第54話 宴の夜
沖縄、那覇に集結した竹山、藤間、浜比嘉の3人。
警察の警護を受けつつも、久々に顔を合わせた3人は、美味い酒に酔いしれる。
そして夜は更け・・
5月29日、午後5時、那覇空港。
浜比嘉は到着ロビーの水槽前に立っている。その横には羽田から到着した藤間綾子の姿もあった。綾子は珊瑚礁の海を模した水槽に目を奪われている。
色とりどりの珊瑚と熱帯魚、小さいもので5cmのルリスズメ、オヤビッチャ。大きいものは50cm以上もあるセンネンダイや1mはありそうなウツボなど。
東京生まれ東京育ちの綾子にとっては、ただの水槽も夢の世界のようだ。
綾子はふと、電光掲示板に目をやる。
「あ、到着しましたね。竹山さんの飛行機」
「・・・あ?ああ、ようやく着いたな。じゃ、行こうか」
浜比嘉は水槽の魚たちを無邪気に見つめる綾子に見とれていた。少々照れくさそうに到着口に向かう。
「やや!お待たせしたね、お二人さん。で、これからすぐに浜比嘉君とこかな?」
「気が早いですねぇ、竹山さん。でも今日はまず、行くとこがあるようで」
「ええ、ほら・・」
到着ロビーに3人が揃ったところに制服警官が近づき、声を掛けてきた。
「浜比嘉教授、竹山教授、藤間教授ですね。ではご案内します。こちらへ」
「おまわりさん?これは?」
一瞬、訝しげな顔をする竹山だったが、すぐに合点がいった。
「そうか、浜比嘉君は狙われてるんだもんな。護衛は当然か」
「はい、私は豊見城警察署のシンガキ巡査部長です。教授方を沖縄県警本部にご案内するように、と言われています。それと、本部からご自宅までは警護車が付きますので、ご安心ください」
シンガキは声を潜めた。
「それと、今も私服がガードしていますから」
「むむ、そうでしたか。気付かなかった。さすがに日本警察は優秀ですなぁ。それでは竹山様、藤間様、参りましょうか」
浜比嘉はふたりに声を掛けると、シンガキの後に付いて出口に向かった。
その時、静かに発券の列を離れた女が、掲示板の前から歩き出す男が、手に持った缶コーヒーを捨てて方向転換する男がいた。そして、それぞれと同じ方向に歩き出す男や女たちもいたが、その動きに浜比嘉たちは気付かなかった。
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5月29日、夜。恩納村の居酒屋で。
浜比嘉たちの前に沖縄料理が並んでいる。ふっくらとした沖縄天ぷらや柔らかく煮付けたラフテーなどの豚肉料理、そして真ん中に置かれたのはアカジンミーバイの姿造り、その横にはニシキエビの造りも置かれている。これは竹山教授の注文だ。
「わぁ!伊勢エビ、おっきいですねぇ!」
「藤間君、これはね、ニシキエビっていうんだよ。伊勢エビより圧倒的にでかくなる。な?浜比嘉君」
「ああ、藤間は知らないのか。沖縄のエビはでかいのよ。空港の水槽にもいたけどな。で?酒はなんにする?」
そう言う浜比嘉に、綾子は意味ありげな笑みでバッグから酒瓶を取り出した。
「おうっ!それはっ!!」
「ふふふ、そうです。これはあそこのお酒、プレミアム木挽ブルー25度」
「がっはっは!でかした藤間!優秀なのは物理学だけじゃないな!お姉さ〜ん、水と氷をセットで、グラスはみっつね!!」
浜比嘉の心尽くしの酒宴をふたりは大いに楽しんだ。それに綾子持参の焼酎も宴を盛り上げる。そして3人は、少々酔ってしまった。
話はついつい、沖縄県警本部での話に及ぶ。
3人は、次の5月28日に発表する内容を県警本部会議室で突き合せていた。もっとも大まかについては既に決まっていたから、簡単な段取りの確認だけなのだが、ついにここまで来たという充足感と、これから起こりうる事の重大性に3人とも緊張していた。だからこそ3人で顔を合わせ、酒でも飲みながら話そう、ということなのだ。
「まぁとにかくだ、次の28日、日本時間の朝5時にXデーを発表するんだから、これは全世界同時発表、我々の配信と同時に各国の首脳が発表することになっている。我々の責任は重大だぞ」
そう語る竹山に浜比嘉が応える。
「竹山さん、そう力まなくても大丈夫ですよ。俺たちが伝えるのは30日にやるってことだけ。あとは各国の政府が上手くやりますって!それよりも、実験自体がコケないようにしなくっちゃ」
「そうですよ竹山さん、私たちの役目は無事に実験を終えること。今回この3日間を破れるかどうかは別にして、世界初の試みなんだから失敗すればまた計算してやり直せばいい。それよりも、世界のどこにあるのかも分からなかったヒムカの場所が知られること。その方が重大かもしれません」
「いや藤間君、ヒムカがどこにあるかは言わなくてもいいんじゃないか?実験そのものには関係ないことだ。粛々と進めればいい」
「そうだよな、竹山さんの言うとおりだ。俺らが集結すればいい。それだけだ」
「そう、ですね。そうですね!では次の28日朝5時に私たちは会見。浜比嘉さんは起きたらすぐに空港に向かってくださいよ?顔を洗ってひげは剃って、ちゃんと背広着て」
「おん?お・・おうっ!なにしろチャーター機だからな!俺が来るまで待っててくれるさ!」
3人は互いに頷きながらグラスを重ねる。
「うん!旨い!!ホントならなぁ・・この焼酎と日向灘の海の幸で一杯!だったのになぁ」
”ガラっ”
個室の引き戸が開いた。
「お待たせしましたぁ~、ぐるくん唐揚げをみっつとぉ、あと、セットの氷のお代わりでぇ~す」
居酒屋の女性店員は満面の笑みを見せて、引き戸を閉めた。
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つづく
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