと配信者の才能は違うから仕方がないだろう!!
「うーん、問題ない感じかな?」
「今日は天気が良いな……」
「あらあら、外は見えませんよ」
「く、靴下の色は何色だ?」
「履いてません」
「そうか……」
会話が止まってしまった。
まずい、こうなったらコメントから拾おう。
やはりコメントはすべてを解決する……!!
「リスナー……ディヴァママともの集いのみんなは何か聞きたいこととかあるか?」
「ぶはは! ママともってなんだよ、ママともって!!」
おっと、バド・バズがまた天然で炎上行動を。
配信者が自分のリスナーいじりならともかく、他所のリスナーをバカにしたようなことをすると大炎上間違い無しだ。
「バド・バズ……お前の登録者数と低評価数を見てみろ……」
「ヤマダ、お前何を言って……あっ、なんだこりゃ!?」
バド・バズの登録者数は一気に減って、逆に低評価数は増えている。
登録者数が減るヤバさはわかると思うが、低評価数もアルゴリズム的にオススメ一覧に表示されなくなったりするので初見を捕まえにくくなって死のコースだ。
「い、いや~、冗談だよ、冗談。『ディヴァママともの集い』というネーミング最高!」
「もう遅い構文を使ってもいいか?」
俺は呆れながらそう言ったのだが、ディヴァリアの方は子を諭すような表情でリスナーに語りかけた。
「あらあら、ママとものみんな。バド・バズさんを困らせちゃダメですよ」
<えー>
<バカにされたしなぁ……>
「もう、こんなのと同じ土俵に乗った時点で負けですよ」
「言い方エグっ!!」
思わずツッコミを入れてしまった。
<たしかに>
<オレたちの方が精神的に大人だからスルーしてやらなきゃな>
「くっ、色々と言ってやりてぇが、登録者数が戻って、低評価も減ってきてくれたし……」
バド・バズは苦々しく唇を噛み締めてフットーしそうな表情でぐぬぬとなっていた。
でも、たしかに配信界隈ではアレな人間が何か言ってきたからといって、反論でもしようものなら炎上に巻き込まれてしまうことになる。
しかも、リスナーがやってしまったら、推しの名前を背負っているので、その醜い争いは推しのせいにされたりもするのだ。
古の掲示板と一緒でスルーが最強である。
もちろん、一定のラインを越えた犯罪的な誹謗中傷は直接ぶっ○しに行くしな。
<おっ、何か階層の雰囲気が変わったな>
<ダンジョン的な区切りか?>
階段を上がったところで、たしかにダンジョンが大きく変化していた。
壁や床の材質も金属質で硬そうだ。
「これはダンジョンのパターン的に、敵も性質が変化しそうだ。注意しよう」
「ふふ、やっぱりヤマダさんはダンジョンに詳しいですね」
なぜかディヴァリアが嬉しそうに言ってきた。
俺の表に出ている情報だと、ダンジョンなんてクロのときにしか行ってないような。
ニシカのときもダンジョンには潜ったが、あれは配信外のときだったしなぁ。
……そういえば、ニシカはダンジョン経験がないのにこんなところに放り込まれて平気だろうか。
少し心配になってきた。
「おい、ヤマダ。何ボンヤリしてるんだ。前方の部屋に敵っぽいのがいるぞ!」
「よく気が付いたなバド・バズ。さすがアレだけの炎上でも生き延びたことだけはある」
「褒めてねぇからな、それ!!」
いや、実際にすごいのだが。
これで炎上癖さえなければ一流の冒険者になれていた可能性もあるだろう。
それはともかく、バド・バズの指摘通りにモンスターの姿が確認できた。
鏡のような銀色甲殻を持った巨大な虫。
前世知識的に知ってるやつだな。
名前は確か……えーっと……なんだっけ……炎上の時にどっちもどっちとか言い出す心理学の名前みたいな……。
「――【根源の白】」
