1 前世を思い出したきっかけは、追いかけっこをしていて人とぶつかり額をぶつけたことだった
意識が浮上した。と、感じると共に私は目を開けた。
「うっ、ううっ」
体を起こそうとしたら、頭に走った痛みに呻き声をあげてしまった。
「お嬢様、お目を覚まされたのですね」
「知らせてきます」
慌ただしい気配と共に、誰かが扉を開けてでていった。残ったほうの女性がそばに来た。
……女性じゃなくて、私付きのメイドのミリーだ。
「まだ、動かれないでくださいね。お医者様に見ていただいて、何事もなければ動いて大丈夫ですから」
ミリーの言葉に私は瞬きをした。そして待つほどもなく慌ただしい足音が聞こえてきて、ドヤドヤと扉から人々が入ってきた。
そう、人々(苦笑い)。
お医者様と両親だけでなく、兄弟たちやその友人及びその親まで部屋の中に入ってきたの。
お医者様はチラリと入ってきた人々を見たあと小さく嘆息すると、両親のこともチラリと見てから私へと話しかけてきた。
「お嬢様、ご気分はいかがですか」
「えーと、頭が痛いです」
私の答えにお医者様は頷いた。
「では、その痛みの原因について覚えていらっしゃいますか」
「あー、はい」
あれは庭園でのこと。我が家の庭園には植え込みで仕切られた通路があって、……というよりも一部が迷路のようになっている。大人でも見通せない高さの樹木が植えてあるので、何も知らずに入ると迷子になりかねない。
今日は父の友人である近隣の貴族が子どもを連れて遊びに来ていた。年が近いので、みんなで仲良く庭園で遊んでいた。そのうち追いかけっこが始まり、庭園の中を後ろからくる子から逃げていた私は、角を曲がったところで前方から来た子と思いっきりぶつかった。
ごちーんと、辺りに音が響き渡ったのではないかというくらい、いい音がした。
額同士をぶつけた私とその子は反動で後ろにひっくり返り、私はそのまま後頭部を打ちつけて気を失ったのだろう。
そう答えると、明らかに大人たちはほっとしていた。
「その通りでございます。後ろに倒れた時に石がありまして、そのせいで気を失われました」
お医者様はそう言ったあと、私に私のことを聞いてきた。名前や家族のことなどを。覚えているかの確認だろう。もちろん自分の名前から親兄弟のことだけでなく、この部屋に居る人たちの名前&関係性(近隣の貴族ということと、誰と誰が親子なのか)を話した。
私の答えに、先ほどよりもみんなはほっとした顔をした。
お医者様は私に「患部に触ります」と言って、頭を優しく持ち上げた。そうっと触ってきたけど、ピリッと痛みを感じて身をすくませてしまった。お医者様は優しく頭をおろすと両親に言った。
「やはり腫れていますね。額のほうも少し腫れてきています。血は出ておりません。本日はこのままお休みいただくほうがよいでしょう。後ほど腫れにきく軟膏をご用意いたしますので、そちらを塗っていただきたいと思います」
「わかった」
父はお医者様に頷くと「今日は休んでいなさい」と私に言って、部屋に居る人たちを促して出て行った。お医者様も部屋を出て行ったけど、しばらくして戻ってくると後頭部と額に持ってきた軟膏を塗ってくれた。
メイドたちも私に水分を取らせてから、寝やすく整えた後「お休みくださいね」と言って出て行った。
しばらく……耳を澄ませて、誰も来ないことを確認してからベッドの上に起き上がる。
サイドテーブルに置いてもらった手鏡を取り、しげしげと自分の顔を見つめた。
(ちゃんと西洋人の顔だ。えー、本当に転生したんだー)
自分の顔を確認したので、手鏡を置くとベッドに座った。
(べたな展開よねー。交通事故で亡くなったとおもったら転生していて、頭をぶつけたことで前世を思い出すなんてねー)
思いっきり息を吐きだして軽く頭を振った。
(さて、状況確認といきますか。……えーと、私はアリストリア・ベルゲール。王国騎士団の副団長の娘。ん~、さっき居た騎士団長の子息が攻略対象かもしれないけど、その婚約者が副騎士団長の娘っていうのは聞いたことはない。……ということは、ここがどっかの乙女ゲームの世界だとしても、私はただのモブ決定だよね)
うんと一つ頷いて、もう一度手鏡を手に取った。
(えーと、透き通るように白い肌に長いまつげの下にはサファイアを思わせる青い瞳、バラ色の頬にサクランボのような唇、豊かなブロンドは緩くウェーブがかかっている。少し目が吊り上がっているから、大きくなると可愛いよりカッコイイといわれるんじゃないかな)
「ふっふっふっ」
いける!
今世なら、憧れのあの人になれる!
「ふっ、あーはははー」
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
思わず高笑いをしたら扉がバタンと開いて、メイドが二人なだれ込んできた。
「やはり頭をぶつけたせいで、おかしくなられたのだわ」
「お医者様をもう一度お呼びしなくては」
「その前に旦那様方にお知らせしなくては」
ミリーと……そうそう、アニス。二人は私をベッドに寝かせると皆を呼びに部屋を出て行こうとしたので、慌てて二人のスカートを掴んで止めた。
「違うの、そうじゃないの~!」
必死に言い募る私の様子を見ていた二人は、なぜか「ふふっ」と笑いだした。解せぬ?
Q 憧れのあの人は誰でしょうか?




