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第4話 何も起きていない学校で

同級生たちにいじめ殺された黒主来斗。

またあの朝に戻ったことを悟った来斗は、あの4人がいる学校に向かう。

それは復讐ではなく・・


 僕はしばらく部屋で時間をつぶし、両親の寝室に向かった。


 二人とも休んでいるのだろう。物音ひとつしない。

 息子が殺された未来を経験してしまったのだから、精神的な疲労があってもおかしくはないな。


 僕は寝室のドアの前をそっと離れた。


 台所で探すと、すぐに数種類の包丁が見つかった。出刃包丁大小2本、柳葉の刺身包丁。


 母さんがしっかり料理をする人で助かったよ。でもこの後、僕はこの包丁で人を殺すんだ。ごめんね、母さん。


 包丁を肩掛けの学生カバンに入れ、制服に着替え、僕は普通に家を出た。


 街の様子は僕が死んだ日の朝と変わらないように見える。でもちょっと目をやると、そこかしこで人が集まって何やら話し込んでいる。どんな話なのか容易に想像が付くが、そんなこと今の僕には関係ない。まっすぐ学校へ行こう。


 学校は当然遅刻なんだけど、様子がずいぶん違っている。どうやら全校集会が開かれているようだ。誰に咎められることもなく、僕は学校に入り、教室に向かった。


 教室には誰も居なかった。


-やっぱり。


 僕は何事もなかったように自分の席に座り、皆の帰りを待った。10分もすると廊下がざわつき始め、全校集会が終わったことが分かった。そしてすぐ同級生たちが入ってきたが、入るなり数名の女子が悲鳴を上げて逃げ出していった。

 逃げなかった男子や女子は僕の顔を凝視して「来斗?そうか来斗、生きてるんだよな」と確認するように呟いた。


「何言ってんの?生きてるに決まってんじゃん。夢でも見たの?」

 僕はとぼけた表情を作って応えた。

「ところでさ、武藤とか、知らない?」

 僕の口から出た“武藤”という名前に、同級生はぎょっとした表情を見せたが、すぐ冷静を装うように「武藤?重田とかも?」と聞き返してきた。

「そうそう!岡島と上村もね!」

 僕も努めて落ち着いた表情で、あとふたりの名前を告げた。

「その4人なら生徒指導室だよ。多分この後、警察とか来ると思うんだけど、来斗、なんでか知ってる?」

「いや、知らない。あいつらにはお金貸してるからさ、そろそろ返してもらおうと思ってさ。そっか、生徒指導室か」


 おそらく学校中が僕の事件、僕が殺されたことを知ってるんだ。そして今日の朝、みんな何事も起こっていない状態で目覚めた。だから全校集会で確かに起こったはずの殺人事件について確認し、生徒たちを落ち着かせた。そして当事者の4人は生徒指導室で事情聴取。警察だって、今はまだ何も起こっていない“この事件”を知っているはずだ。だから学校には来るだろう。


-まずいな。


 僕は心の中で呟くと「じゃ、ちょっと会ってくるわ」と、いかにも連中と親し気な口調で告げ、教室を出た。もちろん学生カバンを肩に下げて、だ。


-急がなきゃ、警察が来ればやっかいだ。その前にやらなきゃ。


 僕は生徒指導室の前に立った。

 ドアに耳を近づけ中の様子を窺うと、4人の話し声がする。


「・・・よね、死んだはず・・・」

 小さい声だ。上村か?

「あぁ、確かに死んだよ。あれだけ殴ったんだ。最後は埋めたじゃないか」

 少しはっきりした声、岡島だ。

「ちょっと!声が大きい!!先生が来たらどうするの!」

 ふん、重田だな。

「お前らさ、何言ってんの?俺ら、来斗なんて殺してなんかないじゃん。何心配してんだよ」

 これは武藤だ。

「確かに俺らはあいつを殴った、埋めた、みたいな夢でも見たんじゃないか?だって、今いつだよ、あの日の朝じゃないか!」

「だってさ、来斗のやつ、学校に来てないんだよ?」

 重田が応える。

「来斗だって、あの夢を思い出してビビってんだよ!学校に来れるわけないだろ?それにさ、警察が来たって何て言えばいいんだ?僕たちはこれから来斗を殺します、ってか?そんな馬鹿げたこと、警察もどうにもできない。いくらあのことを覚えていたとしてもだ。先生だってそうだったじゃないか」


 武藤は僕を殺してからの時間を“夢”にしたいらしい。それも、関係者全員が見た壮大で馬鹿げた妄想だと。

 僕は僕が死んでから、どれくらいの時間が過ぎて元の時間に戻ったのか知らない。まぁ確かに、こんな馬鹿げた現象をすぐに飲み込めと言われても、普通は無理だろう。


 だけど、実際に殺された僕の感覚は違う。


 あの殴られている間の衝撃、喉に詰まる土、泥、小石、はっきりとした死の感触、目覚めてからの両親の様子、泣きながら話す内容。そしてこの学校の様子、なによりお前らのその会話が、この馬鹿げた現象を裏付けている。


 それに、僕がビビってるってか?ビビるわけないだろ。


 お前らに対する心は、あの時すでに決まってるんだ。殴るだけで納めればよかったのに、やりすぎたんだよ。


 お前らにも、知ってもらう。


 僕は生徒指導室のドアを開け、静かに入り、静かに閉めた。



 つづく


お読みいただいて、ありがとうございます。

毎日1話の更新を予定しています。

よろしくお願いいたします。


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