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第69話 それぞれの4日目

ついに訪れた4日目。

物語を紡いだ人々の4日目は、そして思いは・・


 東京、5月30日、23時59分40秒、尚巴と麻理子の会社。


「みんな!もしかしたら目の前に尚巴さんが現れるかもしれない。そしたらいつものように!」

「いいわよ真一さん!」

「頼む彩ちゃん。新田も頼むな!」

「ほぁい!ワタシだけ名前呼びじゃないけど・・頑張ります!!」

「あと5秒!4、3、2」


 最後の1秒を、佐久間真一はカウントできなかった。


「ん・・尚巴さん、来ないな」

「うん、来ないね」

「まさかの麻理子さんも、落ちてこないよな」

「うん、落ちてこないね」

「うぁ~、日付、変わってるぅ~」


 間延びした新田の声。全員が時計を見た。


「さんじゅう・・いち、31日だっ!成功したんだ、未来が来たんだっ!!」


 佐久間が叫んだ。伊藤が佐久間に抱きついた。

 どさくさに、新田も佐久間に抱きついていた。



 去った5月28日、佐久間たちは尚巴から連絡を受けていた。襲撃予告を受けた浜比嘉教授、つまり麻理子の叔父を守るために、クロスライトに会いに行くことをだ。そして、麻理子の叔父に何かあるか、または実験そのものが失敗すれば、また時間が戻る。だから佐久間たちにはいつも通り会社のフロアに集まって欲しい、とも頼まれていた。



「彩ちゃん、俺たちも結婚しよう!そして沖縄で挙げるんだよ、結婚式!」

「うん、真一さん、ううん、真ちゃん、私、あなたと結婚する!」

 伊藤は溢れる涙を拭うことも忘れていた。

「ほぁい!ワタシもします。結婚!!」

 どさくさに抱きついている新田も叫んでいる。

「行きます!沖縄!で、ワタシ、ゆーみーのお姉さんになるの!!」


 新田里央は沖縄での披露宴以来、麻理子の友人、宇那志由美の兄と付き合っていた。


「そして釣ります!40キロの、ジャイアントトレバリー!!」


 顔を見合わせる佐久間と伊藤、そしていつものように集まってくれた同僚たちも。


「にったぁ、お前はいっつも釣りばっか!」


 フロアは皆の明るい笑いに包まれた。


 が、次の一瞬!全員の頭の中で爆発のイメージとメッセージが炸裂し、そして覚醒する。


「っ!・・な、なんだった?今の、ばいばい?」

「真ちゃん、今のは?神様?なんだかすごい景色を見せられたわ」

「神様っていうか、あの人、地球人たち、3日間の箱庭を破ったね、すごいねって言ってましたよ?」

「そ、そうか、そうだな新田!つまりだ、とにかく3日間は終わりって事だ。まあいいさ!どういうことか沖縄で聞いてみようぜ、麻理子さんの叔父さんにさ!」


 佐久間たちは全員、難しいことは考えないタチだった。



 東京、黒主家、5月31日、創造主のイメージの後。


「ねぇ、あなた。今のって来斗くんの力じゃないわよね」

「そんな訳ないよ。来斗も言ってたろ?僕はただの中学生だって」

「そうよね。来斗くんは、ホントにただの中学生なのよね」


 去った5月28日からずっと、正平と聡子は宮崎から配信される動画に見入っていた。そこには、ソードを前に一歩も引かない息子が、そしてソードに勝利し、世界にメッセージを送る息子がいた。


