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第44話 鈴木という科学者

ボウの記者会見で発表された4日目への希望、それはクロスライトの法を信奉するPCLにも影響を与えるだろう。

来斗はすぐに世界に向けた番組を提案する。

そこでは、番組ゲストの科学者たちが激論を交わしていたが・・


 5月28日、午後6時半。


「来斗君!見たかい!?さっきのボウって連中の記者会見!!」


 黒主家のリビングに小鉢が駆け込んできた。


「はい、テレビもネットもあの会見を流してたし、今も内容を切り取った動画が拡散されてますからね」


 来斗は慌てた様子の小鉢を落ち着かせるように、微笑みながら応えた。


「どうなんだろうね、あの内容。ボウって科学者の・・集会?言ってること全く理解できなかったよ。今日の朝もクロスライトが世界に向けて話したばっかりなのに、4日目があるなんて本当なのかね。もし4日目があるなんてことになったら、クロスライトの法が真正面から否定されちまう」


 小鉢の言うとおりだった。来斗はこれまでずっと、3日間を幸せに生きることを説いてきた。4日目はない、諦めるのだと。

 しかし4日目があるとなれば、人はまた未来を夢見るだろう。他人よりも幸せな未来、自分だけは豊かな未来。


 貨幣は価値を取り戻し、人はまた金のために生きるようになる。世界のどこかで子供が泣こうと誰かが死のうと無関係。


 きっとそうなる。


「小鉢さん、今日これから放送、できますか?」

「お!やるか?もちろんオッケーだよ!!じゃ、ヤモリちゃんにも連絡するから、準備が出来たらすぐに出ようか!」


 小鉢は黒主家に待機しているスタッフに声を掛け、車を用意させながらスマホを耳に当てている。


-小鉢さんは森屋さんを呼んでいるんだな。


-母さんが慌てて準備してる。局に付いてくるつもりだな。


-父さんは、腕組みして何か考えているようだ。


-ADさんが走ってくる。もう車が用意できたのか。


-僕の周りの大人たちが僕を中心に動く、そんな光景が当たり前になってしまった。


-でも、これが大事なわけじゃない。


 テレビ局に着くまでの間、世界のPCLがどう動くのか、来斗はそればかりを考えていた。



 5月28日、午後7時59分。


 テレビニッポンのスタジオにはMCのヤモリの姿があった。一貫して来斗の番組のMCを担当するヤモリは今、世界で高い評価を得ている。


 番組開始まで1分を切るところで、スタジオに小鉢の声が響く。


「ヤモリちゃん!いつものように頼むよ!さくらちゃん、あと20秒、しほりちゃん翻訳いいね!科学者のみなさ~ん、カメラ見てくださいね~、じゃ!今日も行こうか!」


 小鉢のカウントダウン。

 5から後はディレクターが指を折る。3本、2本、1本。


「きんきゅーとくばんっ!!4日目は、あるのかぁー!!」


 この日の番組はいつもと違い、タレントの他に3名の科学者がコメンテーターとして呼ばれていた。ボウの会見で明かされた繰り返す3日間の原因、そして示された4日目への可能性を検証するためだ。しかしその顔ぶれはもちろん会見のメンバーではなく、ボウにも参加していなかった。いわゆるタレント科学者もいる。


 ヤモリのMCで、科学者たちの議論が白熱していた。


「え~っと鈴木教授、ではこの宇宙がワームホールに呑まれるなんてことは考えられない、と?」

「えぇえぇ、もちろんですよ!ワームホールが時間軸上の2点に繋がれば理論上タイムトラベルは可能です。しかしそれには莫大なエネルギーが必要なんですよ。宇宙全体をすりつぶしても足りないほどの、それが、宇宙全体がタイムトラベル?はっ!馬鹿げてる、不可能不可能!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る鈴木教授だが、それに御手洗教授が噛みついた。テレビの科学番組でお馴染みのタレント学者だ。


「では鈴木さんは、この現象がどのような理論で起こっているのか、どうお考えなんですか?」

「なに?君は失礼な男だな。人に聞く前に自分の考えはどうなんだ?」

「いや、私もあなたも、あのボウっていうコミュニティには参加はしていないじゃないですか。というか、私たちのレベルでは参加させてもらえないんですよ。あの人たちが、世界のあのレベルの人たちが言うことなら、私は正しいのではないかと思ってますよ?」

「な・・なにを言ってるんだ?では君は自分では何も考えずにあの連中の言うことを丸呑みするつもりか?科学者として恥を知りなさい!」

「いや私だって科学者の端くれです。あの会見の内容を聞いて納得できるところがあった、ということですよ。これまで私だっていろいろと考えました。しかし、お恥ずかしい話、仮説すら思いつかなかった。だから聞いてるんです。鈴木教授のお考えは、いかがですか?」

