第61話 空手の達人
浜比嘉青雲たちを乗せたバスは、ついにヒムカに到着した。だがそこに現れたのは、ソードの別働隊だった。彼らはどのように浜比嘉の情報を得たのか?
クロスライトと真也たちPCL、そして刑事たちと尚巴、麻理子。
闘いは始まる。
観光バスの後部座席に座る黒主来斗は、浜比嘉と安藤たちの話を聞きながら車窓を眺めていた。
-ヒムカか、そんなものがあったんだ。そんな可能性があるのなら、僕は・・・
4日目の可能性。そんなものがあると知っていたら、自分はあんなことを、3日間が全てとか、そんな考えを持っただろうか?
来斗はそのことばかり考えていた。
無意識に親指の爪を噛む。
-まただ、ついやっちゃう。
悪い癖だと思いながら、来斗はポケットからヤスリを取り出して爪を整え、ぼんやりと外を眺める。その瞳には、のどかな宮崎の景色が映っている。
連なる山々が広大な平野と共に宮崎の県土の大きさをうかがわせる。そして次々とバスを追い抜いていくツーリングの車列。
10台、20台・・田園風景の中、風を切って走る大型バイクは、かっこ良かった。
-高校生になったら免許を取って、乗りたかったな、バイク。
PCLの教祖、救世主であり予言者としてのクロスライトの顔は、ただの中学生、黒主来斗に戻っていた。
「そろそろです!皆さんご準備を!」
運転席の警官が声を張る。山々に向かってなだらかに登る真っ直ぐな道、車窓には田畑が広がりどこまでも見渡せる。日本の原風景のような田舎の景色だ。そして見えてきたのは、これもどこにでもありそうな役所然とした建物。大きさはあるが、平凡だ。
ただ、その平凡さに似合わない巨大な電動門扉が異様だった。
3台は門扉の前に停車した。観光バスは門扉に向かって停まり、2台のマイクロバスは道路にはみ出して停まっている。
門扉を施設内の職員が開けることはない。開けられるのはキーを持っている人物だけだった。
「浜比嘉教授、お願いします」
安藤に促され、浜比嘉は胸の内ポケットからワイヤレスキーを取り出した。キーには生体認証が掛かっている。
浜比嘉がキーのボタンに指を掛け、力を込める。門扉が音を立て、ゆっくりと動き始めた。
観光バスの全員に緊張が走る、その瞬間だった。
”ズッドォオオーーンッ!!”
轟音と共に、1台の大型オートバイがバス前方のドアを突き破った。運転席の警官はドアとバイクの下敷きになっている。もう走行は不可能だ。
浜比嘉の指がボタンを外れ、門扉が止まる。
バイクに続いて、車内に男が乱入してきた。フルフェイスの男はプロテクターも付けているようだ。肩や胸が異様に膨らんでいる。
男は通路に立ち、拳銃のようなものを構えた。
「皆さん!我々の後ろに!!」
同乗している警官2名が前に出て応戦した。車内に銃声が轟く。警官の射撃が男の胸や腹に命中しているが、やはり防弾性能を持っているのか男は倒れない。一方、男の銃弾もバスの座席に阻まれて当たらなかった。残りの警官2名も銃撃に加わる。
「武藤刑事!教授を外に!!私たちの後ろを回ってください!」
警官が応戦しながら叫ぶ。
「よし!安藤さん、教授を私の後ろに!!」
安藤が身を呈して浜比嘉をかばう。武藤はバス中央のドアをこじ開けようとするが、運転席からの操作なしでは上手く開かない。
「武藤さんっ!非常用スイッチ!」
尚巴がスイッチを操作してドアを開ける。安藤、武藤に囲まれて浜比嘉は外に逃れた。続いて尚巴が麻理子を抱えて、そして来斗が真也と榊にかばわれながら外に出る。
その来斗の目に、バスを取り巻く10台ほどのバイクが映った。
-待ち伏せ?違う、これはさっき追い越していったツーリングの連中だ。ということは、まだいる!
