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第4話 襲撃 4

 炎上する校舎の影から、複数の足音が走り出した。


 一切、無言。


 ただ、龍雅達、標的を殺すために存在する生きた凶器だ。


 教授が素早く言った。


「龍雅、北門だ。あそこならまだ包囲が薄い」


「どの程度薄い?」


「"死なずに済むかもしれない"程度だな」


「クソみてぇな基準だな……」


 紅音がケイを抱え込むようにして走り出す。


 ケイは唸りながら進み、時おり風の臭いを読むように鼻を震わせる。


 そのときだ。


 横の林から、黒い影が飛び出した。


 細身の人影。


 中国製の軽装アーマー。


 胸の刻印──煉脈連リエンミャオリエンのエンブレムワッペン・赤い双頭蛇。


 ナイフを抜いたまま、紅音へ一直線に突っ込んでくる。


「紅音、よけろッ!」


 龍雅の叫びより早く、ケイが飛んだ。


 影と影が衝突し、乾いた骨の折れる音が響いた。


 刺客の喉にケイの牙が深々と食い込む。


 倒れた男の手からナイフが滑り、芝に落ちた。


 紅音は息を切らしながら言う。


「……今の、中国の……?」


「違う」


 教授が即答した。


「"中国ですらない"。科学マフィア、煉脈連はもはや、国家に属していない。奴らは"漢民族を名乗っているだけの人喰い商人"だ」


 説明を終えないうちに、


 今度は反対側──


 講義棟の影から、重い足音が響いてきた。


 鎧のような防弾ベスト。


 白髪交じりの金髪に碧眼。


 龍雅は即座に理解した。


「白人ども、あいつら……MSOか」


 ナチスの亡霊──"メンゲレの息子ーMengeles Sohn(MSO) "。


 彼らは煉脈連を一瞥すらせず、龍雅たちへ向けて銃を構えた。


 だが、次の瞬間。


 空から銃撃が降った。


 ドローンではない。


 もっと重い、鋭い金属音。


 講義棟の屋上に身を潜めていた別勢力が、MSOの刺客を撃ち抜いた。


 一発ごとに迷いがない。


 CIA式だ。


 MSOの殺し屋が返り血を上げて崩れる。


 煉脈連がそれを見て俊敏に動く。


 CIAがその動きを逆手に獲物を狙う。


 三勢力が、大学構内で互いを殺し合い始めた。


「……どういう状況だ、これ?」


 龍雅の呟きに、教授が淡々と返す。


「利害が同じでも、協力するとは限らない。"誰がx2000の新しい所有者になるか"で戦ってるんだ」


 生き残った者が、x2000を奪いに来るというわけだ。


 死刑宣告のような言葉だった。


 そのとき、夜風の向きが変わった。


 焦げ臭い。


 何かが近づく匂いだ。


 ケイが鋭く吠えた。


 龍雅は視線を上げた。


 北門へ続く歩廊の屋根。


 その上に、人影が立っていた。


 夜の中に溶けるような黒い影。


 長いコート。


 片手に銃。


 片手に小型端末。


 銃口がこちらへ向く。


 龍雅が紅音を庇おうとした瞬間──


 影がゆっくりと手を下げた。


 そして、静かに言った。


「……リョウガ・ミコガミ。死にたいか、生きたいか、好きな方を選べ」


 声は低い。


 だが、日本語ではない。


 それでも意味はわかった、ドイツ語だ。


 すると……MSO。


 だが、さっきCIAに殺されていた木っ端の殺し屋レベルではない。


 "将校クラス"か。


 龍雅は息を飲んだ。


 だが、次の一瞬──


 その影の周囲を、細かい光の点が埋めた。


 レーザーポイント。


 CIAが"囲んだ"合図。


 煉脈連の影が地面を滑るように走り込む。


 そして、三勢力が再び、一点集中で互いを殺し合い始めた。


 銃声。突撃。悲鳴なき死。


 それらがすべて、"大学構内の静寂"の中で起こっていた。


 紅音が震える声で言った。


「御子神さん、ここ……地獄ですよ」


「ちがう、紅音」


 龍雅はケイを横に押し出し、紅音の肩を抱く。


「……本当の地獄はこれからだ。こいつら全員が"俺たちを見つける前"に、北門抜けるぞ」


 教授が短く言い放つ。


「走れ。下を向くな。撃たれたら終わりだ」


 そして、三人と一匹は、月光の照らす荒れた芝の上を、無数の銃声と死体の間を縫うように走り出した。


 生き延びる道は細い、だが確かにそこに一本だけ、生き延びるためのルートが、残されていた。

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