先手必勝とばかりにディヴァリアが魔術を放っていた。
それと同時に思い出した。
「ヤバい! そいつの名前はミラーリングバグ、魔術を反射する特性を持っている!!」
「えっ?」
ディヴァリアの顔から血の気が引いていた。
すでに魔術が反射されたあとだったからだ。
いくら衣装が強化されているからといって、本人の強力な魔術に耐えられるかはわからない。
バジリスクのグロい最後が脳裏に浮かんでしまう。
どうにかしようにも、俺は撮影のためにディヴァリアから少し離れてしまっているので手すら届かない距離だ。
もうダメかと思った、その瞬間――。
「ちゃんと敵の特性を理解してからじゃないとね、特に魔術師は」
ディヴァリアはグイッと物陰へと引っ張られ、反射された魔術を間一髪で回避していた。
誰がディヴァリアを助けたのかと思ったら、それはオッツ・ボネールだった。
普段とは違う冷静で落ち着いた声、しかもどこか親のような優しさが込められていたので誰かわからなかったのだ。
「あ、ありがとうございます」
ディヴァリアは申し訳なさそうなのと、どこか嬉しそうな表情だ。
何か二人に違和感を覚えるが、今はそれどころではない。
ミラーリングバグがこちらに向かってきている。
人間サイズの虫とか迫力がありすぎるし、苦手な人だと卒倒してしまうかもしれない。
正直、あまり配信に映したくないモンスターだ……。
「うおお!? こいつ、パワーがすごいぞ!!」
「ぶひぃぃぃいい、攻められるなら清楚可愛い女の子に罵倒されたかったぁぁぁ!!」
前衛の二人が何か言っているが、正直なところ割と打つ手がない。
ミラーリングバグの甲殻は魔術を反射するだけでなく、かなりの物理耐性も持っているのだ。
攻撃力が低いのが救いだが、それでもこちらが倒せないのなら千日手となってしまうというか、スタミナ切れでこちらの負けだ。
こうなったら俺がヒトカメラに変身して殴ってみるか?
これは最後の手段にしたいんだけどなぁ……。
俺自身がカメラの関係で見栄えしないし、配信者の方が活躍した方がリスナーも喜ぶ。
「あらあら、ヤマダさん。配信者を活躍させたいから……と悩んでいますね」
ディヴァリアには見抜かれているようだ。
<さすが配信の鬼>
<まぁバド・バズとエロガ・パーが犠牲になるくらいならええか>
<人でなしヤマダ>
「俺は人じゃないっての! だが、あの二人が映せないような状態になるのも配信的がヤバいな……ここはやるしかないのか……やりたくないが……」
「早くどうにかしろー! つぶされっちまう! 早く……早くしてください、オナシャスー!!」
バド・バズが絶叫し始めてそろそろ無理そうなので、残念ながら撮れ高を捨てて変身するしかない……残念ながら……。
そこに突如、聞き慣れた傲慢ボイスが響き渡った。
「待たせたな、愚民共! 余の華麗なる〝黄金〟を見せてやろう!」
「そ、その声はァァっっっっ!?!?」
誰かさんのロールプレイに対してきちんとリアクションをとってあげた。
腹に響く爆音。
それと同時にミラーリングバグが大きく吹き飛び、壁に激突していた。
小さな少女は名乗りを上げる。
「皆の者、頭を垂れよ! 我が名はニシカ・ド・ラクロワ! ラクロワ王国の第五王女にして、龍の血を受け継ぎし聖なるガンハンマーの担い手!!」
「ニシカ、最高の撮れ高だぞ! よくやった!」
「――そして、そこのヤマダのパートナーである!」
小さな少女――ニシカはキリッとした表情で言ってきたのだが、残念ながらツッコミを入れなければならない。
「元、な。元パートナー」
「はんっ! おおかた、新人がヤマダとダンジョンで組み慣れてなくてトラブったのだろう! そこに颯爽と現れて問題解決する余が真のパートナーでなくて何とする!」
