第50話 唐船どーいが響く夜
大きな盛り上がりを見せる尚巴と麻理子の披露宴も、そろそろ終わり。
死に続ける運命の麻理子は、その想いを両親に届ける。
思いの大きさは尚巴と仲間たちも同じだった。
5月28日、午後7時半、披露宴会場。
「この良き日にお集まりの皆様、わたくし、本日の披露宴の司会を務めさせていただきます、久高まりんと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
会場に拍手が巻き起こった。久高まりんは沖縄で知らない人はいない有名タレントだ。
「まず、喜屋武尚巴さまと久高麻理子さまのご結婚が滞りなく済みましたことを、皆様にご報告いたします。お気づきでしょう、新婦のお名前はわたくしと、とてもよく似ておりました。それが今は喜屋武麻理子さま。未だ独身のわたくしの少し残念な気持ち、お分かりいただけますか?」
会場は更に大きな歓声に包まれる。
「皆様ご承知のとおり、この世界は3日間を繰り返しています。わたくしも、ほんの先ほどこのお話をいただきました。ですからこの披露宴も、もうぶっつけ本番打ち合わせなし!私の司会もどんどんエスカレートするからさ!みんな、付いてきてね!!」
テレビやラジオで見聞きするそのままの声と笑顔。更に大きくなる歓声。
「では!新郎新婦のご入場です!!」
会場の照明が落とされ、レーザー光線が飛び交う中、中央の扉が開き、尚巴と麻理子が入場してきた。少し緊張の面持ちのふたりだが、盛り上がる会場の雰囲気にすっかり安心したように笑みを浮かべ、深々とお辞儀して会場を進む。
「さぁ!披露宴を開会します!!乾杯の音頭も友人挨拶も余興もなにもかも決まっていません!乾杯の音頭!やりたいひとー!!」
久高まりんの呼び掛けに応え、10数名が手を上げた。
「じゃ!新郎新婦が席に付くまでに、じゃんけん大会!始め!!」
お祭り騒ぎの披露宴が、始まった。
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5月28日、午後10時、披露宴はまだ終わりが見えなかった。
百之伽藍のプライドを掛けた披露宴。料理はすべてシェフ一同の手になるもので、出来上がった順にテーブルに並ぶ。熱いものは熱く、冷たいものは冷たいまま。テーブルごとに料理の種類が違うため、各テーブルでシェアが始まり、それが親交を深め、更に盛り上がりを呼ぶ。
「すごい、すごい披露宴だね」
佐久間は隣に座る伊藤に声を掛けた。
「ホント、沖縄の披露宴はすごいって聞いたことあるけど、これはもっとすごいのよね、きっと」
「そうだよね、みんな今日この話を聞いて集まってる人ばっかりだから、親族はもちろんだけど、友達の盛り上がりがすごいよね」
「やっぱり、チーフが生きてるって事が大きいのよね」
「うん、だってそうだよね。死んだと思って諦めてた友達が、今ウェディングドレスを着て笑ってる。これで盛り上がらない訳がないよな」
そう話す佐久間の耳元に、グラスを持った手が突き出された。
「えっと、麻理子の同僚の方たちですよね!麻理子の友人の宇那志由美っていいます」
「え?うなし、さん?」
「はい!うなしゆみです、ゆーみーって呼んでください!」
「え、えっと、ゆーみー?」
「はい!佐久間さん、ですね!麻理子を助けていただいて、ありがとうございます!!」
名前はテーブルのカードを見たのだろう。それぞれが自分で書いたカードだ。
由美の声に釣られたのか、麻理子の友人と尚巴の友人も集まってきた。手に手にビールとグラスを持っている。
「ゆーみー!なんね?尚巴と麻理子さんの同僚さんね?尚巴がお世話になってます!!えっと、佐久間さん、伊藤さん?それに新田さん?」
尚巴と麻理子の友人たちはすでに打ち解け、まるで同級生の雰囲気だ。その輪に佐久間たち3人も取り込まれ、佐久間は麻理子の友人たち女性陣が繰り出すお酌攻撃に少々酔ってしまっていた。
ふと横を見ると、伊藤も新田も尚巴の友人たちに囲まれて、やはり少々酔っている。ふたりとも尚巴の昔話で盛り上がる男性陣にまんざらでもなさそうだ。
