レア素材入手ついでに、ガンハンマー修業
「――というわけでダンジョンにやってきたのだが」
「ほう、我が側近よ。ダンジョン配信というやつをしにきたのだな!?」
まぁ、普通はそう思うか。
俺とニシカが今いるのは人気の無いダンジョンだ。
普通のダンジョンならPTとすれ違ったり、誰かがいたりしたような形跡がある。
だが、ここは長らく人が入っていないようだ。
「ダンジョン配信にやってきた――のではない」
「じゃあ、雑談配信というやつだな! よかろう、余の声を愚民共に拝聴させてや――」
「いや、配信すらしない、ただのダンジョン探索だ」
「先に言いなさいよ。気を張って損した……」
ニシカはロールプレイを解いて、普通の喋りに戻ってしまった。
つり上がった眉と自信満々の表情も、今ではただの気の抜けた幼女だ。
「で、ヤマダ。何をするの?」
「まず第一に新衣装の素材調達」
「新衣装?」
「ガンハンマーで毎回服がボロボロになってたら、いつか破れ方次第で全裸みたいになって大変なことになるだろう」
「うっ、それは確かに困る……」
ロールプレイだと男の暴君っぽい性格になるが、素の部分では意外と女の子らしいな。
「そこで耐爆の効果を持った新衣装の素材を取りに来たというわけだ」
ちなみに今回も俺が衣装を作るのではなく、きちんと職人に相談しに行って素材を指定された感じだ。
それなりに金と手間もかかるが、配信者にとって衣装というのはそれくらい大事な物なのでしょうがない。
「防具なんてお店で出回っている物を買うのじゃダメなの?」
「ガンハンマーの爆発に耐える特化系防具なんて普通は出回らないからな……。この世界には爆薬も爆弾処理班もないし」
「爆薬? 爆弾処理班?」
「何でもない、気にしないでくれ」
正直、転生者というのはそこまで隠す必要も無いが、話がややこしくなるので表には出さないようにしている。
「黄金トカゲの鱗を素材にして耐爆衣装を作るつもりだ」
「お、黄金トカゲ!? そんな珍しいモンスターがこんな近場にいるはずが……」
俺は人気の無いダンジョンの曲がりくねった道を移動してから、何もない壁を五十回叩いた。
すると、隠し通路が出現して中に黄金トカゲがいる部屋がいくつもあった。
黄金トカゲはその名の通りキラキラと輝く鱗を持つトカゲで、実際は竜種に近いものだと言われている。
その鱗は軽く、火や斬撃、衝撃耐性もあって超高級素材だ。
特殊な方法で溶かすこともできるので見栄えの良い形状にするのも自由。
全身に魔力防御を行き渡らせるので、ある程度の素肌を露出させても問題ない。
防具職人垂涎のレアモンスターだ。
「奇行をしたかと思ったら、こんなところに隠し通路があるなんて……」
「俺の(前世の)知り合いに教えてもらったヒミツの狩り場だ。さすがにそいつの迷惑になるから配信はできないが」
「さすがクロ様の元パートナー」
直接的に俺を褒めてこないのはまだ信頼度が足りないのかもしれない。
まぁ、そこは気にしない。
「さてと、第一の目標は素材だが、第二の目標もある」
「第二の目標?」
「この黄金トカゲを使って、ガンハンマーの制御をすることだ」
「ガンハンマーの制御……? これは昔の王家のある者から授かった武器で、部外者の貴方がそんな知識あるはずもなく……」
「俺が考案した武器だからな」
「えっ!?」
しまった。
前世の俺が面白そうだからと考案したら、あれよあれよと王家が採用してしまったということがあったのだが、今のクズカメラの俺が言うのも変に聞こえてしまうだろう。
何とか誤魔化さねば……。
「……と言っていた知り合いがいてな。偶然にも、ガンハンマー制御のコツとかを教えられている」
「なるほど、さすがクロ様の元パートナー……」
ニシカがクロの狂信者で助かった。
何を言ってもクロの元パートナーというのでゴリ押せそうでチョロい。
「つまり、新衣装に必要な黄金トカゲを倒すと同時に、ガンハンマーの制御修業もしようということだ」
「なるほど!」
「ついでに暴虐の王ロールプレイもしておこう」
「なんで!?」
「次の配信にぶっつけ本番というのも危ういし、事前にここで練習してコンプラ的にも平気か見ておかないとな」
「コンプラというのはわからないけど、たしかに事前に練習しておくというのは納得した……恥ずかしいけど……」
「ほら、今から開始だ。配信だと思ってやるんだ」
ニシカは息を吐き出しだしたあと、スッと何かが憑依したかのように表情を暴虐の王へと豹変させた。
「よかろう! 愚民共に余の絶対的な力を見せてやろう!!」
これを言ったら調子に乗りそうなので黙っておくが、一瞬で役に入れるというのは才能がある。
それに即席の演技というより、何か魂からの叫びのようにも聞こえるのだ。
こんな小さい子が背負うには重すぎる何かがあるのかもしれない。
