第63話 ひろみと真也が守るもの
上村の声に応え、来斗にさえ牙を剥くソードたち。
襲いかかるバイクの群れに立ち塞がるのは、真也と榊を始めとするPCLの精鋭たち。
真也らは来斗を守り切れるのか・・
来斗に向かって突進するバイクの前に真也と榊が立ちはだかった。
ふたりは同時に腕を振り下ろす。
”ジャッキンっ!!”
金属音を立てて、ふたりの手に1mの警棒が現れる。
四輪と違い二輪は最初の一撃さえ避ければ御し易い。突っ込んでくるバイクに向かって腰を落とした真也は、左足を後ろに引いて半身で避ける。その瞬間、ハンドルを握る男の左手首に警棒の一撃を炸裂させる。
「ぎゃほっ!!」
一瞬悲鳴を上げた男だが、榊にその首根っこを掴まれ、地面に引き摺り倒された。主を失ったバイクは転倒し、火花を散らしながら滑走する。
「わ・・わぁわわ・・」
地面に這いつくばって榊を見上げる男は、もう戦意を失っている。その男の首元に榊の警棒が食い込んだ。
「榊さん、慈悲って言葉、知ってます?」
そう聞く真也に目線を送った榊は「知らんなぁ」とひと言だけ。だがあまり余裕はなかった。次々にバイクが突っ込んでくるからだ。かなりの数の男たちが鉄パイプを振り上げている。
「来斗に向かってくるヤツは俺たちが押さえる。お前らは散って片付けろ」
榊の指示でPCLの精鋭たちも身構えた。彼らも真也や榊に劣らない、格闘のプロと言える実力者ばかりだ。
バイクは来斗を、そしてテレビニッポンのクルーを目掛けて突進してくる。だが複数のバイクは同時に攻撃できない。どうしても突っ込めるのは1台になってしまうのだ。
振り上げる鉄パイプも、枝物を携える真也と榊の敵ではなかった。PCLの精鋭たちも各々得意とする格闘術で突進するバイクを仕留めていく。
浜比嘉に襲いかかるバイクは、安藤、武藤を始めとする警官たちの銃撃で圧倒した。銃撃を掻い潜ってもコントロールを欠いたバイクは尚巴と麻理子に容易にいなされ、接近戦で繰り出される空手技で次々と制圧されていく。
浜比嘉の周りにふたりが倒したソードの男たちが折り重なった。
縁石や壁、門扉に衝突し、何台ものバイクがアスファルトに転がった。かなりの台数がもうもうと煙を上げ、激しく炎を上げているものもある。
燃えるゴムとアスファルト、そしてガソリンの匂いが鼻を突いた。黒煙で視界が悪い。
小鉢らのカメラはその様子を寸分漏らさず撮影した。その映像はさくらの実況としほりの英文を載せて世界に配信される。
世界中の目が、この闘いに注がれた。
「さくらさん、いいですか!」
「うん!来斗君、いいよ!!」
「これを見て!今、世界中の人々が戦争を忘れ、飢えを忘れ、子供たちは笑顔だ!でも、この3日間だけを守ろうとしたら、こうなるんだ!」
来斗はすぅっと息を吸い込んだ。そして一気に叫ぶ。
「僕はこの3日間だけを守ろうとしたわけじゃない!そこに巡る未来を守りたかった!たとえ繰り返す、偽物の未来だとしてもだっ!!」
来斗の心からの叫びは、世界中に届く。
だがその瞬間。
”ギャギャッ!フォフォフォオオン!ブォブワァアアーーっ”
立ちこめる煙の中から轟音と共に現れたバイクが、猛然と来斗に突っ込む。
「いかん、1台すり抜けた!来斗っ!逃げろ!!」
榊が叫んだ。視界を遮る煙は、榊に一瞬の隙を作ったのだ。
突っ込むバイクのタイヤが来斗に届く寸前。
「ダメよぉおおおっ!!」
悲鳴に近い叫びと共に、来斗の体は突き飛ばされて道路に転る。同時に来斗の瞳は、煙の中でバイクに巻き込まれる狩野ひろみの姿を捉えていた。いつか来斗の母、聡子がそうしたように、ひろみがその身を呈して来斗を守ったのだ。
狩野ひろみの夢は世界で活躍するファッションコーディネーターだ。その夢のためには危ない夜の仕事も厭わなかった。
だがこの繰り返す3日間は、彼女の夢を奪った。その代わり、彼女は生涯を捧げても良いと思える存在と出会う。
中竹真也と、クロスライト。
何百回と繰り返すひろみと真也の3日間は、ふたりの間に純粋な愛を育んだ。そして、そこに生きる意味を与えてくれたクロスライトの存在。彼の専属スタイリストの地位は、ひろみの夢そのものでもある。
狩野ひろみにとって、ふたりが全てだった。
それは、中竹真也にとっても・・・
「ひろみさんっ!!!」
来斗は片膝を付いて身を起こした。道路に濃い煙が立ちこめ、その中に人が倒れている。
「来斗!大丈夫か!!」
榊は立ち上がれない来斗の元に駆け寄り、体を引き起こす。ひろみを巻き込んだバイクはその直後、他のPCLに制圧されていた。
「榊さん!ひろみさん、ひろみさんがっ!」
「ああ、ひろみちゃんか。よく見なよ、来斗、ほら」
目を凝らす。煙の中に倒れている人影は・・ふたり。
そこには、ひろみと共に倒れている真也の姿があった。
「ぁああっ!真也君、真也くんも!」
真也はPCLの初期メンバーだった。あの核戦争の後、ネットにクロスライトを信奉するコミュニティが発生した頃から関わっている。そして来斗と歳が近い真也は、繰り返す3日間の中で、まるで兄のように身近な存在になっていた。
その真也までが目の前に倒れている。
「うわああっ!真也くん!ひろみさん!!」
榊は叫ぶ来斗を抱き寄せ、耳元で囁くように言った。
「だからよ、よく見なって、言ってんだろ?」
真也の手が、ひろみの頭が、動いているのが見えた。
ふたりは、生きていた。
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つづく
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