俺のパートナーになれ
「えーっと、もしもし……そこのお嬢さん。森の中でクマさんと出会っちゃいますよ?」
「へ? クマ? ここらへんってクマは出ないよね?」
しまった。
ノリで話しかけてしまったけど、この世界だと森のくまさんとか伝わるはずもない。
俺は別にコミュ強なわけではないので、次に何を言おうかとフリーズしてしまった。
野郎相手ならともかく、王族の女性相手だし少しは緊張する。
そうしていると、ニシカの方がハッとして表情を強気に切り替えてきた。
「愚民よ! 余に話しかけてくるとは良い度胸だな!!」
「いや、さっきまで普通に喋ってたよな? 何なら泣きべそかいてたよな?」
「ぎゃー!? 見られたー!?」
どうやら見てはいけないものだったらしい。
ニシカは泣きはらした目でガンハンマーを構えてきた。
「殺す……のは可哀想なので、丁度良い感じに頭を殴って記憶を消し飛ばして……」
「ストップ!! そのサイズの鈍器で殴られたら普通にスクラップになる! というか、別にお前の敵じゃない。むしろ味方になりにきたんだ!!」
「そう言って取り入ってくる貴族は五万と見てきた……。どうせ貴方も……って、その声はどこかで聴いたことがあるような?」
これはもしかして、クロの配信で知っているパターンか。
まぁ、あの配信は物凄い拡散されてたし、この界隈に飛び込んでくるならお姫様でも知っているか。
「クロ・クロウリィの元パートナー、クズカメラのヤマダだ」
「ほ、本物!? いや、喋るクズカメラなんて他に見たことないし、やっぱり声も本物だー!! 握手してください!!」
「あ、はい」
手の平返しがすごい。
けど、ファンだったらこうなるのも当然か。
ふふ……俺も罪な男になっちまったもんだぜ……。
「クロ様のサイン……いや、さすがにそれはおこがましい……クロ様の手を患わせるだなんて……!!」
「って、俺のファンじゃなくてクロのファンか」
「あ~、ヤマダにも多少リスペクトはあるかも」
格差がすごい。
しかし、クロのおかげでそれなりに印象は良いようだ。
それなら話は早い。
「俺はクロの次に育てる配信者を探していたんだ。ニシカ、俺のパートナーになってくれないか?」
「……それをさっき配信で失敗した私に言うか」
「たしかに……アレはひどかったな」
「それなら――」
「でも、光るモノもあった。俺はクロにも劣らない才能をニシカから感じている」
「うっ、クロ様の名前を出されると弱い……。話だけなら……」
「それじゃあ場所を移そう。さすがにダンジョン近くの森の中じゃ落ち着かない」
「どこへ?」
ふっふっふ、実はクロの配信でかなりお金が入ったので、多少は取り分としてもらっておいたのだ。
報酬なしでもいいかなと最初は思ったのだが、さすがにお金が必要となるときも来る。
現に、今から行く小さな家もその金で買った物だ。
さすがにクズカメラの身体と言えど野宿はきつい、錆びる。
「俺の家で話そう」
「これは悪徳貴族が女性を家に誘って手込めにするアレだ……!?」
「何でだよ。クズカメラが何をどうするっていうんだ」
そもそも、俺は前前世の自分周りの記憶が曖昧だから男か女かもわからない。
一瞬だけヒトカメラになったときも、中性的な身体でどちらでもなかった。
「クロ様に誓える!?」
「余裕で誓えるよ」
「それなら行く」
……お、俺を好きな人間ってこの世にいるのだろうか?
***
「何もないところだがくつろいでくれ」
「……本当に何もない」
街の中にある小さな一軒家。
このファンタジー世界基準では、質素だが割としっかりした作りとなっている。
木造だが、別に火を使ったりするわけでもないし問題ない。
クズカメラなので食事用の火もいらないしな。
というか、生活に必要な物がなにもない。
「クズカメラだからベッドも必要ないし、台所もいらない」
「客人用のテーブルと椅子があるだけマシかも」
ニシカはその椅子に腰掛けながら、何もない室内をキョロキョロと物珍しそうに見回している。
小さな俺は、もう一つの椅子の上に乗っかりながら聞いてみた。
「そんなに珍しいところがあるか?」
「あ、いや、普通の人の家って初めてだから……」
「普通の人じゃないけどな。というか、愚民って言わないのか?」
「あ、あれは……人前ではああやって話すだけで……」
「意味がわからない。なんで素だとそんな感じなのに、人前だとあんな暴虐めいた王っぽい喋りになるんだ?」
「それは……私が嫌われ者の第五王女じゃなきゃいけないから……」
ニシカはそのまま無言になってしまった。
どうやらあまり話したくないことらしい。
まぁ、本人が話したくないのなら無理に聞くというのもダメだろう。
だが、俺が何よりも優先するのは配信界隈を盛り上げることだ。
そのためにニシカが欲しい。
「ニシカ、自分を偽るのは別に悪いことじゃないぞ」
「え?」
「ロールプレイってやつだ」
「ロール……プレイ……?」
Y○utubeの配信者、主にVTuberがキャラや設定を作って配信することは多い。
別にそれは悪でも何でもないし、最近では受け入れられてきている部分もある。
「演劇でも、普通の人が悪役になりきって誰かを楽しませるとかするだろう。配信者がそういうことをしても問題ないということだ」
「でも、最初の配信は失敗して……」
「俺がその失敗を成功に変えてやる。だから、俺のパートナーになれ。ニシカ」
俺は『自分を信じろ』と手を差し出す。
ニシカの視線は左右に揺れ動き、逡巡しているようだった。
それでもゆっくりと震える手をこちらに差し出してきた。
「クロ様を育てた貴方を信じてみる」
俺は小さなクズカメラの手で、力強く握手をした。




