第25話 救世主の誕生
世界の終わりを見た小鉢らは黒主家に向かう。
それは単なる取材ではない。
来斗はマスコミの力を得て、世界に向けて発信する。
その言葉は力を持ち・・
4回目の5月28日、朝5時半。
小鉢は黒主家のチャイムを鳴らした。小鉢の後ろには番組スタッフが総出で待機しているが、まだカメラは回していない。リポーターの神木さくら、ADの板野しほりも、もちろん一緒だった。
「黒主さん、テレビニッポンの小鉢と申します。最初の、あの学校の事件から取材させていただいている者です。あのときは本当に失礼な取材態度で、お詫びのしようもございません」
小鉢は真に謝罪の意を込めてインターホンに語りかけた。黒主家のリビングでは、正平と来斗がインターホンから流れる小鉢の声に耳を傾けていた。
前回の5月28日、聡子は2度目の死を経験した。しかしそれは来斗を守るためのもので、後悔はしていなかった。
今日の朝、いつものように3時20分過ぎに目覚め、正平から自分が死んだ後のことを聞いた。
来斗が自分を殺した3人に重傷を負わせ、正平が3人を助けたこと。来斗がマスコミを利用して世界に向けたメッセージを発信し、それが世界に大きな影響を与えたこと。その中で来斗はまた、自分の心臓を一突きして息絶えたこと。それらがすべて、来斗の考えであったこと。そして正平自身も、翌日の核ミサイルで命を落としたこと。
来斗も、自分が予言したとおりのことが起こったのだと正平に聞かされた。
来斗は満足げに微笑んでいる。
-来斗くん、笑ってるわ。また家族全員が死んだのに。
我が子はどうかしてしまった、と聡子は思った。同時に、我が子にはもっと先の、未来が見えているようにも思えた。
-私も、もっと先のことが知りたい。そのためには・・
聡子は正平も知らない時間の事を知りたかった。そしてそれを知るには、このマスコミに聞くのが一番だと思えた。
聡子は正平と来斗に黙って玄関に向かい、そしてドアの鍵を開けた。
「かあさん、あれ?かあさんは?」
玄関が開いたことに気付いた正平と来斗も、急いで玄関に向かった。
「来斗の母の、聡子です」
「あぁ!来斗君のお母様!!」
小鉢は膝に鼻がつくほど頭を下げた。
「あの最初のとき、本当に申し訳ありませんでした!!謝罪いたします!」
聡子に続いて、正平、来斗と玄関に出た。誠心誠意を絵に描いたような小鉢の謝罪に、二人は顔を見合わせ、そして決めた。
「小鉢さん、そして皆さん、中へどうぞ、リビングで話しましょう」
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リビングのテーブルを挟んで黒主家の三人と小鉢、中丸が座った。その後ろにカメラとマイクがセットされ、神木さくらと板野しほりはその横に立っていた。そしてその後ろでは、技術系スタッフが入念にネット配信の準備をしている。
その様子を見ながら、正平は自分が核ミサイルで命を落としたときのことを思い出していた。
鳴り響くJアラート、正平は前日からリビングに安置していた聡子と来斗の亡骸を見つめていたが、いつまでも鳴りやまないJアラートにようやく気付き、リビングの窓際でカーテンを開けた。その瞬間、正平の意識は途絶え、今日の朝になっていた。
そこから先の出来事を、目の前の小鉢が語っている。小鉢自身も外に出ていたため、第一波のミサイル攻撃で死んだようだということ。その後のことは、あの日辛うじて生き残った全国のローカル局ネットワークを通じて集めた情報だという。
東京のテレビニッポンビルは第二波のミサイルで破壊された。第一波はJアラートのとおりK共和国からの攻撃。これは半分ほど撃墜できたそうだが、第二波はほとんどすべてが着弾した。そして第一波、二波を生き残ったわずかなローカル局は第三波を経験している。
それは第一波、第二波を大きく上回る規模で、威力も桁違いだったようだ。例えるなら、長野に落ちた一発が本州全域を壊滅させるような威力。どこに落ちたか分からないのに、突然音もなく空が裂け、それから恐ろしい威力の衝撃波に襲われ、そして28日に戻った、というローカル局員が多数いたらしい。
それらの話を総合すると、第二波はC人民国、第三波はR帝国の核攻撃ではないか、という結論だった。
「自衛隊は、米軍はどうしたんでしょう?」
正平の発した素朴な質問は愚問だった。もちろんどちらも壊滅した。それは明らかだ。ここまでの大規模核攻撃は、アメリカも想定していなかったのだろう。
「そりゃ壊滅でしょう、でなきゃ」
小鉢は言いかけてやめた。
”でなきゃ、全滅なんてしてないでしょ?”
これも愚問だからだ。
「それよりも、おそらくアメリカの太平洋艦隊やEUなんかが報復してると思いますよ?それこそ三国とも日本と同じ状況じゃないでしょうかね。あ、K共和国はともかく、R帝国もC人民国も広いから生き残った人がたくさんいて、逆に地獄をみたんじゃないでしょうかね、最後の一日の、そのまた最後まで」
正平はだまってうなずいた。
「それでです、もう時間がありません。もう次の瞬間にも各国が先制攻撃をするんじゃないかと思うんですよ!どうです?来斗君!」
「そのとおりです小鉢さん、もう時間がない。すぐに配信を始めましょう」
「よし、来斗君の言質を得た!ネットいいか?照明、来斗君照らせ!マイク、カメラ向けろ!始めるぞ、さくらちゃん、しほりちゃん、頼んだ!各サイトに同時ライブ配信を開始するっ!!」
部下への指示を終えると、小鉢は来斗に向き直って言った。
「来斗君、これから君は、ネットの世界に降臨する救世主だ。それは日本と言うより、世界に向けてそう演出する。くだらない演出だと思ってくれていいが、世界に訴えるにはハッタリも必要だ。いいかな?それで」
小鉢の提案に、来斗も頷いた。
世界のネットワークサーバーに、救世主クロスライトが降臨した。
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つづく
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