第31話 中竹真也が守るもの
永遠に繰り返すと思われた全面核戦争。
だがそれを、たったひとりの少年が止めようとしている。
その少年の言葉は、ひろみと真也の心に深く刻まれた。
そして5回目の5月28日、また核戦争の時間が訪れるが・・
5回目の5月28日。
真也とひろみは目覚めた。またあの部屋で。
抱き合いながらお互いの目を見つめる。
「一瞬だったね。あのあと、外に出て光を浴びて、ほんの一瞬」
「うん、一瞬だった。それにね、怖くなかった。ひろみとふたりだったから?」
「ふふ、だって、すぐに目覚めるって分かってたでしょ?また裸で・・」
ひろみが言うと、真也は顔を真っ赤にして俯いてしまう。そんな真也のことが、ひろみは好きだった。
「さ、真也!アパートに帰ろ?で、なにか食べようよ!玉子サンドでいい?」
裸の二人は立ち上がって、そしてキスをした。
・
・
アパートに戻ったふたりは、ふたりで朝食を作った。
ローサンの玉子サンドではない、自分たちで作った玉子サンド。
固めに茹でたポーチドエッグを潰したフィリングは柔らかく、帰りに買ってきた焼きたての食パンによく馴染む。
たっぷり塗ったマーガリンがフィリングの熱で溶け、食パンに染み込んで、柔らかな食パンを更に柔らかくしている。
「ね、これ、切るの難しい。柔らかいから崩れそう」
「どれ?えっとね、このレシピに切り方書いてあるよ?パンの角に包丁を斜めに当てて、軽く切れ目を入れて、スッスッと・・・」
「わぁ!ホントだぁ、切れたね!」
ひろみが目を輝かせる。
「さ、食べよ?コーヒーも入ってるよ?」
「うん」
・
・
朝6時過ぎ。
テーブルで玉子サンドを食べながら、ふたりはスタンドに立てたスマホに見入っている。
スマホに映るのは、クロスライトだ。
「クロスライト、先ほど発信された動画では誰かにメッセージを送ってましたね。いったい誰に送っていたのですか?」
「僕が先ほどお願いした人たちですか。それは、独裁国家の人たちです・・」
3時40分にクロスライトはメッセージを配信していた。わずか数十秒の動画。そして今は6時30分、ライブ配信だった。
クロスライトはレンズの向こうにいる誰かを見つめている。
「僕は先ほど、あなたの力でこのループは止まる、と言いました。もし、もしもあの言葉があなたに届いていたとしたら、もしかして・・・」
クロスライトがそこまで話した時、ふたりのスマホにJアラートの警報が響く。
スマホの中のクロスライトは一瞬天を見上げ、ふぅ、と息を吐いた。
「またミサイルが来ました。でも僕は、僕の言葉があなたたちに届いていると信じています・・・僕の名前は、クロスライト。あなたも僕と共に!」
ライブ配信は終った。真也とひろみは手を取り合って、玄関に向かう。
「怖くない、怖くないよ。真也とふたりだもん」
「うん、大丈夫、また目覚めよう。クロスライトの言うとおりに」
真也はそう言って、スマホのJアラートに目をやった。
「あれ?」
「・・?真也?どうしたの?」
「うん、今回撃ったのって、K共和国じゃないよ?」
その日、東京に核ミサイルは飛来しなかった。K共和国とC人民国はR帝国に核ミサイルを撃ち込んたのだ。
核戦争は起きたが、今回はR帝国と全世界の戦争になった。日本に飛来したR帝国の核ミサイルは迎撃に成功し、一部の通常兵器による被害に止まった。
その後の報道では、R帝国は消滅し、これから繰り返す3日間で、世界の独裁者は必ず拘束される、と発表された。
ひときわ注目されたのは、K共和国外相の発言だった。
「残酷な死のループは断たれたのです。そう、クロスライトの言葉によって」
・
・
・
5回目の3日間の全てを、ひろみと真也は過ごした。片時も離れずに。たったの3日間だが、それは人生に値するほど幸せな時間になった。
そして5月30日、23時59分。
ふたりはひろみのアパートで、裸で抱き合っている。
「ね、真也。またすぐに時間が戻るから、そしたらまた、あの部屋だよ?」
「そうだね・・ね、ひろみ、僕、ちょっとは上手になった?」
「うん、とっても・・だって、ね?」
「うん、うん、うれしい。僕はひろみとずっとこうして・・」
その瞬間、時間は戻る。抱き合うふたりにとって、それは連続した時間に思えた。
「あっ!ひろみっ!!」
「っ・・・」
真也の胸に、ひろみが顔をうずめている。
真也の胸に、これ以上ないほどの幸福感が満ちる。
「はぁ、はぁ・・僕は・・決めた」
真也の声に、ひろみが顔を上げた。真也はひろみの目を見つめる。
「決めたよ。僕は守る。ひろみと、この時間を必ず守る」
見る見るうちに、ひろみの目が潤む。
「そのために僕は・・クロスライトを守る」
ひろみは真也を抱き締めた。
・
・
・
つづく
お読みいただいて、ありがとうございます。
毎日1話の更新を予定しています。
よろしくお願いいたします。




