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第7話 可愛い年下の男の子

ひろみが出会った中竹真也。

店を出た二人は、路地裏で男に絡まれる。その男は、あの異常な客だった。


 5月28日、午前4時過ぎ。


 都会の喧噪はなく、どこか猥雑とした通りを狩野ひろみと中竹真也は歩いている。これから大通りに出て、タクシーを拾ってひろみのアパートに向かうつもりだ。


「ねぇ、真也君って、大学生?」


 これまでのことは夢、今が現実、そう思ってはいるが、真也と自分は確かに一度、最後まで交わっている。そう思えて仕方がない。そのとき考えていたのが、真也の年齢だ。


「はい、僕、大学2年生です。二十歳です」

「わっ!やっぱり?それでさ、昨日の夜は大学の飲み会とかでぇ、お前二十歳なのに童貞か?みたいな先輩のパワハラにあってぇ、で、むりやりお店に入らされた・・とか?」

「いや、えっと、昨日、5月27日が僕の誕生日で、二十歳になったばっかりで、友達がお祝いの飲み会してくれて、でも、お前二十歳になっても彼女いないだろ、とか言われて、卒業だ卒業だって担がれて・・あれ?」

「ほらぁ、やっぱパワハラじゃん!あ・・アルハラかぁ・・ほいで?その友達は?」

「んっと、友達と別れて、僕ひとりであの店に行ったんです。なんかちょっと、馬鹿にされたなぁって、悔しくて」


 俯き加減に話す真也は、やはり可愛くて仕方ない。


「へぇ、真也君、じゃあさ、きっと君は運がいいよ?こんないい女と知り合えたんだからさ」


 そう言うひろみを、真也はまじまじと見つめた。背は150cmとちょっとくらい、小柄だ。ショートヘアが良く似合っている。シャツとジーンズにシンプルなジャケットというファッション。背格好からもボーイッシュで、中性的な印象を受ける女性。だが真也はもう、彼女の全てを知っている。


 脱いだらすごい。


 それを思い出して、真也は急に俯いてしまった。


「ほら、なんか言いなよぉ。もう恥ずかしいのかな?」


 ひろみがそう言ったときだ。ひろみはいきなり左腕を掴まれた。


「いったあっ!!なんなの!?」


 振り返った先に見えた顔に、ひろみの表情が凍り付く。


「ほらぁ、やっぱりいたなぁ。おかしいんだもんなぁ、さっきまで俺の下で押さえ込んでたのによ、いきなり消えて、夢かと思って探しに来たら、やっぱり夢じゃ、ないじゃんよぉ」


 その男は、あの客だった。記憶の中の5月30日、夜の11時過ぎに入ってきた、あの凶暴な男。


「さぁ、続きをしようぜ、な?お前も続き、したいだろ?」

「え?ええ?なんで?夢じゃないの?あんた、私に乱暴なことして、首を絞めてきた、夢のヤツ」

「はぁ?夢?違うだろ。俺はお前のこと、よぉ~く覚えてるぞ?なんでか今は28日だけど、そんなことはどうでもいい。お前が俺の前から消えたのが悪い。さぁ行こうぜ。続きだ」


 男はひろみの腕を荒々しく引っ張り、今来た道を引き返そうとする。


「い・・いやだっ!!誰がお前なんかと・・客だとしても、もう嫌だ!!」

「なぁ?なんだと!!コイツ、一発殴れば分かるか!!」


 男が拳を振り上げる。ひろみは右腕で顔を庇い、ひぃっ!と悲鳴を上げた。だが男の拳は、ひろみの顔に届かなかった。


「おがぁっ!!」


 男が振り上げた腕は、棒で弾かれた。と同時に、男の胸に棒の切っ先が突き刺さる。強烈な突きにのけぞる男、そして遅れて聞こえる、裂帛の気合い。


「ッツゥェエエエエーーーーイっ!!」


 更に間髪入れず、その棒はひろみの腕を掴んだ男の手首に炸裂した。


「コッツゥェエエエエーーーっ!!」

「うがあああ!いっでぇえええ!!」


 たまらずひろみの腕を放した男は、数歩下がって身構えた。だが手首だけはだらりとぶら下がっている。


「なんだよ、ああ?なんだよお前!!」

「そんなことお前には関係ない!!これ以上やるなら、こっちも本気で行く!!」


 その気合いは男をたじろがせるに十分。そして棒を上段に構えたその姿は、紛れもなく剣士。


「くっそ!くっそぉ!!」


 男は怒りをたぎらせているが、もう為す術は無い。男に出来ることは、後ろを向いて逃げることだけだ。

 走る男の背中が暗がりに消えるまで、棒を上段に構えたまま、そして数瞬、はぁ、という吐息とともに、棒は降ろされた。


「真也君!!」


 ひろみの瞳に、これ以上ない真也の笑顔が映った。



 午前5時、ひろみのアパート。


 狩野ひろみと中竹真也は、大通りでタクシーを拾い、アパートに着いた。

 男に襲われ、それを撃退したことで、ふたりは少し興奮していた。だがそれは性的なものではない。


 今のふたりに必要なのは、会話だった。


 これまでのこと、あの男が言ったこと、そしてこれからのことを。


 最初に口火を切ったのは、ひろみだ。


「ねぇ真也君、私、何歳に見える?」

「えっと、僕と同じくらいか、それか、んっと、22歳くらい?」

「もう、やっぱり君は、女を見る目がないねぇ。私、26歳。君よりずっとお姉様よ?」


 ふたりの話は、それから3時間にも及んだ。



つづく

お読みいただいて、ありがとうございます。

毎日1話の更新を予定しています。

よろしくお願いいたします。


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