第19話 血みどろ来斗の計画
来斗を襲う3人の父親たち。彼らは重田、岡島、上村の父親だった。
たったひとりで3人を圧倒する来斗。
だが来斗には、更に大きな目的があった。
-いけない!父さんたちを闘わせちゃ!!
僕はすばやく武藤たちと3人の父親の間に割り込んで、声を張り上げた。
「この人たちは僕に用があるんです!まかせてください!殺しませんから!!」
「舐めるな!このガキぃっ!!おまえ、普通には死なせんぞ!」
上村の父親が吠える。
僕は3人の父親に向き直ると、隠し持っていたカッターナイフを取り出し、刃を1cmほど出して構えた。
「は?なんだそれは、そんなもんで大人3人を相手にする気か?」
僕は応えなかった。僕を止める父さんたちの声にも応えなかった。
すぐに動いた。まずはバールを持っている上村の父親。バールは殺傷能力が高くて危険だからだ。でも、重いバールを扱うにはかなりの腕力がいる。そこが狙い目。
上村の父親がバールを振り上げる。やっぱり、遅い。
僕はその瞬間、両腕の隙間にカッターを差し込み、右手首に刃を差し入れた。カッターの刃を1cmにしたのはこのためだ。長いとピンポイントに狙えない。それに、長いと刃が折れる。
僕のカッターナイフは、上村の父親の右手首動脈を完全に断ち切っていた。
「あぁああ・・・あふぁあーー」
右手首からどくどくと脈を打って血が流れ出る。上村の父親は情けない声を上げて傷を押さえ、必死に止血しようとしている。
-止まるもんか、それは動脈だ。ほっとけば死ぬけど、即死はしないから。
次は重田の父親だ。要領は同じだけど、こっちは鉄パイプ。バールよりは軽い。僕は狙いを付けて懐に飛び込んだ。鉄パイプの一撃を食らうけど、相手の懐で受けるなら衝撃は軽いはず。
すぐ背中に衝撃を受けた。だけど思った通り、軽い。
鉄パイプを持ち直す際、その両腕に隙が生まれる。瞬間の隙を逃さず、僕はカッターを顎の下に潜らせ、頸動脈に向けて動かした。
-頸動脈を切断してしまえばもう助からない。でも血管を掠るくらいの傷なら出血だけですむ。相当な出血ではあるけど、その方が目立つ。
僕の考えは正しかった。重田の父親は慌てて首を押さえるが、指の隙間から血が噴き出す。顔が青白い。反面、僕は返り血で真っ赤だ。
最後は岡島の父親。もう怯えた顔で後ずさりしている。逃がさない。僕を殺しに来たんだろ?
僕は岡島の父親に近づくと、おもむろに左手首の動脈を切った。
これは簡単だった。戦意がないんだから。
父さんも、武藤刑事も、安藤刑事も、何が起こったのか理解できないまま僕を見つめていた。
「とうさん」
父さんは呆然としている。目の前で再び妻を失い、息子は悪魔のような所業だ。相当なショックを受けているんだろう。
「とうさんっ!!」
「あっ!・・らいと・・来斗!お前なんてことをっ!」
「大丈夫、殺してない。とうさん、あの人たちを助けてあげて」
僕の言葉で我に返った父さんは、すぐ自分の車に走り、携帯している医療鞄を持ってきた。僕はそれを確かめると、道路にうずくまっている3人に近づく。
「おじさんたち、あれ、あれ見てよ」
僕が指差す先には、車と塀に挟まれた、母さんの遺体があった。
「僕が今すぐおじさんたちを殺したっていいんだ。でも殺さない。この3日間を苦しんで生きて、次の3日間で、かあさんに謝ってね」
「それとさ、とうさんが今からおじさんたちを助けてくれる。とうさんは外科医なんだ。この3日間を生かしてくれるんだから、後でお礼してね」
「あ、あとね、僕にもさ、次の3日間で謝ってね。許してあげるから」
僕は3人にそう告げると、立ち尽くしている武藤刑事たちの横を通り過ぎ、マスコミの方に向かって歩いた。
なるべくゆっくりと、返り血を受けて真っ赤に染まった僕の顔がよく見えるようにだ。
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つづく
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