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突然、響き渡るベルの音。
キメラは一瞬動きを止めた。
まとわりついていた水が、一方向に引っ張られる。
体が引かれ、足が流される。
ドゴンッ!
床の方から、途轍もない轟音がとどろいた。
……ッ排水か!
一気に浮上する。
痛みは無視だ。
あと少し。
水面から顔を出し、息を吸い込む。
肺や内臓が焼け、激しく刺されるような痛みが走る。
手を伸ばす。
指に触れたそれに全力で掴まり、激しく咳き込む。
一瞬で酸素が体の先端まで届く感覚がする。
生きた。
頭がジンジンする。
耳が聞こえねぇ。
水がどんどん引いて、もう腹の位置だ。
蛍光灯のフレームを掴む腕が悲鳴をあげる。
死んでない。
もしかして、リリベルか?
あの中に本当に何かあったのか?
いや、とりあえずそれは後だ。
少しずつクリアになってきた視界でキメラを捉える。
体をくねらせ、壁に手を着こうとする。
だが、濡れた壁で滑り、廊下の端にある黒い線…排水溝にビタリと叩きつけられている。
どんどん水かさが減り、体が重くなる。
肩が千切れそうだ。
キメラの小さい目が鋭く光り、体を震わせた。
そして、足を踏ん張り首を縮める。
…やるしかねぇ。
息を止め、体を揺らす。
キメラが跳ぶ。
俺も反動を使って前に飛んだ。
反射的に強張る体に鞭を打つ。
体を捻って、剣を立てる。
刺さればいい。後は勝手に、
──裂けるッ
落ちる勢いで、その鼻筋から頭のてっぺんまで一気に切り開く。
地に落ちたキメラは、口を開け激しく体をくねらせている。
…終わった、か。
崩れ落ちるように着地し、鈍く広がる痛みに耐える。
細く長く息を吐き、痛みを逃す。
無意識のうちに力がこもり震えていた手を、ゆっくり開く。
キメラは、動いてはいるが先程よりは動きが小さい。
助かった。
…そうだ、リリベル出さねぇと。
「…水、抜けたぞリリベル」
ゆっくりと立ち上がり、声を掛ける。
が、返事が無い。
聞こえてないのか?
それとも───。