「君もよく来斗ひとりで行かせたね。来斗がソードと敵対することが分かったときは、あんなに反対してたのに」

「うん、あなたは逆に来斗くんを応援してたわね。やっぱりあなたはすごい父親だわ。それに、来斗くんも強かった」

「ああ、来斗は強くなった。虐められていた頃の来斗はもういないな。たった3日間なのにね、それを繰り返すだけで、人は成長するんだなぁ」

「あ、私もね?成長したと思うのよ?ただ取り乱すだけじゃなくなったでしょ?」

「ん?どんなとこ?」

「分からないの?だって私、来斗くんのために利用してたんだから、小鉢さんたちのことをっ!」

「なんだって?君のあれ、小鉢さんとニコニコ仲良くって、全部演技だったの?」

「そうよ~、だから宮崎にも小鉢さんたち、行ったでしょ?」


-あぁ、女って、こわい。

 正平は言葉を失った。


「あなた!もう考えることなんかないわ!来斗くんが帰ってくるわよ?あ、小鉢さんも付いて来ちゃうかしら、もう、やぁねぇ」


-小鉢さん、かわいそ。


「さぁ!今日の朝もベーコンエッグよ!!」


 聡子は張り切っている。

 正平は苦笑いだったが。



 宮崎、5月30日、23時55分。県立病院。


 廊下でコツコツと何かが当たる音がする。どうやら誰かが杖をついて歩いているようだ。

 足音は病室の前で止まった。カラカラっと、扉が開く。


「中竹さぁ~ん、中竹真也さぁ~~ん、検温の時間ですよぉ~」


 間延びした声で真也の名を呼びながら顔を覗かせたのは、ひろみだった。


「あ、ひろみ?看護師さんかと思った!どうしたの?」

「えぇ~?だって真也、両手両足折れてるでしょ?なにかと不自由かなぁ~って」

「え?・・・えええ!」


 真也が何か言う間もなく、ひろみはベッドまで飛んできた。右足が折れて松葉杖をついているとは思えないスピードだ。


「ほら、もう来ちゃった」

 ひろみが真也のベッドに潜り込んでくる。

「わ!ひろみ、看護師さんに怒られるよ?」

「いいじゃん怒られたって。もし実験が失敗したら、また私たちはあの部屋なんだよ?そんときは真也の手足も、私の右足も元通り」

「そ・・そうだけど!成功したら?31日になるんだよ?ひろみも僕も怪我したままだ。で、このベッドの中で、その・・」

「へぇ~~、真也ったら、病院のベッドで何するの?もう・・・エッチ」

「違う違う!このベッドの中にいるのを、み、見つかるかもって」

「ふふ、うそ。だってさぁ~、こんななってるくせに、両手使えないんでしょ~?」

「んんっ!!」

「もう、かわいいんだから・・・手伝ってあげちゃう?」

「わっ!やめてってば!怒るよ?もう!・・っうわっ!!」

「え?ああっ!!」


 ふたりはベッドの中で、いつの間にか31日になったことを知った。

 爆発するイメージを見て、創造主のメッセージを聞いたからだ。


「はぁ・・今のは、地球人たちって、僕たちのことか」

「そうだよ、ねぇ。箱庭?迷路?あっ!もう5月31日になってるっ!!」

「ほんとだ!で、ひろみと僕は今、このベッドの中だ」

「そだね。あの部屋の、あのベッドじゃ・・ない」


 ふたりは黙ってしまった。だけど、目と目は見つめ合ったまま。

 真也はひろみを抱き締められない。だから、ひろみが真也を抱き締めた。


「真也、愛してる。ずっと」

「僕も、ずっとひろみを愛してる」


 ふたりの唇が、重なった。


「中竹真也さぁん、狩野ひろみさぁん、ちょ〜っと、ごめんなさいねぇ」


 不意に名前を呼ばれ、驚いた真也とひろみは入り口に目をやる。そこには当直の看護師が立っていた。


「えっと、中竹さんは両手両足骨折の重傷です。狩野さんも決して軽傷ではありません。ですけどねぇ、今、4日目なんですもん、ねぇ・・」

 看護師は意味深に微笑むと、ドアを閉めながら言う。

「くれぐれもほどほどに、それと手短に、ね?」


 真也の病室の灯りが、消えた。


 病室の外で看護師がつぶやく。


「ふたりの新しい出発点が、ここなのねぇ」


 看護師はナースステーションに戻った。


 フフっと、微笑みながら。



 東京、5月31日、某所、某時刻。


「見たか今の!聞いたかお前ら!!」


 男がわめき散らしている。


「だからあんとき言っただろ?そうだ、俺が正しかった、俺が言ったとおりなんだよ!クロスライトなんぞもうどうでもいい!」


「神だ、神の御業なんだよ。結局のところ俺たちなんてさ、神様がこしらえたゲームの中の、ちっぽけなモブキャラそのものなんだよ!」


 看守が顔をしかめる。


「鈴木、静かにしなさい!いま何時だと思ってるんだ!」


 鈴木の声は更に大きく、東京拘置所に響き渡る。


 同じ言葉をいつまでも、繰り返し。


 繰り返し。






お読みいただいて、ありがとうございます。


あとがき:箱庭宇宙とシミュレーション宇宙


フェルミパラドックス、宇宙に知的文明、それも電波を用いる文明が溢れているとすれば、なんらかの人工的な電波の痕跡が観測されるはずだが、そのような現象は一切観測されていない。宇宙はその広さに対して静かすぎる。なぜそのようになるのか?宇宙人たちはどこにいるのか?というパラドックスの解に、「この宇宙は超高度な宇宙人が作りだしたシミュレーションだから」というものがあります。 一見、荒唐無稽な説に思えますが、今、地球人類もかなり近いことを実現しつつあります。 CGの驚異的進歩、それによる仮想現実世界の発達。もう少しこの技術が発達すると、CG空間での活動は、現実の活動と見分けが付かなくなるでしょう。そこにAI技術が加わり、我々の意識とAIが結びつけば、人類は死なない未来を手にするかもしれません。 そしてもし、我々人類がコンピューター上に「シミュレーション宇宙」を作り出した場合、我々そのものもシミュレーションである可能性を否定できなくなるのです。それも、原初の知的生命体が作りだしたシミュレーションの中の知的生命が作りだしたシミュレーションの、更にシミュレーションの・・というふうに、際限が無くなる。 この物語はそのような宇宙の物語でした。 もしそのようなことが本当にあるのだとしたら、戦争や、貧困や、犯罪は無意味。この物語の主人公、クロスライトには、それを語ってもらいました。 いかがでしたでしょう?


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