再会を誓って
さて、あれから数日が経った。
俺とニシカはまだ大貴族ロレンスに訴えられていないし、きっと許されたのだろう。
セーフ、危なかった。
それとなぜか俺が『最初からメイドが真犯人だとお見通しだった』という噂が広まってしまったのだが、ミミルへの威厳を考えると否定しにくくてノーコメントを貫いている。
ニシカからも少しだけ羨望の眼差しを感じられるようになって心苦しい……。
「ヤマダ、ロレンスさんからお手紙が来てたよ」
ニシカは俺の家の中に入ってきて、トタトタとこちらにやってきた。
手には封蝋がしてあるリッチな手紙を持っている。
「げっ、もしかして屋敷を壊した件でついに裁判沙汰か……。弁護人でクロを呼ぶか……?」
「そんなくだらないことでクロ様を呼ぶな」
おそるおそる手紙の封を開けて読み始める。
すると、そこには予想外のことが書かれていた。
「えーっと……『今度、結婚することになりました』って?」
「写真が入ってる。女の人は……中年のロレンスさんと同じくらいの年齢っぽいけど、知らない人だね。もちろんメイドのイベルとは別人」
「は? ちょっと待て、この内容を整理すると……。つまり、大貴族ロレンスがニシカとの婚約を断りたかったのって、すでに想い人がいたからということか?」
「そうっぽい。私が知らないということは、相手は貴族じゃないから公表しにくかったのかな」
これを踏まえると、今回の犯人であるメイドのイベルが思い浮かんでくる。
たしか主人に恋をしていて、それを意図的に振ったニシカを恨んでいたのが動機だったはずだ。
「それじゃあ、あのメイドはロレンスが別に結婚を考える相手がいたのに、それを知らず馬鹿みたいにニシカへ嫉妬して独り相撲をしていたというわけか……」
「独り相撲?」
「独りよがりの空回りってことだな。うーん、ありとあらゆる方向で救えない奴だ。ある意味、このロレンスの結婚相手に矛先が行く前に牢屋にぶち込めてよかったのかもしれないな」
ダメ、絶対。誹謗中傷。
「まぁそんなことより――ニシカ。今日の夜ご飯は何が良い?」
「ヤマダ、話がある」
「ん?」
晩ご飯のリクエストを中断してまで話をしたいとは、かなり重要なことらしい。
いつもよりニシカの表情も真剣だ。
「私は城から逃げ出して、バド・バズからも見捨てられ……それをヤマダは拾って鍛えてくれた。ありがとうございます」
「どうしたんだ、急に」
「そろそろ城に戻ろうかなって……」
「城に戻る!? 配信活動はどうするんだ!?」
「そこぉ!?」
シリアス中断されたニシカは驚いているが、俺からしたら配信が一番重要だ。
「配信自体は続けると思うけど、やっぱり父君と母君、それときょうだいも心配するかなって……」
「そうか、配信自体を続けるのなら問題なし」
「城に戻ったらヤマダと一緒に配信はもうできなくなるかもしれないけど……」
「気にするな。俺はまた新たな配信者を発掘するだけだ。この配信界隈を盛り上げるためにはまだまだ面白い配信者が必要だからな」
そこでふと思い出した。
ニシカの家出の原因だ。
「ところで、城に戻って平気なのか? 肩身が狭くて家出したんじゃ」
「それが、あの配信が話題になって私の味方が増えたみたい」
「あー……屋敷ぶち壊し配信……」
「そこじゃなくて! ロレンスさんが事情を説明してくれたでしょ!」
「まぁ確かにあんな事情を知って、さらにメイドから殺されかけたという被害者になれば見られ方も変わるか」
配信――というかインターネット的な感覚で言えば、加害者には風当たりが強く、逆に被害者には優しくされるという特性だろうか。
そういう世論が出来てしまえば、王侯貴族たちも従う方針となったのだろう。
権力を持つ者は強いが、革命の一発を警戒するというゲームのトランプのようだ。
そういうものを回避するためのアピールもあり、ニシカに戻ってもらって円満解決したと見せたいのだろう。
「ヤマダの家での生活も楽しかったんだけどね」
「城での生活で何かあったら、また俺がヒトカメラに進化してぶん殴りに行ってやるぞ」
「あはは、大丈夫。次こそは私がガンハンマーで殴るよ。配信で身も心も鍛えられたから」
俺が拾った弱々しく虚勢を張っていた少女は、どうやらちゃんと成長したようだ。
「逆にヤマダが困ってたら、そのときは駆け付けてあげるよ」
「ああ、そのときは頼む」
俺の瞳――カメラに写ったニシカは黄金にも負けない笑顔だった。




