第68話 ハコニワノソラ
ヒムカの灯火と共に、4日目が訪れた。
実験の成功に沸くヒムカと世界。
だがその瞬間、地球人類に驚くべき啓示が届く。
それはいったい、誰が、どこから送ってきたのか?
「来斗!やったぞ、やったんだあー!!」
小鉢は来斗の肩を抱きかかえ、拳を突き上げている。
カメラはその瞬間も逃さず捉え、世界に向けて配信している。
「来斗、いやクロスライト!新しい時代の始まりだよ!これから君は、この新しい時代のリーダーだ。誰も戦争しない、誰も殺さない、誰も飢えない、誰も泣かない、本当の意味の幸せな世界の始まりだ。そんな世界を、俺はクロスライトと一緒に、作りたいっ!!」
小鉢が叫んだ瞬間だった。ヒムカの全員が雷撃のような衝撃を受けた。
「うがあっ!なんだ!?」
浜比嘉が、藤間が、尚巴も麻理子も、そして来斗も、ヒムカの全員が耳を塞ぎ、一瞬の悲鳴を上げる。
だがヒムカだけではない、全世界の人々が同時に衝撃を受けていた。
それは頭の中で爆発するイメージだ。
イメージは全人類の耳と目を強制的に奪う。そして脳を支配したのは、轟音、静寂、水、火、土、雷、光、闇。考え得る全ての元素が綯い交ぜとなったカオス。
それはこの宇宙の始まり、ビッグバンの景色なのか、それとも宇宙が終る瞬間、ビッグクランチの光景なのか。
次に、全人類の脳内に何者かの声が響いた。カオスのイメージと同じ、やはり頭の中で爆発するその声は、全人類が直接理解できる不思議な音として認識された。
何者かは全人類に語り掛ける。
『やぁ、あなたたちはこの星を地球って呼んでるの?じゃ、地球人だね。すごいね、地球人は、真理に辿り着いたんだね』
『あなたたちは今、私が作った繰り返す宇宙を破ったんだ』
『この繰り返す時間って、あなたたちのスケールで3日間って言うんだね』
『あなたたちの言葉を借りれば、3日間の箱庭迷路っていうことかな?』
『あなたたちが辿り着いた理論を使えば、この宇宙の全てと別の次元の宇宙まで理解できるよ?私たちのこともね。本当におめでとう。祝福します』
『だって、これを破れた文明はそんなにないんだ。あなたたちよりずっと進んだ文明だって、今も破れずにいるからね』
『だからその文明は、今も迷路の中で迷ってる。でもそれは別の箱庭、別の宇宙のお話だけどね』
『真理に辿り着いて、この迷路を破ったあなたたちなら、私たちの次元に迎えることができるよ?その価値、分かるかな?』
『でもそれは今じゃない、もう少しこの箱庭の宇宙を理解してから、だけどね』
『じゃあ、地球人のあなたたち、その時また会おうね。ばいばい』
一瞬の後、脳内からイメージと声は消え失せた。ずいぶん長い時間と感じたが、それはごく僅かな、瞬きするほどの時間だ。
「おおおっ!!なんだ今の!で、だれっ?箱庭の宇宙?真理に辿り着くって、で、バイバイだと?なんだぁ??」
まず小鉢が目を開け、大声で誰彼ともなく質問を投げつける。
竹山と藤間、そして浜比嘉が顔を見合わせた。
「竹山さん、今のは私の意識に直接コンタクトしてきました。あれは・・そうか、今のがテレパシー、私たちが構築した理論の彼方にあるもの。しかも今のは、別の次元からの」
「ああ、そのとおりだ。今のは並列宇宙からの次元を超えたメッセージだろう。その並列宇宙は我々の理論で構築した、意識と記憶の次元かもしれない。そして彼らの言うことが本当なら、いや、本当なのだろうな・・」
「・・我々の宇宙は、箱庭だったということだ」
竹山は自らが語る言葉の重さに震えながら、その事実を口にした。
「つまり我々は、本物の生命体ではない。メッセージを送ってきた彼らが作ったキャラクタなのだ。この宇宙、この世界は彼らのシミュレーション、彼らの箱庭にすぎない」
「人類はそのシミュレーションの、産物だ」
竹山はがっくりとひざまずき、うなだれた。
「藤間君、我々はこの3日間のループを破った。3日間の箱庭迷路を破壊したんだ。しかしそれすらも彼らの気まぐれだったとしたら、私は、私たち人類はこれまでいったい・・何を」
竹山に掛ける言葉もなく、藤間は立ち尽くすばかりだった。
ヒムカは静寂に包まれる。
そして世界も、竹山と同様の無力感に包まれていた。
「でもよっ!!」
突然、浜比嘉の声がその静寂を破る。
「その誰かさんがこしらえたっていうシミュレーションの生命体は、宇宙の真理を解き明かしたんだろ!」
浜比嘉は竹山と藤間の肩に手を置いた。
「ほら!誰かさんも言ってたろ?地球人また会おうね、バイバイ!ってさ!こりゃ~会いに行くしかねぇんじゃねぇのか?あの偉そうな創造主様によ!」
思わずふたりの肩を掴んだ手に力がこもる。
「で、言ってやろうぜ!俺らが生きるのにあんたらの手は借りない、邪魔すんじゃねぇ!ってな?」
竹山と藤間が顔を上げる。浜比嘉の言葉に後押しされたようだった。そしてふたりは、顔を見合わせて笑った。
「ホントね、青雲の言うとおりだわ!会いに行きましょうよ、みんなで。そして私、絶対言ってやるの」
すぅっと息を吸い、胸を張り、藤間綾子が吠える。
「てめえ何様だっ!偉そうにすんな!!人類舐めんじゃねぇぞっ!!って」
綾子は拳を天に突き上げた。
「人類は超えるのよ!この箱庭の宙をっ!」
高らかに宣言した藤間の姿にヒムカの静寂は破られ、大きな歓声に包まれた。
ヒムカの歓声はネットに乗って世界中に運ばれる。その声は世界の隅々にまで力強く響き渡り、静寂を吹き払う。
地球を包み込むほどに。
それこそ人類が次のステージに進んだ瞬間。
人類の進化の、瞬間だった。
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次回 エピローグ
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