第58話 集結する者たち
ソードの浜比嘉青雲襲撃は失敗した。
その闘いから数時間前、浜比嘉から連絡を受けていた尚巴と麻理子は、浜比嘉襲撃を止めるため、ある場所に来ていた。そこにはあの刑事たちの姿もあった。
5月28日、午前3時20分過ぎ。
ひろみと真也はいつものように抱き合って目覚めた。
あの最初の3日間から、もう何百回こうして目覚めただろう。ふたりは見つめ合い、キスをして、いつもの言葉を交わした。
「おはよう、ひろみ」
「おはよ、真也」
「さぁ、行こうか」
「うん、行こ」
ふたりは起き上がり、身支度を整えて部屋を出る。
店の入り口で、榊マネージャーが待っていた。
「おう、おはよう、おふたりさん。じゃあ、行こうかね」
真也が頷き、3人は揃って店を出た。
しばらく歩いて大通りに出た3人は、そこに待機していたワゴンに乗り込んだ。
「おはようございます。今日は来斗に同行して飛行機に乗ってもらうかも知れません。羽田に向かいます」
運転席の男が振り返らずに言った。
「飛行機で?羽田?まず黒主家じゃなくて?・・来斗君は今日、どこに行くんです?」
真也の問いに、運転席の男はバックミラー越しに真也と目を合わせ「目的地は聞いていません」と応えた。「ただ時間が戻ったらすぐ、皆さんを羽田空港にお連れするようにと指示されています」と付け加える。
真也は「そうですか」とだけ応え、榊に顔を向けた。
榊は肩をすくめ「ま、今回はあれだろ?4日目に進む実験?ってやるわけだ。で、そこになぜか来斗が必要、そういう事だよ」と言う。なるほど、という顔で真也は頷く。
「よろしいですね、では、出発します」
運転席の男はコンソールのスイッチを押した。天井でカシャリと音がして、何かがセットされる。同時にワゴンはサイレンを鳴らして走り出した。
ワゴンは、覆面パトカーだった。
この3日間の最後、もう何回目かも分からない5月30日、4日目への実験が行われる。
どこで行われるかも分からないが、その場所に黒主来斗が行くのだ。そして真也たちもそこに行く。
このパトカーに乗る全員が、クロスライトの”三日間の法”を遵守し信奉する者たち、PCLの精鋭だった。
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5月28日、午前10時頃。
黒主来斗の自宅前に、喜屋武尚巴と麻理子は立っていた。
「俺たちはこの黒主来斗という子供と面識も何もない。そんな子に何を言ったって聞いてもらえないぞ?それでも麻理子、行くんだよな」
「当たり前でしょ?さっき叔父さんとも電話で話をしたじゃない。叔父さんは今、宮崎でPCLの過激派に命を狙われてるから、身代わりを立てて自分は違うルートを走るんだって、それでもどこで襲われるか分からないからって、そんなの絶対やめさせるんだから」
「ああ、そうだな。青雲さんに何かあればこの実験はできない、つまりまた時間は戻る。それが過激派の狙いだったな」
どうしても青雲への襲撃を止めたい想いのふたり。だが黒主来斗にどうやって話を通せばいいか分からないふたりは、あれこれ思案していて後ろから近づく男たちに気付かなかった。
「あ~、ちょっといいですか?」
ふたりが驚いて振り返ると、そこには小太りの中年男性と、見るからに凶暴そうな大柄の男が立っていた。
「え?あなたたちは?」
尚巴の質問には答えず、小太りの中年が続ける。
「ちょっとね、小耳に挟んでしまったんですが、誰が身代わりを立てて別ルートなんですか?もしかして、浜比嘉っていう大学の先生?それと、実験ができない、時間が戻る、とも聞こえましたが」
その口調は柔らかで優しげではあったが、質問に答えざるを得ない迫力も混ざっていた。それにこの男は、浜比嘉青雲のことを知っている。
「え?ええ、実は私たち夫婦はその浜比嘉教授の縁者で、妻が姪なんです。それで先ほど電話で話をしまして、宮崎にいることや狙われていること、それに別ルートで目的地に行くことを聞いたんですよ」
「ほぉ、で、実験のことは?」
「んん、それはちょっとややこしいんですが、しばらく前の3日間に浜比嘉教授本人から聞いたんです。この3日間を破る実験をするって、ある事情を抱えた僕たちにそのことを教えてくれたんです」
-やれやれ、浜比嘉教授、このふたりにはほとんど喋ってるじゃないか。
安藤は少し呆れた表情を見せる。
「それで、なぜここに?」
「それは」
尚巴の言葉を麻理子が引き継いだ。
「だって!黒主来斗が首謀者なんでしょ?3日間がすべてで4日目はない!なんて言ってるんだから。私たちは彼に叔父の襲撃をやめてもらいたくて来たんです!!」
「わっはっはっは!!そうですか!」
それまで黙って聞いていた凶暴な大柄が笑い出した。
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つづく
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