それはさておき、今は配信のための修業だ。
「それじゃあ、黄金トカゲをガンハンマーで倒してみてくれ。実際にこの目でチェックしたい」
「……側近よ、また爆発に巻き込まれて大変なことになるぞ?」
「大丈夫、俺は離れておくから」
「いや、余の服がだな……」
「俺はニシカの裸を見ても何も思わないから安心しろ」
「それはそれで余のプライドが傷付くぞ! 万死に値する!!」
「死ぬのは一回や二回で充分だ。ほら、早く修業開始だ」
「くっ!!」
ニシカは非常に嫌そうな顔で睨み付けてきたが、そこまでワガママではないらしい。
すぐに黄金トカゲの方へ向き直り、大きくジャンプしながらガンハンマーを振り下ろした。
「黄金トカゲよ、万死に値する!!」
「ただの八つ当たりでは」
俺のツッコミは爆発音にかき消された。
「ギャンッ!?」
ニシカの仔犬のような悲鳴が聞こえ、ボロボロ服の半裸の状態で吹き飛ばされてきた。
まだギリギリ人様に見せられる姿だ、今は。
「なるほど、単純に全力の魔力を込めて叩き付けてるだけだな。たしかに魔力防御が高い王家の者ならこれでも平気だったが、ニシカの場合は攻撃の方に魔力を使いやすい体質のようだ」
この世界の住人は、魔力というモノを大体の生物が持っている。
その中の一握りの者は魔力で武器を強化したり、身体を魔力防御で守ったりすることができる。
それらの才能も千差万別で、ニシカは攻撃特化という感じだ。
防御方面は防具で補うのが良さげだろう。
「一瞬でそこまでわかるとは……さすが余の側近であり、クロ様の元パートナー。褒めてつかわすぞ」
「はいはい、光栄光栄」
段々とニシカの扱い方が分かってきた。
暴虐の王ロールプレイはしているのだが、別に本心から暴虐の王ではないので雑に扱ったりスルーしてもこちらを本気でぶん殴ってきたりはしない。
ごっこ遊びをする子供を相手にする感じで丁度良いのだろう。
「あとは威力充分なんだが、ニシカは狙いが甘いな。さっきの黄金トカゲも爆風で飛ばされただけで直撃せずに逃げてしまっている」
「くっ、すばしっこい愚民が!!」
民ではないとツッコミを入れたいが、面白いのでそのままにしておこう。
「この修業は命中を意識しろ」
「余に命令するな! 側近風情が!!」
そう言いつつ、ニシカはかなり素直に次の黄金トカゲに狙いを定めた。
今度はガンハンマーを叩き付けるまで、目を離さずに方向もコントロールするようになっている。
「ツンデレかな?」
「ギャンッ!?」
再びニシカは自分の爆風で吹き飛ばされてきた。
服はもはや服として機能していないくらいボロボロになっていて、他の人間には見せられない状態になっている。
アニメだったら謎の光で規制が入っているだろう。
「よし、一匹目ゲットだな」
「ハァハァ……直撃させたぞ……どうだ……余の力を思い知ったか……」
「それじゃあ、二匹目にいこう」
「……」
ニシカはロールプレイのためか泣きそうにはならず、ギリギリで恨みがましい目で睨んできているだけだ。
身体は仔犬のようにプルプルしているが。
ニシカ・ドラクロワというドラゴンっぽい名前だが、もはや吠えるだけのチワワに見えてくる。
いや、ド・ラクロワだったっけ。
まぁいい。
「あ、次はガンハンマーの狙いだけじゃなくて、流す魔力の制御で爆風の範囲や方向性も操作していこう」
「よ、余裕だし……」
「ガンハンマーのインパクトの瞬間に装填された魔石を起爆、爆発のロスを無くす。それと同時に爆発の方向性を周囲ではなくて対象に向けて一点集中する。できれば直後に体内に爆発を起こさせるくらいの二段階操作だな」
「多い! 情報量が多いぞ側近!!」
そう言いつつも、ニシカは素直に練習し始めた。
黄金トカゲを発見、ガンハンマーを叩き付けて起爆、失敗して吹き飛んでくるニシカ。
それを四回ほど繰り返したとき、ニシカが涙目になりながら言ってきた。
「……が、ガンハンマーは構造的に六発しか魔石を装填できない! 残念だが、もう六回使ったのでなくなってしまった!! いやぁ、本当に残念だな! せっかく側近が教えてくれたのに!! これでは後日にするしか――」
「あ、ちゃんと予備の魔石は持ってきた。いくらでも練習できるぞ」
「いやぁぁぁぁぁぁ………………い、今のは嬉しい叫びだ!! さすが側近だな、気が利きすぎるではないか!?」
「お褒めにあずかり光栄でございます、ニシカ姫」
俺は笑いながら魔石を渡した。
ニシカはボロボロの姿でガンハンマーに魔石を装填していく。
第五王女なのに根性があるなぁ。
いや、王家のことはそこまで知らないが、第五くらい下だと色々と大変なのか?
あとでミミルに調べてもらうか。
そこからニシカは根性を見せて、見事にガンハンマーを扱えるようになった。
ついでに黄金トカゲの素材も集まり、ニシカに替えの服を着せて帰還したのであった。