「いや、お前とも配信ではダンジョンに潜ったことはないけどな。貴族の屋敷を襲撃するのなら経験あるが」
「ふーははは! さぁ、さらなる撮れ高をくれてやろう! 存分に映すがよいぞ!」
こいつ、話を聞いちゃいねぇ……まぁ撮れ高のために撮るけど。
起き上がってきたミラーリングバグに対して、ニシカは小さな身体を縦回転させながら巨大なガンハンマーを叩き付ける。
物理耐性もあるはずの甲殻に当たった瞬間、ガンハンマーは金色の輝きを放ち、甲殻の内側まで爆発を貫通させた。
ピシピシと甲殻に亀裂が入ったあと、弾け飛ぶミラーリングバグ。
<すげぇぇぇぇえ!! ……けどグロい>
<まぁエロよりはBANされにくいけど……>
<ニシカちゃんが可愛いからヨシ! ご安全に!>
リスナーたちも一応は喜んでくれたようだ。
「おつかニシカ! 次回の配信も余のガンハンマーで爆発させてやろう!」
「いや、勝手に終わらせるな。まだ塔をクリアしてないだろう」
「くふふ……やはり良いな……余に対しても怯まないツッコミ!」
何かニシカがニヤニヤしている。
たしかにニシカのようなロールプレイをしている配信者に対して気軽にツッコミを入れるのは難しいかもしれない。
一人になってそういうところで苦労しているのだろう。
そこへ物陰からディヴァリアが出てきて、ニシカに対してお辞儀をした。
「感謝いたします、ニシカ第五王女様」
「ふっふーん。別によいぞ。それに同じ配信者なのだ、もっと普段通りに話すことを許す」
そういえば、コイツは本当にお姫様だったんだな。
初対面が情けなすぎて忘れてしまう。
「では、ニシカさんと呼びますね」
「ディヴァリア、と言ったか? はぁ~、全然なっておらん。特にヤマダとの相性が悪すぎる。やはり、余のところに戻ってくるのが一番ではないか? なぁ、ヤマダ?」
「え、えーっと……今は配信中だぞ、ニシカ……」
まさか俺に対しても圧をかけてくるようになったとは……成長したな……じゃなくて、配信中に答えにくいことを聞いてくるなバカヤロウー!!
「あらあら、ニシカさん。ヤマダさんが困っていますわ」
よし、やった。
ディヴァリアが平和的に止めてく――。
「ニシカさんより、ヤマダさんが相応しいのは私に決まっているじゃありませんか」
おい、配信中だぞ。
「は? パートナーになったばかりのババアが何を言っておるのだ?」
「あらあら、あらあらあら。小っちゃいお子様が何か言ってますわね」
<ひえっ>
<今日一番の恐怖を感じる>
<どうすんだよヤマダ……修羅場だぞ……>
撮れ高とは真逆のギスギス配信になってしまう……どうにかしなければ……。
「えーっと……」
「ヤマダは」「ヤマダさんは」
「「どちらがパートナーに相応しいと思っているの?」」
ハモって圧もギスギスも二倍だ。
俺のカメラのレンズが割れてしまいそうになる威力だ。
<うらやましい>
<オレもこんな修羅場で圧をかけられてぇなぁ>
このドM共め……!
需要がありそうなのでそういう配信は予定を立てておくとして、俺が被害を受けるのはまっぴら御免だ。
俺は、この窮地を脱出するための言葉を吐き出した。
「配信映えする方が好きだな、俺は」
「じゃあ、早く先へ進むぞ! 次のモンスターも余が配信映えする倒し方をしてやる!」
「あらあら、また魔術が効かない相手とは限らないわ。次は物理が効かない相手だったら逆の立場よ?」
ディヴァリアとニシカは火花をバチバチと散らしながら、先へ進んでいくのであった。
取り残された俺とバド・バズ三人組。
「こ、こえぇぜ……」
「さすがに僕でもアレはちょっと……」
「うふふ」
オッツ・ボネールだけは楽しそうに笑っているが、残りは戦々恐々の表情だ。
俺を含めて。




