09
緊急ハッチと書かれた扉を開ける。
丁度、目線の高さにあるそれに、抱えたリリベルを押し込むように入れる。
開けてみて分かった。
大人が1人入れる程度の大きさのハッチに2人は入れない。
…どうする。
──その時。
ガコン。
と音がした瞬間。
視界の端で黄色や深い緑のような色がゆらりと動くのが見えた。
…へぇ、そうかよ。
「リリベル。そん中で出来ることないか探してくれ。俺はこっちでやれること探すから。」
そう言って、ハッチの扉を閉める。
困ったような驚いたような変な顔してたな。
「あぁ。何やってんだ、俺…」
リリベルは、敵だろうに。
思わずフッと力無く笑いが溢れた。
とりあえず、キメラに相対する。
頭は黄色っぽい色に黒い斑点模様。
体は鱗に覆われ、丸みを帯びた体をしている。
…何のキメラだ?
心臓…は無理、喉か。
大きく裂けた口が、限界まで開かれる。
子ども1人くらいなら丸呑みに出来そうだ。
「ハッ、大きな口をあけて襲う準備か?」
ため息を吐きながら構える。
腰ほどまで溜まった水の中では上手く動けない。
だから、
姿勢を低く、重心を下げる。
キメラが首を縮め、足を踏ん張る。
跳び…か?
キメラが大きく口を開け、俺の頭目掛けて跳んでくる。
俺は足をずらし、潜る。
そして、キメラが俺の上を通る瞬間。
喉に一撃。
…ッ!
硬い。
喉は鱗に覆われ、水で刃が滑った。
だが、首に強い衝撃を受けたキメラは、体をくねらせ、肩から勢いよく着水。
同時に、叩きつけるように俺の真横に尾が落ちた。
激しい水飛沫と共に強い流れに押し出され、反対側の壁まで押しやられる。
クソッ…結構、飲んじまった
水を吐くように咳き込み、キメラを見る。
体をくねらせ、えずき、距離を保つようにこちらを睨みつけている。
刃は通らないし、デカいくせに動きが速い。
それに無闇矢鱈と突っ込んで来ないところを見ると…厄介だな。
細く息を吐く。
刻一刻と上がる水位。
だんだんと動きが良くなるキメラ。
もう足はついていない。
どうするか。
これ以上は引き延ばせない。
…賭けだな。
一気に浮上し、水面から顔を出す。
天井との差はもう腕一本分も無い。
これで決める。
空気を吸い込み、潜る。
水を割きながら向かってくるキメラ。
その流れに合わせて体を捻り、剣を置く。
剣が重え。
腕が持ってかれそうだ。
突っ込んできた勢いのまま、キメラの頬の辺りから目にかけて刃が通る。
が、痛みで体をしならせ、沿わせた腕で俺の腹を打つ。
衝撃で弾き飛ばされ壁に背中を強く打ち付けた。
息が、抜ける。
肺が握り潰されたみたいだ…。
まずい
口を閉じろ。
これ以上空気を逃すな。
壁にぶつかる鈍く重い衝撃音がそこら中で響いている。
…腹の奥に熱くて重い塊があるみてぇだ。
呼吸。
─ダメだ
肺が、腹が…。
─我慢しろ
吐き気が……。
─歯を、食いしばれ
歪む視界の中でデカい影が揺らめく。
…ッもう……。
───ジリリリリリッ!
重く、裂くように響き渡るベルの音が、意識を浮上させた。




