第30話 ひろみと真也と、クロスライト
3回目の5月29日、最初の核攻撃でひろみと真也は燃え尽きた。
そして4回目の5月28日、ふたりはまた、あの部屋で目覚める。
再び迫る核戦争を前に、ふたりはある動画を見た。
それは、核戦争を終らせるために声を上げる、少年の姿だった。
5月28日、午前3時19分。
男が私の上で呻いている。
下手だなぁ。やっぱりこの子、初めてなんだ。
女の子と話したことも、あんまりなさそうだったもんなぁ。
おっ!いいぞ、うんうん、青年、もっとがんばりたまえ。お姉さんは君みたいな童貞くん、キライじゃないぞ?
20歳くらいかなぁ、大学生?どちらにしても私より絶対若いわ。私も、もう26歳だもんな~、アラサーとか言われちゃう歳なんだもんな~
お?よしよし、一生懸命動いてくれてるんだから、お姉さんもちょっとサービスして、声も上げちゃう!
あ、動きが変わったみたい。サービスが効いたかしら?
その瞬間だった。
狩野ひろみの脳内で、繰り返す3日間の記憶が爆発した。
名前も知らない可愛い男の子、凶暴な客の顔、その男に襲われて、可愛い男の子が闘ってくれた。私のために・・
そしてふたりは体を合わせた。ただの男と、女として。
最後の記憶、それは頭上の閃光。男の子の顔、そしてキス・・・暗黒。
この5月28日・・4回目だ。
「真也っ!!」
叫ぶひろみと同時に、真也はひろみを強く抱き締めた。
「あっ!!ひろみ、ひろみっ!!」
そのとき真也は、ひろみの中で果てた。
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午前4時。ひろみと真也はまだ抱き合っている。
時間が戻った瞬間から、ひろみは泣いていた。真也はひろみを抱き締めたまま、優しくその髪を撫でる。
ひろみのショートヘアが揺れて、真也の顔を見上げた。
「ね、これって夢じゃないよね。時間が戻る夢をふたりで見てるとか。違うよね」
真也は黙って頷く。
「じゃ、あれは何だったの?あの光。私たちってあの時・・死んだの?」
「そうだね・・あの光を見る前に、雲が湧き上がったろ?あれ、キノコ雲だよ」
「キノコ雲?」
「そう、キノコ雲。核爆発の雲だ。あのとき、核戦争が起こったんだよ」
まだ状況が理解できないひろみに、真也が促す。
「さ、ひろみ、アパートに帰ろ?そこでちゃんと説明するから」
ひろみは黙って頷いた。
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アパートに着くまで、真也はネットであの時何があったのかを調べていた。榊マネージャーもあの閃光で死んでしまったらしいと言っていたし、核戦争が起きたのは間違いない。それに、ミサイルを撃ったのがK共和国だというのはJアラートではっきりしている。
「ひろみ、これ見て、このネットの記事」
真也の肩にもたれたひろみの目に、衝撃的な文字が飛び込む。
”世界の終わり!最終戦争勃発!!生き残ったAさんが語る、地獄の3日間”
”K共和国が世界を終らせた!総書記の暴走!!”
”C人民国の非道、自国民にミサイル!”
”R帝国の残虐!世界最大の核爆弾、ワシントンで炸裂!北米壊滅!!”
ひときわ大きな文字に、ふたりの目が行く。
”地獄は繰り返す!殺られる前に、殺れ!”
「真也、地獄は繰り返すって、また核戦争が起きるって事?」
「うん、前の核戦争はKUN共和国が引き金だから、今回は西側が先制攻撃するだろう、ってこと。次も、その次も。だとすると・・核戦争は終らないのかも」
「・・ずっと?」
もうふたりは言葉を発することができない。ひろみは壁掛け時計に目をやった。7時を少し過ぎている。
「ね、もしまたミサイルが飛んでくるとしたら、私たち何が出来るのかな?」
「うん・・・出来ることは何もないかもしれない。何発も何発も飛んでくるから、どこに逃げても助からない。いや、地下街とかなら助かるかも知れないけど、きっと地獄だよ?たった3日間だけど、地獄のようになる」
「じゃあ、わざと死んだ方がいいのかな・・すぐに目覚めるから。またふたりで」
ひろみの問いに、真也は答えを持たなかった。ただスマホに映る情報を見つめることしか出来ない。いつJアラートが鳴るか分からないから。
そんな真也の目が、ひとつの記事の不思議なタイトルに止まった。
「ん?なんだこれ・・クロスライトが降臨した、みんな見ろ、この動画を、拡散しろ?・・クロスライト?」
クロスライトの降臨、それは黒主来斗のライブ配信を意味していた。真也はその記事のリンクから動画に飛ぶ。
スマホに、来斗の姿が映った。
「・・・そう、何もありません。暗黒、そして覚醒、それだけです。皆がイメージしていた死後の世界は無かった。世界の人々がそれを知ってしまいました。でも、僕たちは生きていた記憶を持って覚醒しています。すると、自分を殺した相手や虐げた相手をよく覚えているはず。そして、その相手は恐れるはずです・・・」
クロスライトは、繰り返す3日間の中で、必ず個人的な殺し合いが起こる。そしてそれは、国と国の殺し合いになると語る。
核戦争のことだ。
「裁きと・・・許し」
真也はクロスライトの言葉を口に出してみた。殺し合い、死のループを繋ぐ者に裁きを、そして次の3日間で許しを。
「ふぅ~っ」
その言葉を頭の中で反芻し、真也は大きく息を吐いた。
スマホの中で、クロスライトは訴える。
「与えましょう!裁きを!!」
「この死のループの根源たる者たちに!」
「この惨状を招いた、独裁者たちに!!」
「さぁ、もうすぐまた、核ミサイルが飛んできます」
「僕の言葉を聞いた人たち、あえて核の炎をその身に受けましょう。あえてその衝撃に身を晒しましょう」
「そしてすぐに!目を覚ますんです!」
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真也はひろみの目を見つめた。
「ひろみ、さっきひろみが言ったことと、同じ事をこの子が言ってる」
「そうだね、すぐに目を覚ませ・・って」
「じゃ、そうしようか」
「うん・・・また目覚めよ?あの部屋で、ふたりきりで・・」
ふたりはどちらからともなく抱き合った。
真也はひろみを、ひろみは真也を抱き締める。
ふたりのスマホが鳴り出した。
Jアラートだった。
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つづく
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