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第2話 初めての死

中学2年生の黒主来斗は、執拗ないじめに苦しんでいた。

そのいじめはついに、破局的な行動に・・・

 もう放課後になった。


 今日は一日中、あいつらの視線を感じていた。

 休み時間のたびに4人で集まって、ニヤニヤしながら僕を見ている。


 あいつらは、僕をいじめている4人組だ。

 できることならこのまま帰りたい。でも、そのときはやはり訪れる。


「おい、来斗!」


 上村の声だ。いじめグループ4人の中では一番下っ端。いつも他の3人の顔色を伺ってる弱虫。

 僕がいなければ、いじめの対象はこいつだ。


「ちょっと来いよ!」


 上村がいやらしく笑いながら話しかけてくる。


「今日は部活なしの日だろ?だから誰もいないんだ、体育館。だからさ、体育館の裏で大騒ぎしたって、だれも気が付かないんだよ」


-体育館の裏で大騒ぎ?4人で僕のことを殴りたいだけなんだろ?


 上村、とことんつまらないヤツだ。僕はそんなことを思いながら歩いた。


 体育館裏に着くと、地べたに3人が座り込んでいた。夜のコンビニによくいる連中のようだ。

 武藤、重田、岡島、そして僕を呼びに来た上村、こいつらが僕を虐めている4人。


 みんな小学校までは友達だった。


 中学に入ると、まず武藤が変わった。切れると暴れて手に負えない子供だったけど、その体が大きくなって、喧嘩が強くなって、そして恐れられて、自分が暴れれば誰も止められない、そう思い込んでいる。

 重田と岡島は、武藤をうまく担ぎ上げてでかいツラしてる。まぁこのふたりはそれなりに強いけど。

 上村は弱いから、3人に取り入って自らパシリに徹している。このグループに入ってさえいれば、他の不良連中もそうそう手を出してこないから。


 そして僕は、4人と距離を置いた。


 あいつらも最初はそんな僕をいじるだけだった。中一の子供のじゃれ合いのようなもの。でも、2年になって変わった。

 初めて金をせびられたのは、2年の夏休みの後、しばらくしてからだ。


 “来斗、千円貸してくれよ、必ず返すからさ”、だったかな。


 あいつらは当然返さない。それどころか僕は、言えば金を持ってくるやつだと思われたようだ。

 あの千円を渡さなければ良かった。今はそう思うけど、もう遅い。

 それから要求はエスカレートして、最近は1万、2万。親の財布から盗むにしても難しい額になってきた。そして、持って行かなければ殴られる。


 いつも殴る役目は上村だ。3人はそれを、にやにやしながら見ている。


「顔は殴るなよ、腹だ腹」

「そうだぞ上村、顔にダメージあると、殴ってるのがばれるからな」


 いつもそう言う。嫌な連中だ。


 殴られるのは嫌だった。だから何回かに分けて親の財布から金を盗んで、言われた額になったら渡す。そんなことをもう半年以上。

 もう要求される額は、財布に入っているお金を盗んで揃えられる額ではなくなっていた。

 それでカードを使った。もう使用通知が親のスマホに届いているだろうから、僕が使ったことはバレている。

 きっと父さんも母さんも、僕にどう言おうかと様子を見ているんだろう。


 だから今日、この状況を断ち切るんだ。

 勇気を出して、もう終わりだと、言うんだ。



 上村が無抵抗の僕を殴る。

 腹を殴られ、蹴られ、口から苦いものが飛び出した。これで終わり、いつもならそのはずだった。


 殴られる僕を、武藤はさも楽しそうに眺めている。だが、カネはもう持ってこないと言った僕のことがよほどムカついたんだろう。武藤はふいに口元を歪め、低い声を出した。


「なんか被せろ」


 上村がどこかからビニール袋を持ってきて、僕の頭に被せた。

 武藤が更に言う。


「顔も殴れ」

 冷たい言い方だ。

「お前らも殴れ」


 上村に、重田と岡島が加わった。


 そこからは痛みを感じなかった。感じるのは顔や頭に加わる衝撃だけ。

 途中から衝撃が大きくなった。きっと武藤が殴ってるんだ。固い感覚もある。バットだろうか?

 ひどく冷静に、僕はその衝撃の数と種類を考えていた。

 でも、もう駄目だ。気が遠くなる。

 もし生きていてこの後意識が戻っても、もう、なにも見えないだろう。


 眼球が破裂しているからだ。



 ドサッ、ドサッ、ドサッ。


 朦朧とした意識の中で、僕の体や、足や、顔に何かの塊が放り投げられているのを感じた。

 あぁ、僕は今、埋められているのか。いやに冷静に、僕は状況を理解した。苦しくはない。もうこれ以上感じるものはない。ただ口に、土だか泥だかが入るのがいやだった。でも、吐き出せない。


 そして僕の意識は、完全に消えた。



つづく


お読みいただいて、ありがとうございます。

毎日1話の更新を予定しています。

よろしくお願いいたします。


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