「君はとことん失礼な!あんな馬鹿げた理論、私は認めない!」


-ははぁ、こりゃ鈴木さんはだめだ、反対だけでな~んも出てこねぇ、こっから先は御手洗さんでいくか。それと・・


 ヤモリは声が大きいだけの鈴木に見切りを付けた。


「いやいやいや、これは白熱ですねぇ、では御手洗教授はやはり、この宇宙がその、ワームホールに呑まれる説に賛成!ってことですね?では下井教授はいかがです?」


 ヤモリはここまで黙って話を聞いているだけの下井に話を振った。今日集めた3名の中では最も優秀だと聞いている。


「えぇ、私は御手洗さんと同じ考えです。地球時間で約3日間、全宇宙でなにも起こらないという状況からのエネルギー飽和、なんてアイディアは全く考えつきませんでしたよ。ただ、超巨大エネルギー現象としてホワイトホールの発生はどうかな?と思っていましたから、なにも考えていなかったわけではないですけどね」


 下井は意味ありげに横の鈴木を見る。鈴木は唇を噛み締めて俯くだけだ。それに御手洗が続く。


「なぁるほど!それボウの理論にも応用できますね!ホワイトホールが出来ていればエネルギーがどこからかこの宇宙に流入する、そして飽和する!」

「ええ、そうかもしれません。でもエネルギー飽和っていうアイディア自体、僕にはなかったなぁ。それにボウの理論ではホワイトホールも発生していないのが前提ですからね」


 御手洗と下井の見解は一致していた。


-なるほど、こりゃ御手洗さんと下井さんだな。


 ヤモリの腹は決まった。


「ではでは!次に4日目への可能性はいかがですか?人類がなんらかのエネルギー現象をっていう話でしたが・・御手洗さん!」

「う~ん、これは難しいですね。人類が作れるエネルギー現象っていうと、高エネルギー粒子加速器を使ってなにかする、っていうことですか」

「なにを言ってるんだ、また馬鹿げた事を!陽子だの電子だのをぶつけるだけの装置で何ができる!4日目なんてないんだよ!!」


 いきなり割り込んだ鈴木教授を無視して、ヤモリが話を進める。


「ほう、高エネルギーなんとか?それは今日の会見では出ませんでしたねぇ、下井さんいかがですか?」


 下井は御手洗の発言に頷きながらヤモリに顔を向ける。


「うん、これも御手洗教授のおっしゃるとおりかもしれません。あの会見で東大の藤間教授が“太平洋にコップ1杯の真水”って例を挙げていましたね。全くそのとおりで、太平洋にコップ1杯の真水を入れて、太平洋全体をよくかき混ぜてコップ1杯の海水を汲むと、そのコップの中には先に入れた真水の分子が必ず入るんですよ、必ずです」


 さも当然の事と言いたげな下井に対して、ヤモリはよく分かっていない表情だ。


「真水の分子が?つまり?どういうことでしょ?」


 御手洗が話を繋いだ。


「つまり、人類が起こす極小のエネルギー現象も、一滴の水の波紋として全宇宙に広がる。それが3日間のループを抜ける決め手になるのか分かりませんが、その影響が皆無であるはずはない、ということです」


 下井が更に繋ぐ。


「そのとおりです。そもそも約3日間、全宇宙で巨大なエネルギー現象が起こらないこともゼロに限りなく近い確率です。そこにブレーン宇宙の衝突というのは更に低確率でしょう。どちらもトンネル効果なくしてあり得ない現象です。つまりそんな低確率の現象なら、ごくわずかな、それこそゼロに近いエネルギーの揺らぎでも、現象の発生を防げる可能性が出てきます。そしてその確率は、おそらく前のふたつが起こる確率よりはるかに高い」


-4日目に行く可能性は、高い?


「そ、その確率って、どのくらいなんでしょう?」


 ヤモリの声が思わず上ずる。その問いには御手洗が応えた。


「う~ん、ヤモリさん、下井教授がおっしゃってたのは、このループを起こした原因が、超が100個ぐらい付くほどの低確率の、しかも二つの現象によるものだとすれば、ということなんですよ。あくまで私のイメージですが、本当に超低確率の二つの現象が原因だとすると、それを阻害する要素がほんの僅かでも、ほんの少しでもあるのなら・・」

「あるのなら?」


 ヤモリは答えを急いた。


「この3日間のループを抜ける可能性は、ほとんど100%ではないかと」


 ババンッ!!


 “ループを抜ける可能性は100%”、御手洗がそう言った瞬間、テーブルを激しく叩く音が響いた。


 鈴木だった。


「ふんっ!なにが100%だ。馬鹿馬鹿しい!私は失礼するっ!!」


 鈴木は声を荒げて席を立とうとするが、ヤモリはそれを無視する。


「4日目への可能性は100パーセントッ!かもしれないっ!!ではここでテレビの前の皆様、配信でご覧の皆様!お待たせいたしました!クロスライトの登場です!!」


 すでに立ち上がっていた鈴木は、クロスライトと聞いて慌てた様子で椅子に戻った。スタジオの照明が落ち、登場した来斗をスポットライトが照らす。


 ゆっくりと席に着く来斗を、鈴木は目で追った。



つづく



お読みいただいて、ありがとうございます。

毎日1話の更新を予定しています。

よろしくお願いいたします。

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