第3話 僕はこうして殺された
同級生たちにいじめ殺された黒主来斗は、またベッドで目覚めた。
そして来斗は、ある決断をする。
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たくさんの夢を見ていた。
でも今、僕は目を覚ましたようだ。
最後の夢は最悪、あいつらに殴られ、蹴られ、埋められる夢だ。あれが“死ぬ瞬間”なんだと確信できるような最悪の夢。ドサドサと体に被る、その重みまで覚えている。
口に入る土や泥、小石。吐き出そうとしても吐き出せない。喉に入ってくる土の感触、朦朧とした意識が一気に覚醒し、逃れようともがいても逃れられない。
そしてもう一度、意識が遠くなる。
脳の奥が痺れる。
暗黒。
最悪だ。
そのとき、部屋の外で足音が聞こえた。二人分の足音がバタバタと騒がしく僕の部屋の前に来ると、何の前置きもなくドアが開いた。蹴破る勢いだ。
父と母だった。
「らいとっ!」
「らいとくんっ!!」
両親は僕の名前を叫ぶと、ベッドの上で呆けている僕を抱きしめた。
父さんも母さんも泣きながら何か言っているが、ふたり同時で意味が分からない。
「ふたり一緒に喋ると聞き取れない!なんて言ってるの?」
「来斗っ!生きてるのか?おまえ、本当に生きてる?」
「来斗くん!!夢なの?これは夢なの?死んだんじゃないの?生きてるの!?」
あれは夢じゃなかったのか?やっぱり僕は死んだ?
時計を見ると、今は僕が死んだという日の朝だ。
-そうか、そういうことか。
なぜか僕は、自分の身に起こったことを瞬間的に理解した。
3人でリビングに行くと、コンロの上のフライパンから煙が上がっている。母さんは慌ててコンロの火を消した。父さんの朝食だろう、ベーコンエッグは真っ黒に焦げていた。
出勤の恰好の父さんは、今日は仕事を休むと言う。
そして僕は、ふたりの話を聞いた。
父さんと母さんは、出勤の準備をしながら、朝食の準備をしながら、今朝見た恐ろしい夢の話をしたそうだ。
ふたりともそれを、それぞれが見た悪夢だと思っていたけれど、その夢の内容はあまりに細かい点まで一致してしまった。
それでふたりは確信したそうだ。まだ来ていない今日、僕が死んだのだと。あまりに荒唐無稽だが、そう考えるしかなかったのだと。
ふたりは少し落ち着いて、僕が死んだ後の話をしてくれた。僕が知らない、未来の話だ。
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夜になっても学校から帰らない僕を心配して、両親は警察に捜索願を出したそうだ。そして、僕が少なくない金額をどこかに持ち出していること、おそらくいじめを受けているのではないか、ということも警察に伝えた。
そこで警察は、すぐに学校とその周辺の監視カメラを確認したそうだ。そこには、校内で体育館に向かう僕と上村の姿が記録されていた。だが、学校周辺の監視カメラでは、僕が学校を出た形跡がないことも確認されたらしい。ただずいぶんと遅い時間に、学校から出てくる4人の生徒が映っていた。
そして警察は直ちに校内を捜索し、埋められた僕を見つけた。
翌日、警察は監視カメラに映っていた4人、武藤、重田、岡島、上村を聴取した。
こんなとき、警察は4人をひとりひとり聴取するらしい。4人は口裏を合わせていたらしく、都合のいい言い訳をして無関係を装ったようだが、警察官の取り調べに中学生が耐えられるわけもなく、4人の話はすぐに矛盾をきたし、そこを突かれてあっけなく自供したそうだ。
特に、体育館裏に飛び散った血痕。5人分の足跡、近くのごみ箱から出てきたビニール袋。
土面に散った血痕は見えにくい。4人ともここで何かあったと疑われることすら考えていなかったようだ。だから「君たちの靴のメーカーって、○○?」とか「ゴミ箱からビニール袋が出てきてねぇ」といった話にことごとく顔色を変えたらしい。
-あたまの悪いあいつららしいや。
僕はそう思いながら、父さんに聞いてみた。
「それで、僕はどこで見つかったの?」
「ああ、体育館裏の先に、花壇や菜園に使う盛り土があるだろ?あそこに埋められていたんだ。あんなところ、すぐに掘られて発覚するのに」
父さんは苦々しい表情で言った。
-ほら、やっぱりあいつらはバカだ。
父さんは続けた。
「それでな、彼らは翌日、今日からすれば明後日だな、逮捕されたんだが・・」
そうか、よく分かった。あいつら僕をさんざんいたぶって、まだ息のある僕を埋めたんだ。バカな連中だ。でも、あんな連中がこの世にいるのって、許されるんだろうか?いや、許されるはずはない。じゃ、僕がやろう。そのために生き返ったんだろ?
あいつらはまだ、僕を殺していない。そうだ、僕から行ってやらなくっちゃ。
僕はもう、父さんの話を聞いていなかった。
「父さん、僕、ちょっと疲れたし、休んでもいいかな?」
僕はさりげなく父さんの話を遮った。母さんも話したそうだったが、死んだと思った息子が生き返っているんだから、混乱のあまり訳の分からないことを言い出しそうだ。
父さんもそう思ったのか「そうだな、今日はゆっくり休みなさい。話の続きは起きてからだ」と言ってくれた。
僕が死んだ未来を過ごした両親も疲弊している。これから、きっと二人とも安心して休むだろう。
でも僕に休む気なんかない。父さんと母さんが眠ったら、ありったけの刃物を持って出掛けよう。
あいつらのところへ。
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つづく
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