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第52話 ヒムカ計画

繰り返す3日間を破る切り札。

それは世界最高性能の超高エネルギー粒子加速器。

藤間綾子と浜比嘉青雲は、そのプロジェクトの中心人物だった。

世界の命運を左右するその実験の前に、彼らは・・


 超高エネルギーハドロン粒子加速器。それは1周数十kmにも及ぶ極低温のパイプの中で超伝導状態を作りだし、光速に限りなく近い速度に加速したハドロン粒子を衝突させる巨大な装置だ。


 現在、フランス・スイス国境に建造されているセレンが世界最高性能のハドロン粒子加速器である。

 1周約30kmのセレンは地下100mに建造され、粒子が衝突して生み出される最大エネルギー量は13兆電子ボルトだ。


 しかしセレンが世界最高性能とは、すでに過去のものだった。

 真の世界最高性能ハドロン粒子加速器は、日本にある。


 九州、宮崎。


 その中央に位置する西都市と国富町。神話の里と呼ばれるこの地にほど近い山々の地下に、その加速器は建造されていた。


 直径20km、1周60kmを超える巨大加速器は、日本とアメリカ、EUによる国際プロジェクトとして建造された。だがこの巨大プロジェクトはその存在はおろか計画すらも公表されていない、極秘のプロジェクトだった。


 セレンが建造された時、怪しい宗教団体やオカルト団体だけではなく一部の科学者からも、セレンの超高エネルギーが異次元へのゲートを開ける、と激しい反対運動が起こった。


 このプロジェクトをそのような反対運動で止めるわけにはいかない。


 極秘の理由はそれだけではなかった。


 この加速器による実験の成果は計り知れないものになると予想されている。それこそ世界のエネルギー事情を一変させてしまうほどのものだった。そして日本、アメリカ、EUはその成果を独占的に得ようとした。だからこのプロジェクトを極秘として、国際的に一番目立たない日本に建造したのだ。


 その超高エネルギーハドロン粒子加速器のプロジェクトは、“ヒムカ”と名付けられた。


 ヒムカとは“太陽に向かう地“という意味だ。



 5月29日、朝9時。

 藤間たちのユニットでは、昨日の会見と夜の番組のことをオンラインで話し合っていた。


「いやまずかった、さすがにまずかったよ、浜比嘉君」

 竹山が頭を掻きながら左右に振っている。

「浜比嘉君、多数のパラメータを装置に、って言い掛けたろ?あれでちょっとでも物理に明るい人間なら、“ああ、粒子加速器かな”って思ってしまう」

 藤間が口を挟む。

「いえ竹山教授、私です。私のミスです。あの記者の質問に、つい浜比嘉教授の名前を出してしまった。あれさえなければ浜比嘉教授が質問を受けることもなかったんですから」

「いやいやおふたりさん、あんまり気にしなさんな!終わったことは仕方ない。時間は戻らないんだから。おっと!時間は戻るんだが記憶があるからまずいのか!がっはっは!!」


 狙われている当人、浜比嘉青雲の笑い声に、竹山も藤間も表情を緩める。


「とにかく!あの鈴木ってのが俺の名前を叫んじまったのが悪い!あいつのせいで今も家の周りはお巡りさんだらけよ」

「浜比嘉さん、でもそれはいいことでしょ?」

「そうだぞ浜比嘉君、家にいれば安全、ってことだ」

「でもですよ?俺が家にいるんじゃ実験できないでしょ?装置には俺が直接データやなんかを入れなきゃなんないんだから。それに入力にはかなりの時間が必要だし、その検証をみんなもする必要があるんだから、俺だけでも28日のうちにヒムカに行かなきゃ」

「そうだなぁ、我々や他の職員が入力できればいいんだが、オンラインで君の言うとおり入力するのでは間違いも起こるだろうから。入力したデータを送ってもらうにしろ、複雑すぎてどこに設定するのか、直接見てやらないとなぁ」

「えぇ、浜比嘉さんの頭の中にある写真を印刷でも出来ればいいんでしょうけどね」

「お!藤間、面白いこと言うじゃない!この理論を実用化すると、そういうことも可能だぞ?」

「本当ですね!そう考えると、この理論の展開次第では本当にテレパシーも可能になる」

「それも距離関係なしのな!やっぱこの理論、すげぇなぁ」


-ふふふ、そんなことになれば、いつでも青雲と話できるのにね。


 藤間綾子はそんなことを想像して微笑んだ。


「まぁふたりとも、今はそんなこと不可能なんだから、やはり浜比嘉君にはヒムカに来てもらうしかないってことだ。どうだ?浜比嘉君、予行演習ってことで、今日昼からでも集合してみないか?ヒムカの手前、宮崎空港まで。我々も行こうじゃないか、藤間君。そして次の28日の朝、世界に発信する内容を3人で突き合せてみるんだ。いいだろう?」

「うん、いいですね、それ。3人で顔を合わせるのも4月の試験運用以来だから、もうずいぶん経ってますもの」

「おお、そうだな!じゃあ今夜は日向灘の海の幸で、一杯やるか!!」


 嬉しそうな浜比嘉の顔を見て、綾子はふと不安に駆られる。


「あっ・・いや、やっぱりダメですよ。ヒムカの場所は極秘、宮崎に行くのも前なら良かったけど、ソードが浜比嘉さんを狙ってる今は浜比嘉さんの安全も、ヒムカの場所が知られるリスクも・・」

「おぉ・・そうだなぁ。確かにそうだ。しかし、う~む・・」

 しばし考えを巡らせた様子で、竹山がまた口を開く。

「じゃどうだ!私たちが沖縄に行く、というのは?3人で話した方がいいだろ?」

「あはは、竹山さん、それじゃあ予行演習にもならないですよ?」

「あ?そうか。ダメかな?浜比嘉君」

「・・・・」

 浜比嘉は黙って俯いている。

「浜比嘉さん?」

 綾子の問い掛けに、腕組みをして俯いていた浜比嘉が顔を上げた。

「そりゃあ・・いいに決まってるでしょ!3人で会うのが予行演習さぁね!よし、夜は俺のとっておきの居酒屋で決まりっ!!ホテルも取っとくからさ!」

「あれれ、浜比嘉君、今俯いてたのは、どこで呑むか考えてたのか?」

「じゃ!私は海の見える部屋にしてくださいね!」

「では私は、でかいエビの刺身を頼もうか」

「おう!まかせろ!がっはっは!」


 竹山、藤間、浜比嘉の3人は、5月29日の夕方、那覇空港で落ち合う約束をしてオンライン会議を抜けた。



つづく


お読みいただいて、ありがとうございます。

毎日1話の更新を予定しています。

よろしくお願いいたします。

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