バスからはシュウシュウと音を立てて煙が立ち上っている。その煙の中から4名の警官が降りてきた。車中の銃撃戦は終わったようだ。
「君たち怪我はないか?男は!?」
「は!男は足を狙って無力化しました!運転の警官も救助、重傷ですが命に別状なし!我々が前面に出ます!武藤刑事は教授と一緒に後ろへ!!」
「分かった、頼む!教授、連中はまだ集まって来てる、我々とバスの間を通って下さい!」
4名の警察官がその身を盾にするように展開した。その後ろを武藤と浜比嘉が動く。
「教授!門扉、門扉を開けてください!!」
武藤の叫びに応え、浜比嘉はキーを高々と掲げてボタンを押した。電動門扉がもう一度軋みながら開き始める。
「お前たち3台行け!あの門を壊せっ!!」
ソードのひとりが叫んだ。同時に大型バイク3台が電動門扉に突っ込む。バイクは僅かに開いた門扉の格子に挟まって入り口を塞いだ。
衝突の直前にバイクを捨ててアスファルトを転がった男たちは、携えていた鉄パイプやナイフを振り上げて武藤と安藤に迫る。
銃で武装していたのはバスの男だけのようだが、襲ってくる男たちに対し、浜比嘉をかばいながらの武藤は拳銃で応戦できない。
浜比嘉を守ろうと覆い被さる武藤の背中に、男のひとりが鉄パイプの一撃を見舞う、その時!
”パンッ”
乾いた破裂音を伴って、安藤刑事の銃弾が男の首元を貫いた。男たちの胴体は防弾で弾が通らず、かと言って手足では攻撃を防げない。穏健な安藤にとっては苦渋の決断だった。
男が後ろに弾け飛ぶ。だがその後ろから更にナイフを振りかざしたふたりが追る。
「安藤さん!ひとりは任せてっ!!」
叫んだのは尚巴だった。武藤に切り掛かろうとする男の手首を掴み、自らの懐に呼び込むと強烈な左裏拳を顔面に打ち込んだ。男の鼻が折れ、血しぶきが舞う。
「尚巴さんっ!!」
膝をついた男に、いつの間にか間合いを詰めた麻理子が左足を軸にした強烈な回し蹴りを見舞う。まともに後頭部を打ち抜かれた男は白目を剥いて昏倒した。
見ると、残るひとりに安藤が苦戦している。銃撃を加えているが、やはり頭や首に当てるのは至難だった。
「安藤さん、俺がっ!」
男と安藤の間に尚巴が飛び込み、振り回すナイフを中段蹴りで叩き降とす。更に男との間を詰めると、掌底で顎を砕いた。
「次はわたしっ!」
素早く男の後ろに回った麻理子が強烈な下段蹴りで膝裏靱帯を破壊する。
「んがぁっ!はぁあああ・・」
男はもう動けない。
「麻理子!さすが6段!!」
「尚巴さんもやるわね!5段なのに!」
武藤の下でその光景を目の当たりにした浜比嘉は、武藤を見上げた。
「武藤さん、あの子たち連れてきてくれて、ありがとな」
「いや、どういたしまして」
武藤の口元がぐいっと吊り上がったが、笑う間もなく次の攻撃が来た。
大型バイクが突っ込んでくる。2台!
前面の警官4名は、後ろのソードを押さえるのに手一杯だ。突っ込んでくるバイクは狙えない。
武藤は体を起こし、浜比嘉を自分の背中にかばいながら拳銃を構える。その横に安藤も並んだ。
「安藤さん、今だ!!肩から上を狙って!」
ふたりは同時に銃撃を始めるが、バイクを盾にして迫る人間を狙うのは難しい。
「安藤さん、一台に集中する!右!!」
武藤と安藤は一台に銃撃を集中した。銃弾はバイクのタイヤを貫きバランスを奪った。バイクは転倒し、男が地面を転がる。
尚巴と麻理子は浜比嘉を守る武藤の横に付いた。ふたりの銃撃を避けて残る一台が迫る。
一閃、尚巴は半歩スライドしてバイクを避け、体重の乗った正拳を男の側頭に叩き込んだ。ヘルメットの上からだが、強烈な衝撃にバイクはコントロールを失い、暴走して縁石に衝突する。バイクは激しく損傷し、エンジンから猛々と煙を噴いている。乗っていた男は動かない。
銃撃で転がった男が立ち上がって襲いかかってくる。武藤が身構えるが、その前に素早く入った麻理子が身をかがめ、男の足を払う。男が再び転がった次の瞬間、男を追って間を詰めた麻理子の踵落としが後頭部に決まる。
男の首が情けなく曲がり、ヘルメットがアスファルトに跳ねた。
「ふぅ」
武藤が息をつく。そしてひと言。
「君たちを連れてきて、本当に良かったよ」
今度こそ、武藤は笑っていた。
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つづく
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