13
「…リリベル?」
俺は少し背を丸め、痛む体を庇うようにハッチに近づく。
踏み出すたびに床を跳ねる水音が、やけに大きく聞こえた。
「開けるぞ。」
ハッチを開け──
…開かねえ。
壁みてぇに、重い。
「おい、聞こえてるか?返事しろ。」
何か、あったのか?
いや、聞こえてねぇだけだ。
…そうだろ?
緊急ハッチだ。安全じゃねぇはずが…
扉を叩く。
返ってきたのは、
……鈍く、こもった水音だけだった。
そんな…はずは、
ロックは、外した。
開かないはずが無い。
さっきより強く引っ張る。
…押すんだったか?
手が痺れて感覚が無い。
いや、なんで焦ってる。
リリベルは敵だ。
何かあったとしても──。
…チッ。
…こんだけやって、動かねぇってことは。
やっぱりそうか。
扉の隙間から見える金具が、噛み合ってない。
金具に剣を引っ掛ける。
眉根を寄せて、目を閉じる。
剣を持つ手に力がこもる。
その全ての力を抜くように息を吐き
──剣に、全体重を掛ける。
「…ッグ…ァ」
息が漏れる。
鋭さを帯びた痛みが全身に鈍く広がる。
頭に血が上る。
倒れ込む力も、剣に乗せる。
…ミシッ。
金具が悲鳴を上げ、
ガンッ!!
水が噴き出し、その勢いでハッチが開く。
噴き出す水が、俺を後ろに倒す。
──その時。
視界に白が映った。
水と一緒に流れ出てきた、重く冷たいそれが鳩尾部分にぶつかる。
反射的に、それを抱きとめる。
衝撃で骨が嫌な音を立てた。
突き刺すような痛みが全身に広がる…感覚はするが、今はどうでもいい。
腕の中のそれが、力無くだらりと垂れた。
「…あ?」
…冷たい。
「リリベル?」
肩を、軽く揺さぶる。
「…おい、起きろ」
水の音がやけに遠いな。
「…おいって、起きろよ。」
なんで、起きないんだ?
「水…抜けたぞ?」
リリベル…
………息、してない…?
瞬間。
全身が粟立ち、手が震える。
なんで。
緊急ハッチだろ?
おかしい。
何で水が…
……?
……俺、が入れたのか…
…いや、今はそれじゃねぇ。
リリベルだ。
胸に手を当てる。
呼吸は、していない。
だが、
まだ、生きては…いる。