「ちょっと、すみません」
佐久間は女性陣に断りを入れてすっと立ち上がり、伊藤の横に立つと肩に手を置いた。
伊藤は少し驚いた表情で佐久間の顔を見上げる。
「尚巴さんの友人の皆さん、伊藤って、かわいいでしょ?」
佐久間は意を決した。
「ぼく!伊藤が好きです!ずっと前から好きだったんです!!」
尚巴の友人たちは少しぽかんとしていたが、ひとりが我に返ったように叫んだ。
「いいね、佐久間さん!めでたい、お祝いしよう!!」
他の友人たちも続く。
「はっさみよー!伊藤さん気に入ったのにさ!でも、おめでとう!!」
「しにくやしい!もう佐久間さん、飲ます!」
そんな声を聞いている伊藤の瞳はまん丸だ。
「伊藤彩さん、乾杯、してくれる?」
伊藤は一度だけうなずいて、グラスを手に取った。
この3日間の最初の日、もうひとつのカップルが生まれた。
その後、新田里央がモテにモテたのは言うまでもない。
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「さぁ皆さん!私はこんなに盛り上がる披露宴は初めてよ!でもさ、やっぱり絶対必要なお約束って、あるよね~?」
久高まりんが披露宴会場を煽る。
「それは、なにかな~?」
会場から裸踊りやらカチャーシーやら賑やかしの余興の声が上がる。
「ちっがうさ!裸踊りもうやったし!カチャーシーは最後だし!新婦友人代表挨拶も泣けたでしょ?新郎友人代表はいまいちだったけどさ!」
久高まりんの司会は容赦ない。
「披露宴のお約束、それは、新婦の手紙です!!」
即座に声が上がる。
「新郎の手紙わや!」
「新郎はね、最後の挨拶よ!」
新郎新婦の両親が壇上に上がり、尚巴と麻理子がその前に進む。もちろん、その手には何も持っていない。
麻理子が両親に語り掛けた。子供の頃のこと、公務員の父の転勤であちこち行ったけど、それは楽しい思い出であること、空手に出会って良かったという思い、そして、この3日間の繰り返しで数え切れない悲しみを与えてしまったこと。
「お父さん、お母さん、私はね、また明後日にビルから飛び降りてるの。でもね、私の旦那様が助けてくれるのよ?これからずっと。だからね、私は今、幸せを感じてるの。本当にごめんなさい。そして、ありがとう。大好きなお父さん、お母さん」
長政は天井の照明を見上げ、麻理子の顔を見ることができない。昌子はただ涙が流れるまま、ハンカチを鼻に当て、何度も何度もうなずいている。
久高まりんはその様子をしっかりと確かめ、声を上げた。
「感動をありがとう!麻理子!では続いて、新郎の挨拶です!」
尚巴も涙をこらえていたが、久高まりんの言葉に押され、胸を張って客席に向かった。
「列席していただいた皆様、ありがとうございます。来てくれたみんな、ありがとう。麻理子の話で十分だから、俺は長くは話しません。とにかく、おとう、おかあ、これが俺の嫁、尊敬できる人柄で頭がいい、空手をやってるから夫婦喧嘩はちょっとこわい、そして明後日すぎたら、また天から降ってくる。でも、お義父さん、お義母さん、心配はいりません。俺が、俺の嫁を助けます。これからもずっと、ずっと。なぁ!みんなっ!!」
尚巴が拳を天に突き上げる。
「おぉー!!」
「は、はい!!」
「ほぇ、ほいっ!!」
佐久間と伊藤、そして新田も、その拳を天に突き上げた。
満場の拍手が、尚巴と麻理子と、麻理子のチームを包む。
久高まりんが声を上げた。
「尚巴ありがとう!それではみんな一緒に、カチャーシーカチャーシー、カチャーシー!!」
披露宴会場に唐船どーいが高らかに流れ、誰もが踊り、そして酔いしれた。喜屋武尚巴と麻理子の、長い長い1日が終わろうとしていた。
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つづく
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