第21話 8700万回の動画
クロスライトが世界に向けた予言は、TV局プロデューサーに潰された。
だがその動画は、なぜかネット上に流出する。
怒り狂うプロデューサーは・・
3回目の5月28日。
この日、来斗のメッセージが世界に配信されることはなかった。
取材班の番組プロデューサーが配信を止めたのだ。
ニュース番組とは名ばかり、情報バラエティーのプロデューサーにとって、来斗のメッセージはこれ以上ないほどのスクープ映像だった。これを小出しにすれば、どの番組でも高視聴率を取れる。それは間違いない。たった3日間でも、局のエースプロデューサーになれる。なにしろライバルプロデューサーみんながあの映像を切れ端でも欲しがるのだから。
それに、次の3日間もあそこに行って、黒主来斗を独占的に取材すれば、もっと、もっと。
そんなちっぽけな野心だった。
小鉢拓実、そのプロデューサーの名前だ。
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3回目の5月29日、朝9時。テレビニッポン第3スタジオ。
「小鉢さん、この映像、すごいですよ」
来斗のメッセージは、確かに恐ろしい求心力を持っていた。
「昨日の午前中から少しずつ出してるんですけど、視聴者の反応がものすごくて、今放送中のリアルタイムも動画配信もダントツトップですよ。局のサイトには“早く全部見せろ”って、番組のSNSにはDMもすごくて」
「そうだろぉ?世間の皆様はなぁ、この3日間がいつまで繰り返すのかぁ~とかさ、科学者が訳のわかんない理屈をこねるのを必死んなって見てぇ、分かったふりするしかなかったんだけどさぁ、そんなん分かるわけないだろぉ?ホントはさぁ~、視聴者様はこんな映像に飢えてたわけよぉ」
小鉢は得意満面でディレクターの肩を叩いた。
-しかしすげぇネタを掴んだもんだ。あの中学生いじめ殺人事件!あれに食い付いてホント良かったぜ。俺はこれでエースプロデューサー!局での立場も安泰安泰っと!!
自然と口元が緩むのを止められなかった。それこそ涎を垂らす勢いだ。
しかし、小鉢のそんな殿様気分も長続きはしなかった。
”ドンッ、ドンドンドンッ!!”
ドアが激しくノックされ、小鉢の応えを待たずに開け放たれた。
「小鉢さん!大変たいへんっ!!」
「まるちゃん、どしたのそんな慌ててさ」
飛び込んできたのはアシスタントプロデューサーの中丸だった。小脇にタブレットを抱えている。
「いいから小鉢さんっ、とにかーく!これ見てくださいっ、これこれ!!」
中丸は抱えていたタブレットを小鉢の目の前に差し出した。そこに映っていたのは、黒主来斗だ。
「なぁあああー!なにこれっ!!だれ?これ流したの、だれっ!?」
黒主来斗の命を賭したメッセージ。それが最初から最後まで、カッターナイフを自らの胸に突き刺し、クロスライトと叫んで崩れ落ちるまで、全てが公開されていた。
「これきっとスマホのヤツですよ。あいつあいつ!取材んときスマホで動画撮った、ADのしほりちゃん!板野しほり!!」
「はぁ?板野?だってあいつのスマホ、押さえたはずじゃん?」
「いや小鉢さん、そんなん隙をみてSNSに上げちゃうとか、まんまクラウドに上がるようになってたらアウトでしょ!?」
「あそっか!で?板野は?すぐ連れてきて!!こりゃ訴訟もんだよ?」
-やばいやばい・・やばぁい!板野しほり!あぁのぉヤぁロぉー、俺の安泰がぁ、俺のエースPがぁ!!
「いや、それが実は、板野は昨日の昼から行方不明っていうか、こんなご時世なんで、会社もぜんぜん把握してなくって」
「なんだよぉ~、そんじゃぁ俺ら、なぁ~んもできないってことかぁ?」
「そうなんですよねぇ、それとこの動画、アップが今日の朝5時なんすよ、今9時でしょ?」
「で?」
「で?って、再生回数やばくないですか?」
中丸はそう言うと、動画を一時停止した。
「は?はち、86933回?」
「どこ見てるんすか、8693.3ですよ。8693.3万回!!」
「はっせん、まんかい」
「そうですよ、約8700万回!!たったの4時間で!それにここだけじゃなくって、世界中あっちこっちのSNSで拡散されてますよ。こりゃもう止めるとか止めないとかっていう話じゃないっす」
小鉢は天を仰いだ。
-くっそ~このままじゃ済まさん!い~たぁ~のぉ~、ぶち殺してやる!!
「まるちゃん!ちょっと総務に掛け合って、板野の住所、聞いてきて!!」
「は?それパワハラですよ?なにするつもりですか?」
「パワハラだぁ?そんなんどうでもいい!!板野の自宅に乗り込んでぶちのめしてやる!!いなきゃいないで、部屋ぐちゃぐちゃにしてやる!!どうせ明日が過ぎりゃ元どおり!!」
小鉢は目を血走らせて叫んだ。
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つづく
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