第20話 クロスライトの予言
来斗は3人の父親を殺さなかった。それどころか、自らの父、正平にその救命を託す。
来斗の母、自分の妻を殺した3人を正平は救う。
そして、血みどろの来斗は世界に向けて予言する。
テレビカメラは僕を捉えている。その横でリポーターの女性が大声でわめき散らしている。
「・・ます!!こっちに歩いて来ます!手には凶器を持っているようです!まだ少年ですが、その顔は返り血でしょうか!真っ赤に染まっています!血みどろです!一体何が起こったと言うのでしょうか!」
-そうそう、もっと僕をアップで映して。あ、あの女の人、スマホを僕に向けてるな。それでいいんだ。
僕はテレビカメラの前に立った。
「スマホの人!!」
カメラの後方でスマホを構えていた女性がビクッと体を震わせる。
「カメラの横に来て、僕をしっかり撮ってください!マイクの人はもっと僕に近づけて、僕の声を逃さず録音してください!」
スマホの女性が慌ててカメラの横に立つ。リポーターは相変わらず訳の分からないことをわめき散らしている。
「リポーターっ!!」
「はっ!今少年が私に声を掛けました。一体何を言うのでしょうか!!少年はカメラと共にスマホとマイクを・・」
「うるさいっ!少し黙れっ!!」
「は、はぃぃ・・」
リポーターは一瞬で黙った。おそらく今、スタジオやプロデューサーからリポートを続けろって指示が飛んでいるはずだ。
-ふんっ、できるもんか、現場は大変なんだよ。
僕はカメラとスマホのレンズを見据え、声を張り上げた。
「僕の名前は黒主来斗です。あそこにいるのは、僕の父と警察の武藤刑事、僕たちは最初の3日間と次の3日間で殺し合いをしました。それは大きなニュースになった。だから皆さんも覚えていますね?」
僕はこれまでのこと、そして今起こっていることをテレビカメラの前で語った。
それは、この繰り返す3日間で起こる殺し合い、復讐のループ、死のループについてのことだ。
今、世界では同じ事が起こっている。殺された者が次の3日間で殺しに来る。その恐怖はループとなり、死の無限ループを作るのだ。
「・・・でも今、僕たちは死のループを断ち切りました、あれを見てくださいっ!」
僕が指差す先に、道路で這いつくばる3人の男を懸命に助ける正平の姿があった。そしてその先には、3人に殺された聡子の姿もある。
「あの3人は僕の母を殺しました。でも僕の父は彼らを助けようとしている。自分の妻を殺した相手なのに・・」
リポーターが、カメラマンが、スマホの女性が、息を呑んで見つめている。
僕は更に大きく、強く、声を上げる。
「あの3人は、僕を最初に殺した犯人たちの父親です。あの人たちは僕を殺しに来て、母を殺したんです。でも、僕はあの人たちを殺しませんでした」
「ただ僕は彼らに痛みを、つまり裁きを与えたんです。そしてあの人たちは僕の父によって救われます。自分の妻を殺した人たちを、僕の父は助けます」
「なぜなら父は、医者だから」
「そしてそれこそが、許し」
「繰り返すこの世界で、殺すことは無意味!その代わりに裁きを下せばいい!そして許せばいいんです!!」
僕は一息の間を置いて、少し声を落とした。
「僕はここでひとつ、予言をします。この世界にこれから起こることです。もうすぐ、明日か、今日か、次の瞬間か、この世界は滅亡します。人と人の殺し合いはすぐに大きな波紋となって、国と国との殺し合いになるんです」
もう一度、声を上げる。
「世界は滅亡します!!間違いなく、地球人類のほとんどが死んでしまうでしょう。あなたも、あなたも、あなたも、そして、あなたもです!」
僕はマスコミのスタッフを指差し、最後にカメラに人差し指を向けた。
「でも、次の3日間でみんな元に戻ります。それはもう皆さん、知っているでしょう?そのとき、この場面と僕の言葉を思い出してください。死のループは断ち切れるんです!」
「裁きと、許しによって!!」
僕はリポーターに顔を向けた。リポーターは思わず自分が持ったマイクを突き出す。
「リポーターさん、あるいはディレクター、プロデューサーさん、今撮った映像をすぐに世界に向けて発信してください。できるだけ多くの人に届くように、言語も翻訳して、いいですか?お願いしましたよ」
リポーターの女性は、僕の顔を見ながら何度も頷いた。
「では皆さんとの約束の印に、僕の覚悟もお見せします」
僕は右手に握ったカッターナイフの刃をいっぱいに伸ばし、なんの躊躇もなく、自分の心臓に突き立てた。
一瞬で霞む意識があるうちに、もう一言添えた。
「覚えておいて!!僕の名前は、クロスライトっ!また3日後、同じ時間に・・・」
リポーターの悲鳴が聞こえた。
僕の意識は消える。
クロスライト。
図らずも、英語で宣戦布告を意味する僕の名前が全世界に轟くのに、そう時間は掛からなかった。
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つづく
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