第18話 ヨハネの四騎士 3
― 東京上空・空の遭遇戦 ―
東京上空。
夜の摩天楼を眼下に従え、四機の軍用ホバーバイク《エア・ホース》が一直線に多摩丘陵を目指して飛行していた。
白い騎士が先頭に立ち、その背後を赤・黒・蒼──
ヨハネ黙示録の四騎士が編隊を組んで飛ぶ。
静寂の空域に、ロータの虹彩インターフェース《オリュンピア》が赤く点滅した。
──敵機反応4。距離700メートル。急速接近。
「……敵が来る」
ロータの呟きと同時に、雲の裂け目から黒い影が滑り出てきた。
攻撃ヘリ AH-64 アパッチ。4機。
ロータが淡々と告げる。
「陸自航空隊……暗号はCIAブラックセクション仕様。
つまり、自衛隊を“駒”として使っている」
赤い騎士ルカが笑った。
「いいじゃねぇか。戦争しに来たってんなら、相手してやるよ」
黒い騎士イザベルが、緊張の匂いを嗅ぐように目を細めた。
「……恐怖が混じった汗……悪くないわ」
蒼い騎士ヘルマンは、言葉を発さずにアパッチ隊の死角を読み始めていた。
「距離600。現時点で回避は不要」
ロータの声は相変わらず冷たい。
その瞬間、1号機がバルカン砲を開いた。
バババババッ――ッ!!
弾丸の雨が四騎士へ殺到する。
しかし、その散弾の霧の中を四騎士は“進んだ”。
ルカは風を殴りつける。
空気流が乱れ、弾道が逸れる。
イザベルは気流を読み、アパッチ隊の死角へ滑り込む。
ヘルマンはセンサーから“消えた”。
電子機器の認識領域から外れるように、存在そのものを薄める。
ロータの《オリュンピア》が解析データを吐き出す。
「三号機、心拍数急上昇。パイロットの動揺が限界値まで高い」
「じゃあ……こうだ」
ルカが鉄槌を構え、風を叩き割った。
空気の衝撃波が三号機を襲い、機体が横転する。
「うわああああっ!!」
パイロットの悲鳴とともにアパッチは墜落した。
「……人間の行動予測は、すべて見える」
ロータは冷ややかに呟いた。
2号機が急降下し、ヘルファイアを二発射出する。
「来たな!」
ルカの口元に笑みが浮かぶ。
「戦争なら、正面から殴り返すだけだ!」
ミサイルが爆発距離に入った瞬間、ルカが鉄槌で空気を叩いた。
爆風が反転し、火炎が逆流。
アパッチ2号機は火球となって夜空で弾けた。
イザベルは、静かにスイッチを押す。
「代謝、ゼロにしてあげる……」
エア・ホース前面から微細な粒子が撒かれ、3号機の換気口から侵入。
パイロットの意識レベルが急降下し、そのままコントロール不能。
3号機は谷間へ落ちていった。
残るは隊長機と4号機。
4号機のパイロットは計器の異常に気づいた。
「後ろに……何か……?」
だがIRカメラには何も映らない。
ヘルマンの姿は“センサーに存在しない”。
「死の色……濃い」
装甲に触れた瞬間、4号機のパイロットの心臓が停止した。
機体は東京湾へ吸い込まれるように墜落した。
隊長機ひとつだけが残り、後退しながら震える。
「航空隊が……四分で全滅……!?
いったい何者……!」
ロータがその機体をロックオンし、生命反応を解析する。
「恐怖がピーク。戦闘意志は完全消失」
ルカが鼻で笑う。
「逃げ腰には興味ねぇよ」
「……処理」
ヘルマンの声が落ちる。
イザベルが嗤う。
「極上の死を、与えてあげる……?」
ロータは首を振った。
「必要ない。任務は御子神龍雅──」
そう言いかけたときだった。
胸の奥が、急に掴まれたように締め付けられた。
「……ッ」
《オリュンピア》の映像が揺らぎ、視界に白ノイズが走る。
「ロータ!?」
イザベルの声が滲む。
「おい白馬、どうした……!」
ルカが叫んだ。
ヘルマンが低く呟く。
「……死の気配。ロータ。“内側”から」
ロータの心臓が一瞬だけ停止した。
エア・ホースが姿勢を乱す。
隊長機はその隙を見逃さなかった。
ヘルファイア発射音が空を裂く。
「ロータ、避け──!」
爆炎が白いエア・ホースを直撃した。
片翼が吹き飛び、ロータの体が夜空へ投げ出されかける。
どうにか姿勢制御を取り戻したが──機体は瀕死だった。
「……一次性不整脈だ。俺は……無事だ。
だが……機体は終わりだ」
掠れた声が、夜に溶けた。
残る三騎士が同時に前へ突進する。
真空の刃のような軌道で隊長機を切り裂き、
アパッチは空中で分解して爆散した。
敵機四機殲滅。
だが、その勝利は“完全”ではなかった。
ロータに“異変”が生じた。
それだけは、誰も見逃せなかった。




