01
薄暗く、静まり返った部屋。
六畳ほどのその空間で、青年はゆっくりと目を覚ました。
頬に触れる冷たく固い床の感触。
いつもとは明らかに違う空気が、この状況を否応にも理解させる。
┈┈自分は捕まってしまったのだと。
「……チッ、やられた…」
小さく舌打ちをすると、青年は眉をひそめながら、どうしてこうなったのかを思い返す。
──数時間前。
主に暗殺や諜報を請け負う組織に所属する青年は、
ボスからの指令を受け、キメラ実験が行われていると噂の研究施設へと向かっていた。
「ここだね。例のキメラ実験をしている研究施設は。」
そう口を開いたのは、今回のバディである先輩だ。
任務の内容は、
”この施設で行われているキメラ実験の証拠を確保する”
こと。
青年は警戒していた。
任務だからというだけではない。
彼はこれまで、" 訓練 "と称して味方がわざと罠へ誘導してくることが多々あった。
だから今回も、警戒だけは怠らなかった。
しかし──
「後ろから殴って職員の前に放り投げんのはナシだろ…」
倒れ込んだ直後、ぼやけた視界に映った驚く職員と、
ニヤニヤと鼻につくような顔で笑っていた先輩の顔を思い出し、深いため息を吐く。
気を取り直し、青年は現状を把握するため周囲へ視線を巡らせた。
この部屋には、窓は無く、格子窓のついた鉄扉が一つだけ。
壁には古びたスピーカーと監視カメラが備え付けられていた。
監視されていることに気付いた青年は、わずかに表情を曇らせフードを深く被り直した。
そして視線を床へと移した時、彼の隣に白髪の少女が横たわっていることに気付いた。
14、15歳ほどだろう。少女は、胸をゆっくりと上下させており、ただ眠っているだけということが分かる。
青年はこの状況下で平然と眠っている少女を起こすべきだろうかと躊躇った。
だが今は、少しでも情報が欲しい状態だ、放置するわけにもいかない。
「……おい、起きろ」
少女の肩に触れ、軽く揺さぶりながら声をかける。
すると、白い睫毛が微かに震え、
少女は、ゆっくりと目を開ける。青年の姿が視界に映った瞬間、少女の瞳がわずかに揺れる。
少女は唇を小さく震わせ──
「………か…み、さま……」
「…………は?」
青年の絞り出したような声には、困惑が滲んでいた。
思考が追いつかない、予想だにしていなかった言葉に青年は動きが止まる。
少女もまた、口をついて出た言葉が信じられないというように目を泳がせている。
二人の間にはただ、息が詰まるような沈黙が流れていた。
凍てついた空気の中、青年が口を開く
ーーその瞬間。
……ジジッ……ジ……
耳障りなノイズが重苦しい沈黙を引き裂く。
青年は弾かれたように、そちらへ視線を向ける。
壁に取り付けられた古びたスピーカーが震え
ノイズ混じりの機械的な音声が空気を揺らす。
「──被験体の起床を確認。
只今より、実験を開始します──」




