第17話 ヨハネの四騎士 2
第一の気配
白い馬の騎士――シュタール・ロータ。
遺伝子の震えを読む"解析の征服者"。
街に吹く、風の震えが、DNAの二重らせんのように捻じれる。
第二の気配
赤い馬の騎士――ルカ・アウゼン。
怒り・闘争心を誘発する"戦争のトリガー"。
街の裏側で、獣たちが突然暴れ始める。
争いのフェロモンが街全体に広がる。
第三の気配
黒い馬の騎士――イザベル・エーヴァルト。
代謝を崩壊させる"飢餓の魔女"。
街の水道管が一斉に破裂した。
地下の気圧が"飢餓の呼吸"に変わる。
第四の気配
蒼い馬の騎士――ヘルマン・グルーバー。
"死そのもの"。
足音も、気配も、存在も感じない。
だが街を行く者は首筋に氷の針を刺されたような感覚を覚える。
四人は一列になり、鮮やかな街の光を無視して、芋洗坂の裏路地へ入った。
ナマズ・ビルと呼ばれる高層ビルの最上階──、会員制クラブVIP VALHALLA 《ヴァルハラ》TOKYO。
そのVIPルームに、一人の女が待っていた。
艶やかな黒髪、褐色の肌、西欧系と中華系が混ざったような顔立ちの美女。
MSO日本支局マネージャー、ユリア・フォン・ハーケン。
「ようこそ、日本へ。ヨハネ黙示録の四騎士の皆様」
ルカが椅子に足を置く。
「作戦を寄越せ。俺は"殺りてぇ"だけで日本来たんだ。」
ユリアはタブレットを叩き、龍雅の顔写真を投影した。
「こちらがターゲット──御子神龍雅。我々、今回の標的x2500の唯一の正規適合者。ドクター御子神剛が提唱する細胞の"革命的進化"を継ぐ者。」
ロータが静かに呟く。
「……細胞の進化のための"器"か」
イザベルが写真を撫でるように見つめる。
「この子……先ほどの雑民と違う。飢餓の匂いはきっと薄い……純粋な"創造"の匂い……珍しい。」
ヘルマンは一度も座らず、端末の地図だけを見ていた。
ユリアが言う。
「ターゲットは、東京西部、多摩丘陵奥地の廃研究所に潜伏中。それを狙ってCIA、煉脈連も向かっています。ですが―あなた方が最初に辿り着けば、誰も邪魔できません。」
ルカが笑う。
「上等だ。で?どうやって行くんだ、このクソ複雑な東京の街で」
ユリアは指を鳴らした。
窓の外から、低いエンジン音が四つ、同時に響いた。
そこには、四機の軍用エア・ホバーバイクが、ビルの非常ベランダに停まっていた。
黒光りする装甲。
後部には突撃用シールド。
エンジンは軍用反重力ツインタービン。
「日本では法律的に使えませんが……あなた方には関係ないでしょう?」
ルカが嬉しそうにバイクへ跨る。
「ハッ!こうでなきゃ"戦争"は始まらねぇ!」
イザベルはバイクの匂いを嗅ぎ、
「ガソリンの匂い……懐かしい……死と飢餓の匂い……」
ロータは無言で乗り、義眼の右目に情報チップを埋め込んだ。
ヘルマンは影のように跨った。
ユリアが最後に告げる。
「目的はただひとつ。御子神龍雅の回収。生体ケイの生捕り。邪魔者はすべて『処理』して構わない」
四人は同時にエンジンを吹かした。
夜の六本木が、"死者たちのエンジン音"で震えた。
ロータがひとことだけ言った。
「征くぞ。"進化の器"へ」
四機のエア・ホバーバイクは、夜空を裂いて飛び出した。
西、多摩丘陵へ……。
ヨハネ黙示録の四騎士が、東京に降る。
この瞬間から、都市の死のカウントダウンが始まる。




