第49話 いざ披露宴
尚巴と麻理子は結婚する。
ふたりを祝福するため、各地からたくさんの人たちが集まった。
そして開宴する、ふたりの披露宴。それはそれはにぎやかで、そして新たな出会いを産んでいた。
5月28日、午後6時、6月を控えた沖縄の夕暮れは遅い。日の入りは午後7時過ぎ。うっすらと赤みを増していく空を受けて、麻理子の白いウェディングドレスも薄い朱色に染まっていた。
麻理子の右手には尚巴が寄り添い、海をバックにふたりは佇む。
目前に太平洋と東シナ海を臨むリゾートホテル・百之伽藍の専属カメラマンとコーディネーターがふたりに声を掛ける。
「麻理子さん、こちらを向いて、少し太陽がまぶしいですけど。尚巴さん、麻理子さんの手をとって、麻理子さんの横顔を見つめる感じで・・そうそう!いいですね!」
そう言っている間にもシャッター音は鳴り続け、ふたりのベストショットを探っていく。
コーディネーターは感慨深げに二人を見つめる。
百之伽藍でのウェディングは久しぶりだった。この現象が始まって最初の頃は結婚式を挙げるカップルもいたが、最近はない。だからこそか、百之伽藍のスタッフにも力が入っている。
披露宴のオファーが入ったのは今日の昼前だ。そこで聞いたふたりの馴れ初めは驚愕だった。この現象が始まって今日の朝まで、新婦はビルの屋上から落ち続けていた。それを新郎が助けたのだという。
“このウェディングに全力を注ぐ!いいかね、最高のサービスを!百之伽藍の誇りに掛けて!このウェディングを記憶に残すんだ!”
ホテルの総支配人はそう言った。もちろん無料だ。どうせあと二日ちょっと過ぎれば全てが元通りになるのだから。しかし、元通りにならないものもある。コーディネーターは言葉に力を込めた。
「また時間が戻ったとしても、おふたりのこの時間、この記憶は永遠です。どうぞ最高の笑顔を私どもにも分けていただきたい。あなた方を永遠に忘れないように」
最初はぎこちなかった尚巴と麻理子も、衣装合わせから撮影に至るわずかな間にすっかり打ち解けていた。寄り添うふたりの姿は、夕焼けのビーチによく映えた。
百之伽藍に着いたのは午後4時過ぎだが、おおまかな段取りは全て麻理子の叔父の青雲と叔母の春子が整えていた。だからマイクロバスを降りてすぐ新郎新婦は別室に通され、衣装合わせからビーチでのウェディングフォトに臨んでいる。
ふたり以外の親族一同は結婚式会場にいて、すでに親族紹介を終えている。ふたりが戻ればすぐに結婚式、そして披露宴となる。
披露宴会場には急遽連絡を受けた新郎新婦の友人らが沖縄中から集まり、さながら巨大な同窓会か合コンの様相だった。
沖縄の披露宴では開会前から乾杯が始まるのが普通だが、この披露宴は彼らにとっても特別だった。特に麻理子の同級生や友人たちは、この知らせに驚き、そして喜んだ。
そんな中に、麻理子のチームメンバーは座っていた。
「ねぇ、もうみんなビールとか飲んでるけど、いいのかなぁ。ほら、あっちでも、こっちでも」
伊藤は辺りを見回しながら佐久間に話し掛けた。
「ん?うん、なんかね、沖縄ではそうなんだって。ほら、ギャルソンがビールを持って回ってるし、あ、こっちに来た」
伊藤たちのテーブルにギャルソンが近づいてくる。トレイには数本のビールが立っていた。
「お飲み物はいかがなさいますか?ビール以外でもお好みのものをどうぞ」
「えっと、じゃ、ビールを」
「あ、ワインってありますか?」
佐久間を制して新田が割り込んだ。
「えぇございます。ではまずビールを、ワインは少々お待ちくださいませ」
「あ、おつまみとかはないんですか?」
新田には遠慮という概念がない。
「はい、通常ですとお飲み物だけなんですが、チーズの盛り合わせくらいなら」
「あ、あと、今日の披露宴のお料理って、どんな」
新田の質問は続く。しかしこれは皆気になっていたところだった。
「えぇ、本日は急に入った披露宴なので、通常の披露宴メニューはございません。ですが本日、シェフ一同張り切っておりまして、厨房の食材全てを最良の料理法で最高の一皿に仕上げる、と申しておりました。ですから私も何が出るのか全く把握していないのです。とにかく、楽しみになさってください」
新田の口元が緩む。いや、全員の口元が緩んでいた。
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つづく
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