第29話 独裁者たち
5回目の5月28日。
いつものように目覚めた独裁者は、いつものように核攻撃を命令する。
はずだった。
独裁者はどのように裁かれるのか、そしてそれは、誰の手によって・・
5回目の5月28日、K共和国、午前3時20分過ぎ。
総書記はいつものようにベッドの中で目覚めた。
-どうせすぐにベッド脇の電話が鳴り、無能どもが今回の指示を請うてくる。最初の核攻撃の口火を切ったのは私、世界で最も早く決断したのが私なのだ。2度目は遅れをとったが、それでも我が国はもう、れっきとした世界の核保有国だ。
-それに世界を巻き込んだ最終戦争でも、私はずっと死んでいない。たった数日間、家族とシェルターに籠もればいいだけの話だ。つまりこの3日間が続く限り、私は世界の指導者であり続けるのだ。
総書記はそう考えていた。
-それにしても今回のミサイルは先陣を切りたいが、お伺いの電話はどうした?私の命令なしに動いているのか?あの無能どもが?
午前4時を回った頃、しびれを切らした総書記がベッドから身を起こしたとき、いきなりドアが開いた。
「何事だ!シン警衛担当、人民の蜂起か?!」
「いえ、そうではありません。将軍、あなたはこれから、拘束されます」
総書記は耳を疑った。
「な、なに?お前が私を拘束?そんなことができるものか!親衛隊、親衛隊は!!」
総書記は傍らの電話を掴んだ。
「無駄です。将軍、親衛隊は自身の手で国民を虐殺したことを悔いているのです。もうあなたの親衛隊ではありません」
「ぐ、軍はどうしたのだ!私の人民軍は、パク軍事担当は!」
「将軍、軍の忠誠はとうの昔に無くなっております。あなたの支離滅裂な方針に従っていたのは、ひとえに密告され、処罰されたくないから。それに愚かな核戦争の口火を切って、自分たちを地獄の業火に突き落としたあなたのことなど、誰が・・いつクーデターが起こってもおかしくなかったのですよ」
総書記は言葉を失った。
開け放たれたドアの向こうから、チョ外務担当が入ってきた。
「おぉ、チョ外務担当!こいつをどうにかしろ!こんなことC人民国が、主席が黙っていないぞ!」
チョ外務担当は、無表情に告げた。
「C人民国はもう終わりです。ご存じでしょう?C人民国は自国民に向けてミサイルを放ったのです。外国勢力ではなく自国民に、です。先ほどC人民国外務省筋と連絡が取れました。C人民国では時間が戻った瞬間に発生した民衆の大規模蜂起と閣内の謀反、自国民を虐殺した罪に耐えかねた軍の一部がクーデターを決行、命令系統は寸断され機能を喪失、政権は倒れました」
「な、なんだと・・ではR帝国、R帝国の大統領はどうなのだ!!」
「我が国とC人民国の情報はすでに西側に渡っています。おそらく今回は、全世界とR帝国の核戦争になるでしょう。今回は我々もR帝国に撃ちます。世界はもう一度終わりますが、次に時間が戻っても、核戦争は二度と起こりません。世界の滅亡は3回で終わりです」
「なぜだ!なぜそんなことが言える!!」
「それは・・裁きを与えるからですよ。あなたが裁きを受けるのです。あなたも一度、核の炎にその身を晒すと良いでしょう。そして許されるのです。次の3日間で。良かったですねぇ」
「なにを言う、それではまるで・・」
「えぇそうです、クロスライトの、予言どおりに」
「お前たちみんな、そうなのか」
総書記の側近たち、いや、元側近たちは、その問いに応えなかった。
チョ外務担当は小脇にタブレットを抱えている。そこには、黒主来斗の姿が映し出されている。
その動画は英語にも翻訳されていない。
チョ外務担当は、日本語が堪能だった。
「では将軍様、屋敷の外に参りましょうか。皆さん、お願いします」
総書記はその両腕を親衛隊に抱えられ、部屋から連れ出された。
「やめろっ!お前たち、やめてくれ!・・そうだ!今助けてくれれば、お前たちを党幹部に取り立ててやるぞ!どうだ!!」
「あぁああ、妻と娘たちは、家族だけは、どうかぁぁぁ・・・」
総書記の声は次第に小さくなり、そして消えた。
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3度目の核戦争後、R帝国は消滅し、世界も甚大な被害を受けたが、今回は生き残った国も多かった。そしてそれらの国々のネットには、来斗の声がこだましていた。
「・・あなたが動けば、このループは止まる!さぁ、時間が戻った今!あなたの力で、独裁者に裁きを、そして許そう。次の3日間で!」
5回目の5月28日、朝3時40分に配信された数十秒間の動画、それは黒主家のリビングで、黒主聡子が撮った動画だった。
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6回目の5月28日が始まるとすぐ、C人民国、K共和国の独裁者は拘束され、R帝国の独裁者は国軍と民間軍事会社のクーデターで殺害された。
4度目の核戦争は起こらなかった。もう核の炎で世界が焼き尽くされることはないのだ。
世界は喜びに震えた。
そして世界が次に求めたのは、世界最終戦争という死のループを断ち切った、クロスライトの言葉だった。ネットはクロスライトの登場を今か今かと待つユーザーで埋め尽くされている。
それぞれがそれぞれのSNSで、これから来斗が語るだろう予言を予想して、白熱の議論を展開していた。
「クロスライト、次はどうする?宣戦布告の王は、世界の支配者になるのか?」
「支配者になどなるはずがない、独裁者を裁いたではないか、それは矛盾している」
「私がクロスライトなら、この3日間のループを終わらせてやる」
「神の力か?そんなことできるわけがない。クロスライトはただの子供だ」
「そもそも、あれは何者なんだ?日本人の子供ってだけで何も分からない」
「何者だ?誰なんだ?・・・クロスライト」
世界はクロスライトという名前を持つ、日本人の登場を待ち焦がれていた。
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つづく
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